115 父と姉、王都の現状を知る
「なんだ、これはっ!?」
ゴーレムから送られてきた映像に愕然とする父アルブレヒト。
王城の中をよく知るからこそ即座に状況の異常さに目を奪われたようだ。
エレオノーラは馴染みのない場所に困惑しつつも、ただ事ではない様子に言葉を失っていた。
「なんだと言われても、王都方面にゴーレムを飛ばして城の中に潜入させた結果の映像ですよ」
そこでエレオノーラもこの動画の場所が王城内であることを察して息をのむ。
「それとも父さんは僕が間違えて王都ではない所のお城にゴーレムを送り込んでしまったとでも言うつもりですか?」
「そこまでは言ってないぞ。だが、外の様子を確認してみたくはあるな」
だろうな。城内がこれでは普通は外が無事だとは思えまい。
「いいですよ。じゃあ外の映像に切り替えますね」
了承してすぐリモコンのボタンを押した。
「これは?」
真っ先に聞こえたのは父の疑問の声であった。
切り替えた映像が上空からの俯瞰したものだったからだろう。
王城よりずっと高い空から見下ろした眺めでは見慣れていないのも無理はない。
「空から見た王都ですよ」
「空だと!? ゴーレムが鳥のように空を飛ぶというのか」
俺の言葉にアルブレヒトは驚愕している。
そんなに驚くようなことだろうか。
軽い素材を用い鳥の構造を真似すれば簡単に空飛ぶゴーレムが作れるのだが。
もちろん飛行機でも可である。
もっとも、いま王城の上空に待機させているのは、そのどちらでもない。
「ゴーレムだってフロートの魔法を使えば浮かせられますよ」
こうすれば形や重量など関係なく空を飛ばせることができる。
「これは偵察用の小型ゴーレムを搭載する航空母艦タイプのゴーレムなんですよ。略して空母ゴーレムです」
しばし沈黙の間が訪れる。
父も姉も押し寄せるショックの波を受け止め切れず心の防波堤が決壊したのか呆然としている。
こういう反応をされるとは思ってもみなかった。
あ、俺またなんかやっちゃいましたか? の気分だよ。
「小型ゴーレムじゃ稼働時間に問題があったので、それを解決するために用意したものです。でも、単に母艦として使うだけじゃもったいないですからね」
聞いているかどうかは不明だけど手持ち無沙汰なので説明しておく。
後で耳に残っていれば儲けものくらいの感覚なので再び説明することになってもしょうがない。
ちなみに空母ゴーレムの形状は宇宙な世紀に出てくる軍艦をパク……参考にした。
中に搭載する小型ゴーレムのデザインも同様に人型兵器を模倣したのは言うまでもない。
円盤形の飛行形態に変形するタイプが今回の任務に打って付けだったのだ。
リフティングボディで飛行すれば魔力の消費効率も良くなるし移動速度も上がるからね。
それなら人型に変形する必要性はあるのかとツッコミを入れられそうだけど、野暮なことを言ってはいけない。
変形はロマンであり万難を排しても貫くべきものなのである。
あとサイズ的には宇宙な世紀のプラモデルでもっとも売られている縮尺の半分近くにした。
8センチ弱といったところか。
変形させなければ、もう少し小さくできたんだけど。
……脱線してしまったな。
だが、ちょうど父と姉の目に光が戻ってきたようだ。
「まったく、いつの間にこんなものを作っていたのか」
疲れ切った顔で嘆息するアルブレヒト。
「前々から密かに試作は重ねていたんですけどね」
ということにしておく。
でないと再び意識を飛ばされかねないからね。
「今回の件で使えそうだと思って急ピッチで使えるように仕上げたんですよ」
再び嘆息するアルブレヒト。
今度はエレオノーラもそれに続く。
「まあ、いいわ。それは置いておきましょうよ、父さん」
「そうだな。シドに常識を求めても切りがないか」
何か酷い言われようだ。解せぬ。
「それよりも、王都の状況を知りたい」
「じゃあ拡大しますね」
リモコンを操作して等倍だった監視映像を拡大していく。
