114 ようやく本題
今まで分かりやすいようにと異世界については論理的な説明に終始していたけど、これで最後にするならダメ元でアプローチを変えるのもありか。
そうなるとイメージ主体で漠然とした話になりそうだ。
共有しやすいイメージはすべて向こうの世界のアニメとかだからどうしようもなくて避けていたんだけど。
なるべく、そういうのに近いのを引き合いに出すしかないだろう。
「父さんも姉さんも英雄譚の物語を読んだり聞かされたことくらいはあるでしょう」
2人がうなずく。
ここで否定されるとほぼ詰みだったが、さすがにそれは回避できたようだ。
離れに書庫があるだけのことはある。
「幻獣と妖精の騎士とか天の島の冒険なんかは誰でも知っているくらい有名でしょ」
俺も知っているはずだと言外に匂わすような口ぶりのエレオノーラ。
確かに先代の記憶に残っているけど説明を先に進めたいので脱線しないよう注意しないと。
「それらの舞台は何処にあるんでしょうね」
「おとぎ話なんだから実在するはずがないでしょう」
さも当然と言わんばかりにエレオノーラが言った。
「もし、それらが実在したらどうです?」
「無茶言わないでよ」
エレオノーラは俺の問いかけに苦笑する。
が、父アルブレヒトは口をはさむことはしないものの真顔で聞いていた。
「そんなものは誰かの空想の産物よ。架空の場所に決まっているじゃない」
「本当に?」
「現実的ではないわよ。そんなものが実在するなんて荒唐無稽すぎるわ」
「どうしてそんなことが言えるんです?」
「だって誰も行けない場所よ」
「行けないから存在しないなんてことにはなりませんよ。太陽は空にあるのに誰も近づけませんよね」
「確かに太陽にたどり着くことはできないな」
面白そうに笑みを浮かべながらアルブレヒトが言った。
「そして物語の中にも行けない。それでも息づく人々はいる、か」
どうやら父は柔軟な思考をしているようだ。
一方で姉はというと……
「無茶苦茶じゃない、父さん。架空の話なんだから生きている訳ないでしょ」
「では聞くが、我々のことが何処かで物語として語られていないと言えるかな?」
「当然よ。私たちのことなんてお話にしても面白いはずがないじゃない」
「だが、誰かがこの世界の何処かで英雄譚になるような活躍をしているかもしれんぞ」
「だとしても私たちは、その物語に出てくることはないわよ」
「同じようなことは幻獣と妖精の騎士なんかでも言えるんじゃないのか。物語と関わりのない人々の営みは語られることはないだろう」
「それはそうだけど……」
「もしかすると我々の世界の英雄譚が何処かで本になっているかもしれないぞ」
アルブレヒトは楽しそうに語っている。
割とこういう話に慣れ親しみやすいようだ。
「まさか。そんなことあり得ないわ」
エレオノーラの方は何処までも現実的な考え方をしているみたいだね。
「姉さん、もっと柔軟に考えましょうよ。かもしれないという仮定の話ですよ」
「そうだけど」
仮定の話であることは認めながらも合点がいかないと不服そうな顔をしている姉である。
「じゃあ、こう考えましょうよ。幻獣と妖精の騎士とか天の島の冒険はそれぞれ別の物語、つまり異なる世界が舞台になっている」
「そうね」
「互いのことは物語として知っているかもしれないけれど行き来はできない」
「当然よ。どちらも架空の話なんだから」
「そこはどちらも現実だと仮定して考えてくださいよ」
「あー、もうっ。分かったわよ。たとえ話だって言うんでしょ」
「そうです」
どうやらエレオノーラは理屈では理解しているものの根付いた常識が受け入れることを拒んでいるようだ。
ならば、性急に説明を続けたところで反発を生むだけか。
今はこれで充分だと思うべきなんだろうな。
アルブレヒトは問題なく受け入れてくれたわけだし。
ただ、よくよく考えるとタッちゃんの紹介をして認めてもらうのに異世界の説明を前提にする必要があったかなという……
今までの労力を思うと虚しくなってくるので考えるのはよそう。
この数日の間にタッちゃんの紹介はできたし俺が契約を結んでいるから害はないだろうということで送還せずに済んだ。
もっとも、送還することになったとしても本当に召喚したわけじゃないから送り返すことはできないんだけどさ。
一応は追及されたんだよね。
そんなに魔力が必要になるほど何をしようとしていたのかって。
「いやぁ、色々とあるんですよ」
言いながらハハハと笑ってみたけど、もちろん誤魔化されてはくれなかったですよ。
「最初に実行しようと思っていたのは王城の偵察ですよ。距離がありますし隠蔽しながら長時間の監視をするとなると湯水のように魔力を使ってしまいそうでしたから」
「そんなことを考えていたのか」
「相変わらず無茶なことを考えるわね」
父にも姉にも呆れられてしまった。
「まあ、僕がここから王城を覗き見るのはどう考えても現実的ではないので別の方法に切り替えましたけど」
「「偵察はするのかっ!」」
はい、息もピッタリな親子ツッコミいただきました。
2人ともリスタがいるということを失念しているな。
いや、今は俺のそばで黒猫に変化して座っているからリスタが偵察するという発想は出てこなかったのか。
「しましたよ。嫌な予感がしたので」
「どうやってだ?」
「嫌な予感ですって?」
先程のツッコミと違って引っ掛かったポイントは異なるようだ。
「新しいゴーレムを作ってそれを派遣しました」
アルブレヒトの質問には答えた。
エレオノーラの方はスルーしておく。
どうせ記録映像を見せれば俺の言いたかったことが嫌でもわかるからね。
「新しいゴーレムだと!?」
アルブレヒトは驚きをあらわにしているがエレオノーラの方は何か思い当たる節があるのか眉ひとつ動かさない。
「そんな大きなものでは偵察もままならないだろう」
「勘違いしていますよ、父さん」
「どういうことだ?」
「模型自動車を走らせたときのことを思い出してください」
この言葉で失念していたことを思い出したようで父はハッとした表情を浮かべた。
「あの小さな人形型のゴーレムか」
モニターを通じて人形の視界を体感したことを思い出してくれたようだ。
「そのものではありませんけどね」
「改良型ということか」
「共通点はサイズくらいのものですが」
そう言うと、アルブレヒトは言葉を失っていた。
どれほどの改良を施したのかと想像を巡らせながらも呆れているといったところか。
エレオノーラはそこまで気付いていたが故に端から呆れていたみたいだけど。
「ちなみに新型ゴーレムを作った意味は無かったかもしれません」
「なんだと!? どういう意味だ?」
椅子から立ち上がらんばかりの驚きようを見せるアルブレヒト。
過剰反応……とは言い切れないのか。
王城で何かが起きているであろうことを予測できているからこそなんだろうし。
「それは僕の口から説明するより実際に見た方がいいでしょうね」
もぬけの殻状態であるばかりかアンデッドが巡回していると聞かされても信じられないだろうし。
見ても結果は同じかもしれないけど。
偽物だの何だのと言われてしまう恐れは充分にある。
そうなった時は王城へ連れて行くしかないかもしれない。
できればそうなって欲しくはないところだけど、果たしてどうなることやら……
読んでくれてありがとう。
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