121 移動手段としては突拍子もないらしい
レイチェル殿下を初めとする客人たち3名の瞳に浮かぶのは懐疑の色だ。
一方で俺の隣に立つ父アルブレヒトは目を見開いて驚きをあらわにしている。
ただ、両者ともに「何を言い出すのか!?」と俺を問い詰めたくなっているであろうことだけは間違いなさそうな空気を醸し出していた。
「違った未来とはどういうことですか?」
いち早く冷静さを取り戻した殿下が問いかけてきた。
その表情は強張っているように見受けられる。
国ごと逃げ出すことなど不可能だと諦めをにじませつつも双眸からは光が失われていない。
何かに期待する感じと言うよりは何でもいいからすがりたいといった必死さがあるような気がした。
「さすがに一国丸ごと移住するのは無理ですが──」
生まれ育った場所から離れられない者は一定数いるはずだから、これは無理からぬことだ。
ただ、これは王族の中で唯一の生き残りである殿下の求心力しだいとも言えるか。
特に貴族は離反する者が大半だと思われる。
そうなると、その貴族が支配する領地の民も来づらくなるだろうし。
何らかの締め付けが行われることだって無いとは言えない。
「──殿下に従う臣民を連れて新天地に移住することは可能ですよ」
「あり得ません。何処にそんな場所があるというのですか」
聞いた自分がバカだったと言いたげな失望感あふれる渋面を浮かべながら頭を振る殿下。
「何処と言われますと知る者が限られておりますので詳細を説明するのは難しいですが、簡単に言えば遙か遠くの南の島ということになります」
俺と姉エレオノーラがバカ兄ガルフに強制転移させられた、あの島である。
実はゲートの魔法で何度も行き来して何かあればいつでもトンズラできるように調査を進めていたのだ。
まあ、俺が1人で逃げるならともかく今すぐ移住できるような状態ではないんだけどね。
「南の島……」
「姫様、そのような戯言に耳を貸されてはいけません」
専属侍女のアンナ・シェフィールドが殿下をいさめる。
「南の島など、どうやって渡るというのです。我が国は北側にしか海とつながっていないのですよ。子供の戯言に決まっています」
常識的な意見なので腹は立たないが、信じてもらわないことには話を進められない。
「では、これを御覧いただきましょうか」
ストレージの魔法を使って大型のモニターを引っ張り出す。
「「「なっ!?」」」
あ、殿下たちがギョッとした表情で固まってる。
魔法はあっても手品はないこちらの世界では、何もないところから物を出すのはインパクトが強すぎたみたい。
父や姉や姉に見せた時はそこまでの反応ではなかったので油断していた。
「シド……」
残念な息子を見る目を向けられてしまいましたよ。
「いやあ、すみませんねえ。これは空間系の魔法を使った収納術です」
軽い調子で謝罪しつつ説明はしてみたものの誰も復帰してくる気配がない。
呆然としており聞こえているのかいないのかすら分からない様子である。
そんなにインパクトが強かったのかと、こちらも驚かされたよ。
まあ、向こうさんほどではないけどね。
いずれにせよ、これはしばらく待つしかなさそうである。
ただ待つだけというのも芸がないので大型モニターに開拓予定の島の現在のライブ映像を流しておく。
「シド、これが例の南の島なのか?」
最初に食いついたのは父であるのは言うまでもない。
「ええ、そうです。ちょっとおかしなところはありますけどね」
「おかしなところだと?」
怪訝な表情をしながらもアルブレヒトはモニターを凝視している。
「こうして上空から見ているとさほど大きな島には見えないかもしれませんが実際はずっと広いんですよ」
侵入者対策で何らかの魔法が使われているのだろうか。
それなら完全に見えないようにした方が誰にも発見されずにすむと思うのだが、なにかしらの事情があるのだろう。
今のところは、それが何かと問われても答えようがないのだけど。
「測量まで始めているのか」
父は呆れ気味にそう漏らした。
「せっかく発見できた土地を無駄に遊ばせておくのは勿体ないじゃないですか。上手くいけば、うちの領の食料生産問題も解決できるかもしれないんですよ」
「それは移住できればの話であろう。大勢での転移には莫大な魔力を必要とするはずだが、そのことを忘れているのではあるまいな」
「別に転移する必要はありませんよ。場所は特定できましたから別の移動手段を確保すれば良いだけです」
「別の移動手段だと?」
「ええ。大量輸送に向いているものを用意するつもりです」
「大型船ならば可能かもしれないが、我が領に海はないのだぞ」
「誰が海路で行くと言いましたか?」
「何っ?」
「船なんか使ってたら島に到着するまでにどれだけ時間がかかることやら。数ヶ月で着けば早い方でしょうね」
「だが、陸路で行くのは不可能だろう」
「島ですからね。でも、空を飛べば問題ありません」
俺がそう言うとアルブレヒトは絶句した。
唖然としたというよりは理解が追いついていかなくてフリーズしてしまった感じだろうか。
こちらの世界の人間には空を飛ぶというのは非常識極まりなかったようだ。
宙に浮く魔法ですらレアなのに自在に飛ぶ魔法となると夢物語と思われているような有様だからね。
それでも未だにフリーズしたままのお姫様たちとは違って父はじきに復帰してきた。
「偵察に出しているゴーレムの母艦を大型化させるつもりか」
さすがは父。察しがいい。
「そんなところです。輸送用にアレンジするので見た目はそのまんまじゃないですけどね」
「お前……」
平然と答えた俺に父は唖然としている。
「あれを人を運べるほど大きくさせるなど正気の沙汰ではないぞ」
「海を行き来する船とさほど変わらないサイズにするつもりですが?」
「あれは水に浮くものだ。空は飛ばん」
「魔道具化させれば船も飛ばせられますよ」
父は完全に呆れてしまったようで何も言わなくなってしまった。
別に論破したかった訳ではないんだけどな。
「ちょっといいかしら」
入れ替わるようにして話しかけてきたのはレイチェル殿下であった。
ようやく復帰してきたか。
「何でしょうか、殿下」
「いきなりこんな大きなものが出てきたように見えたのだけど」
「これは空間魔法のストレージ亜空間に収納していたものです。前もってお知らせしなかったことお詫び申し上げます」
俺の返答に殿下は驚きに目を見張りながらも納得したようでしきりにうなずいていた。
「詫びるほどのことではないわ。それよりも、これは魔道具よね。知らない場所が映し出されているわ」
「それが先程言っていた南の島です」
「これが……」
呆然としかけた殿下だったが、すぐ我に返った。
「もうひとつ聞きたいことがあるの」
「はい。何なりと」
「空を飛んで人を運ぶと聞こえたのだけど気のせいかしら」
信じられないと言いたげなように見受けられる。
何も知らなきゃ無理からぬ反応だろう。
「いえ、気のせいではありませんよ」
言葉だけでは信じてもらえないことも考慮しフロートの魔法を使って浮いてみせる。
上級に分類される魔法だから誰にでも使える訳ではないけれど、それについては黙っておく。
「それは貴方が天才的な魔法使いだからでしょう。活躍ぶりは聞かせてもらいましたよ」
殿下は俺が浮いたことに驚きを見せたものの誤解はしてくれなかった。
あと、活躍については脚色もされてそうだし聞かない方が心穏やかでいられそうな気がする。
「そうでもありません」
俺は言いながらリモコンのボタンを操作した。
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