「これは……」
「凄まじいわね。降下した訳じゃないのよね」
「ええ。方法については説明を省かせてもらいますが映像が大きく見えるように拡大しました」
「いいわよ。聞いてもたぶん分からないわ」
そこまでのものじゃないんだけどなぁ。
魔法で望遠レンズを再現しているだけだから。
ただ、この世界には虫眼鏡のようなものすら存在しないみたいなので説明が長くなりそうだと判断して説明を略した訳だ。
「妙だな。王都はいつも通りなように見えるぞ」
「王城を武力で制圧したのではないことの証左ではないでしょうか」
「なにっ」
アルブレヒトは驚きをあらわにするが大きな声だけは出さないようどうにか自制していた。
もっとも、答えを探り当てるほどの余裕はないらしく渋い顔をして考え込んでいる。
「城内で仕事をする役職にある者が実は敵であったならどうです?」
「間者がまぎれ込んでいたということか。だとしても何ができる」
城内のセキュリティチェックはそんなに甘いものではないと父は言いたいようだけど。
「姫様専属の近衛騎士をアンデッドに変えてしまいましたよ」
「なるほど、そういうことね。それなら確かに武力を用いず王城の中を制圧することも可能よね」
王城内で何があったのかエレオノーラはいち早く気付いたようだ。
「まさか……」
アルブレヒトも同じ答えを導き出したものの実際に起きたことだと考えるのには抵抗がある様子だ。
最初から頭の中にはあったのかもしれないけど認めたくないが故に無意識のうちに除外していたと見るべきかな。
「不敬ではあるが城の奥を確かめねばなるまいな」
城の奥、すなわち王族の居住区画である。
城内に人気がなくアンデッドがいるという状況だけでは諦めがつかないのだろう。
「奥ですか?」
「そうだ。国王陛下たちが籠城しているかもしれんからな」
普通に考えれば絶望的なんだけどね。
「では、映像を城内の各所に切り替えますね」
「なにっ?」
各所という単語に反応した父をスルーして俺はモニターの映像を分割表示させた。
「小さい分、細かな部分は確認しづらいですが城の隅々まで確認できるかと」
空母──モデルにしたオリジナルの方は重巡洋艦だけど──を用意したのだから搭載機は複数確保してある。
使い魔だとこうはいかない。
複数召喚して遠隔地まで送り込むだけでも魔力の消費が大きいのに、現場で偵察までさせたんじゃ……ね。
ゴーレムだって魔力は消費するけど、使い魔と違ってリンクする必要はないし中継させれば映像の送信に消費する魔力もかなり圧縮できる。
しかも空母の方は太陽光から発電ならぬ発魔できるようにしているため半永久的に稼働可能だ。
偵察用の小型ゴーレムたちの母艦として魔力の補給もするからこれくらいはしないとね。
「呆れたわね。すでに隅々まで偵察済みなんじゃない」
「試作品ですからね。一通りの確認はしますよ」
遠距離の映像を送受信するのは初めてだから問題が発生しないという保証は何処にもなかった。
そんなことで、やきもきするのは避けたいからね。
不具合は発生しなかったので杞憂だったと言えるのかもしれないけど。
なお、エレオノーラには呆れられたが、アルブレヒトはそんなことを気にすることもなく身を乗り出し画面に釘付けになっている。
目を皿にして生存者を探しているようだけど、それは叶わぬ夢というもの。
どれだけ時間をかけても動きがあるものはアンデッドだけであった。
「全員、アンデッドにされてしまったということか」
「結論を出すのはまだ早いわ。離宮に逃げた王族の方がいるかも……」
父の落胆ぶりにエレオノーラがフォローしようと試みるも、その可能性は極めて薄いことを自覚している口ぶりだ。
「確認はすべきだが絶望的だろう。王族が逃げたなら騒ぎにならないはずがない」
ですよね。
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