112 問題は他にもある
タッちゃんが龍として復活した。
それによりアンデッドドラゴンを復活させる儀式魔法の影響はいずれなくなる。
悪霊も発生せずめでたしめでたし……とはいかない。
「新しい体に馴染んだみたいだね」
「うむ。魂が抜けてしまうことはなくなったぞ」
タッちゃんは上機嫌だけどね。
こちらの都合など知らない訳だし無理もない。
「どうした、シドよ。具合でも悪いのか?」
タッちゃんにも気付かれるほど顔に出ていたようだ。
「今のタッちゃんだと人間の間では新種の魔物だと思われそうなのが、ね」
「む。言われてみればそうか。何もしなくても討伐対象にされてしまうかもしれんな」
「そうなった時に余裕で撃退できればいいんだけど今はこのサイズだからさ」
ノーサムが頑丈にリメイクしたとは言っているけど、それだけでは傷つかないだけで襲ってきた者を追い払えない。
圧倒するだけのパワーも巨躯もないからね。
ドラゴンだと思われていないから心理的な抑止力も発生しない。
「敵対する相手への対抗手段は魔法に限定されてしまうということか。そう簡単にやられはせぬと言いたいところだが」
タッちゃんなら魔法で軽くあしらうことはできるだろう。
ドラゴンとしては極小サイズになったとはいえ魔力が減少したわけではない。
使える魔法も限定されるということはないはずだ。
加減を少しでも間違えると簡単に死人が出てしまうのは目に見えている。
そうなれば珍しい魔物として執拗に狙われかねない。
「面倒なことになるのは間違いないよね」
「それならシドくんが召喚して使い魔にしたってことにするのはどうだい?」
しばし黙って聞いていたノーサムが口を挟んできた。
「嘘も方便って言うだろう?」
問いかけながらウィンクするノーサム。
似合ってないとは言わないが地味にイラッとする仕草だ。
「それは向こうの世界のことわざだよ。タッちゃんには分からないだろ」
タッちゃんにはデュプリケートメモリの魔法は使ったけど、そういう細かな記憶までコピーした覚えはないからね。
「いや、我にも分かるぞ」
「そうなのか!?」
「何故か知っていた。知っていたが、これはどういうことだ?」
タッちゃんが困惑している。
慣用句としてもこの世界には存在しなかったことを知っているのはおかしいもんね。
「あー、それは驚くようなことじゃないよ」
ノーサムは何か事情を知っているらしい。
タッちゃんの新ボディを作ったんだから当然と言えば当然か。
「龍の体を用意した時に向こうの世界の知識もあれこれとインストールしたからね」
そういうことか。
ということは……
「最初から、そのつもりだったな」
「でないとシドくんも周りを誤魔化すのが大変だろう?」
そう言われると悔しいが何も言い返せない。
「そりゃあ助かる。ありがとう」
癪だが礼も言っておく。
「感謝する」
タッちゃんも俺に続いた。
「いやいや、どういたしまして」
余裕の表情で受けているノーサムには腹が立つけどありがたく思ったのは間違いない。
少しくらい殊勝な顔をしてくれても……
いや、相手はチャラい態度が標準のノーサムだ。
表面だけ真面目そうな表情を取り繕われても内面が透けて見えてムカつきそうな気がする。
「それにしても使い魔というのは良いな」
タッちゃんは気にならないらしい。
俺も早々に切り替えた方が余計なストレスを溜めずにすむかな。
ただ、そんなに良い提案だったかなとは思う。
タッちゃんの立場からすれば事情を誤魔化すことに俺ほどのメリットは感じられなさそうなんだけど。
「そうかい?」
「シドと一緒にいられるではないか」
なるほど。そういうことか。
自由よりも俺と一緒にいることを選んでくれるとは光栄なことだ。
「それは俺も同感だね」
この世界に来て初めての友達だから。
事情を知る者がいればリスタの方が先だとツッコミを入れられそうだけど、相棒は友達のくくりには入らない気がするのでノーカンだ。
問題があるとすれば使い魔を友達と言えるかということ。
その懸念を聞いてみたところ……
「そんなのは有益な使い魔を召喚したら思いのほか意気投合できたから友情の証しとして契約したということにすれば問題ナッシングゥ?」
タッちゃんが答える前にノーサムが軽薄な感じで口を挟んできた。
聞きながらサムズアップまでしてきて、またもイラッとしたけど提案自体は採用に値する。
肉付けを間違えなければ家族に怪しまれることはないと思う。
「そのアイデア、使わせてもらうよ。ありがとう」
本当のことを言えないというのは苦労させられるよ。
「いやいや、どういたしまして」
俺が礼を言うとノーサムは鼻高々にうなずいた。
何だろうね。ありがたいのにありがたくないという複雑な気分だ。
が、いつまでも引きずっているわけにはいかない。
まだ解決しなきゃならない問題はあるし時間は限られている。
気持ちを切り替えないと。
「後は外の状況をどうするかなんだけど」
タッちゃんがこちらに飛び込んでくる際に大きな地震となったため壊滅的な状態になってはいるのだけど。
俺がこの場にいないことになっている以上、救助活動などできるものではない。
そもそも侵略しようとしている敵国の軍隊だし。
「放置して帰るしかないか……」
俺がここにいないことになっている以上は他にどうしようもないもんな。
父さんや姉さんに説明しなきゃならないことを増やしてどうすんだって話もある訳だし。
その時はそう思っていたのだけれど、実はここがターニングポイントだったのである。
今の俺には知る由もないことであった。
「何かしないといけない気がしているんだね」
俺が迷いを見せているのを見て取ったノーサムに指摘される。
「それな。何故か引っ掛かるんだよ。離宮の修繕をするくらいしか思いつかないぞ」
自分で言っておいて何だが、そういうことではない。
引っ掛かるというのは違わないんだけど何をしていいのか分からない。
だからモヤモヤを感じながらも何か行動を起こすことはなかった。
ただ、己の感覚を信じて調査だけでもしていれば違った未来があったかもね。
もっとも、ノーサムと違って異変を感知できていない俺にその判断はできなかった。
さっさと帰って寝てしまいたいという欲求が思考を鈍らせたとは思うが言い訳にもならない。
「修繕なんて余計にややこしいことになりそうだけど?」
ノーサムの言う通りだが、じゃあどうしろというのか。
向こうは世界の管理者だから俺の感じた引っかかりの正体に気付いているだろう。
だが、それを問うことはできない。
本来であれば現状でも俺に肩入れしすぎなのだから。
「今日のところは大人しく帰るか」
何日か後であれば誤魔化す方法も用意できるのだし。
自分にそう言い聞かせ、どうにかざわめく心を落ち着かせる。
それはそれで説明しなきゃならないことが追加されるんだけど。
頭の痛い話だ。
まだ目覚めていないお姫様に、敵国の陰謀で王族の生き残りはいませんなんて聞かせたらどうなることやら。
お姫様の人となりを知らないから何とも言えないけど少なからずショックは受けるはずだ。
しかもアンデッドにされていたなど追い打ちするような情報もある。
最悪の場合は心が折れて再起不能なんてことになりかねない。
そこまでいかなくても精神的な負荷にさいなまれることだけは確かだ。
だからと言って事実を告げないという選択肢はない。
沈黙は事態を悪化させることになるだろうからね。
予感というか、前世の経験に基づく予測みたいなものだ。
キツいけど踏ん張りどころかな。
読んでくれてありがとう。
ブックマークと評価よろしくお願いします。




