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122 話がそれてしまった

 大型モニターに映し出された映像が王都上空からのものに切り替えられた。

 無人島と違って見覚えのある方が飛んでいることを実感しやすいだろうと判断してのことである。


「これはっ……!?」


「王都を偵察させているゴーレムから送られてきた現在の映像です。これで空を飛ぶことは不可能でないと証明できるかと」


 レイチェル殿下はしばし絶句していたけど……


「お城は!? 城内はどうなっているのっ?」


 我に返った直後の言葉がこれだ。

 これは移住のための航空輸送から話がそれてしまいそうな雰囲気が漂ってきたね。


 でも、仕方ないか。

 城を含め王都がどうなっているか聞かされていたとはいえ王城の中を確認したくなるのは当然のことだろう。

 自分の家だもんな。


 もしかしたら家族がいるかもという思いを抱いてしまったとしても無理からぬこと。

 自分の目で確かめるまでは家族がすでに亡き者にされていることを受け入れられない気持ちは分からなくもない。

 たとえ城内にはアンデッドしかいないと知らされていたとしても、ね。


「御覧になる覚悟はありますか」


 事前情報なしだと覚悟を問うことすら躊躇ったかもしれない。

 けれども父や姉から現状を聞かされているにもかかわらず見たいと望むのであれば俺に止める権利などないだろう。

 それによって結果が悲劇的なものになる恐れがあるとしても。


「あります」


 それは静かな声ではあったが、ハッキリと聞こえる強い意志が込められた言葉であった。


「分かりました」


 返事をした俺はリモコンのボタンを押して映像を王都上空から城内のものへと切り替える。

 そうして映し出されたのはいくつかに分割された画面だ。

 いきなりアンデッドが画面いっぱいに映し出されてもショックが大きすぎるだろうからね。


 それでもレイチェル殿下は息をのんでいたけれど。

 見慣れているであろうお城の中と異なって閑散としているから無理もないか。

 どこもかしこも人気がない。

 動くものは巡回しているわずかなアンデッドだけ。


「あれは……、人ではないのよね」


 そう言いながら画面を指差す殿下。

 よく見ればカタカタと小刻みに震えている。


「大きくしますね」


 指差された映像を選択してモニター画面の4分の1ほどまでに拡大させた。

 残りの分割映像は小さくなったが選択した映像を目一杯に表示させるとインパクトが強すぎるからね。


「っ!!」


 案の定、アンデッドが王城内を徘徊するように巡回している姿を見た殿下が一瞬で表情を強張らせていた。

 それでもレイチェル殿下は視線をそらさない。

 現実逃避することなく気丈に振る舞おうとしているのだ。


「次はこちらを大きくしてください」


 再び指差して指示してきた殿下の言葉に従い拡大映像を切り替える。

 小さい分割映像では人影に見えたそれもアンデッドであるのは言うまでもない。

 一瞬、表情を歪ませた殿下であったが唇を噛んで耐えていた。

 とても声をかけられたものではない。


 その後も指示通りに画面を切り替えていった。

 時には偵察用のゴーレムを移動させながら城内を見て回ることもしたけれど結果は何も変わらない。

 生きた人間は1人として存在せず、いるのは動く死体ばかり。

 それでも殿下は歯を食いしばって画面を見続けていた。


「もう、いいでしょう」


 そう言ったのはアルブレヒトである。


「それとも御自身の目で確かめに行かれますか」


「正気ですか、大臣!?」


 我が父の言葉に過敏とも言えるほどの反応を見せたのはオリビア・エルブレインであった。

 見習いとはいえ今や最後の近衛騎士である。

 この反応はむしろ当然か。


「姫様を魔物しかいない危険な場所に赴かせるなど護国大臣の言葉とも思えません!」


 オリビアが強く抗議するもアルブレヒトの表情は何ひとつ変わらなかった。

 反論もしない。

 ただただレイチェル殿下に視線を向けるのみ。

 その瞳に苦渋に満ちた色が宿っていることに気付いたオリビアは何も言えなくなった。

 何を意図しての発言であるのかを読み切ることができたかは不明だけれど。


 おそらく父は、あえてああ言うことでレイチェル殿下に己の立場を思い出させるように仕向けたのだろう。

 己が最後の王族であることを強く自覚してくれれば冷徹な判断ができるようになると踏んで。


 そこに情の挟まる余地はない。

 故にその判断と決断は後々まで殿下を責めさいなむことになるだろう。

 ただ、先々のことを考えねばならない今だけは思い出す余裕も少なく深手になりづらくはある。

 有り体に言ってしまえば、その場しのぎだが仕方あるまい。


「今ここから動くのは得策ではありませんね」


 殿下は沈痛な面持ちで諦めの言葉を口にした。


「このままでは王都の民が犠牲になるのは時間の問題かもしれませんが」


 断腸の思いはあるはずだが、王族であるレイチェル殿下が王都に向かえば己の存在を誇示するも同然である。

 結果としてより多くの民が巻き込まれてしまうかもしれないと考え自重したのであろうことは想像に難くない。


 何でもかんでも自分1人で背負い込もうとしすぎているよね。

 今までの前世で何人も同じような人を見てきたけど自滅しやすいんだよなぁ。

 周囲に助けられたり自分で気付いて方針や考え方を切り替えたことで破滅を回避した者もいたけどさ。


 このお姫様にそれができるかというと難しいところだ。

 彼女の現状だと周囲の助けは国家規模で必要になりそうだし。

 気づきに関しては自力では厳しいだろう。

 若すぎて人生経験が乏しいからなぁ。


 しかも誰かが指摘したところで、その考えを受け入れられるかは別問題。

 殿下は合理的な判断よりも自分がなんとかせねばという義務感を優先してしまう気がする。

 絶対とは言わないけど今の思い詰めた口ぶりからするとね。


 特に見た目が幼い子供の俺が何か言ったところで耳を貸してもらえまい。

 数多の前世で経験してきた知見を元にしているなんて言えないし。

 言ってみたところでホラだと思われるのがオチだ。


 よってレイチェル殿下のケアは父に任せることにする。

 それが最適解のはず……たぶん。

 たとえそうでなかったとしても俺では解決できない問題であることに違いはない。

 父が対応してダメなら、その時に考えよう。それがいい。


 今、俺がすべきは空を飛ぶ手段についての話に戻ることだ。

 とはいえ、この状態からいきなりでは気持ちを切り替えて聞いてもらえるか怪しいところだ。

 上の空じゃ意味がない訳だし。


 そんな訳で日を改めて話をすることにした。

 どうせなら実機も用意した方がいいと思うんだよね。


 ただ、最初にお披露目するものを本番用の大型機にするのは問題がある。

 いきなり大型旅客機並みのものを短時間で造り上げてしまうと何も知らないレイチェル殿下が卒倒しかねない。

 父や姉ですら固まらせてしまう自信がある。

 何の自慢にもならないけどさ。


 そんな訳で試作機として数十人程度までの輸送力を持つ輸送機を作ることにする。

 前世で言えば自衛隊などで使われている双発の輸送ヘリくらいか。

 確かあれって全長が大型バスの倍以上あった気がするんだけど……

 うん、デカすぎだ。自重しよう。


 魔法メインで空を飛ぶんだから積載量を変えずにコンパクトにすることは可能なはず。

 中型バスより少し大きい程度かな。

 それくらいなら威圧感もさほどではないだろう。

 窮屈にならないよう少し幅広にするくらいは許されると思いたい。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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