111 ドラゴンじゃないけどドラゴン
『ん? どういうことだ?』
タッちゃんが喋ったと思ったら念話に切り替わった。
チビ黒竜は片足を踏み出しかけたポーズで固まっている。
まるで動画再生中に一時停止したかのようだ。
「はいはい、中に戻ってねー」
ノーサムがにこやかな表情で黒竜の少し先を見ながら言った。
『う、うむ。わかった」
素直に従ったタッちゃんの返事が念話から途中で声に切り替わる。
「これはどういうことなのだ?』
今度は翼をはためかせかけたところで声から念話へと変わってしまった。
『新しい体があっても満足に動けぬのでは意味がないではないか。我は置物ではないぞ」
黒竜の体に戻りながらタッちゃんは文句を言っている。
気持ちは分からなくもない。
拘束されて身動き取れないのとは真逆の理由で動くに動けないのは物凄くもどかしいはずだ。
置物ではないと主張していることからも間違いあるまい。
「ゴメンゴメン。ちゃんと定着させるためには少し時間がかかるみたいだねえ」
「なにっ?」
驚きをあらわにしたタッちゃんだが今度は体の外には出てしまうようなことはなかったようだ。
移動しようとしなければ、はみ出してしまうようなことはないらしい。
「あれだよ。タッちゃんの新しいボディはかなり凝縮させて作ったから魂とシンクロしづらいんだ」
「タッちゃんの魂と体の適合率が低いということか?」
俺が疑問を投げかけるがノーサムは頭を振って否定する。
「適合率が低いとそもそも中に入ることはできないよ。なんて言ったらいいのかな……。ブカブカなズボンをはいている状態?」
上手い例え話が見つからないのか疑問形で締めくくるノーサム。
「アジャストしないと、ちゃんと体にハマらないってことか」
そういう意味ではブカブカなズボンは言い得て妙かもしれない。
「うーん、そんな感じかなぁ」
ノーサムとしては、しっくりこないようではあるけれど。
「欠陥品ではないのか?」
一方で不信感を抱いたらしいタッちゃんは不機嫌そうな声音でノーサムに問いかける。
当事者だから無理もない。
「心外だなぁ。骨と魔石だけじゃ元通りにはできないから、せめて頑丈にリメイクしたっていうのに」
せめてと言うからには元の能力には遠く及ばないのだろう。
小さくなった分、パワーは大幅に減少しているのは間違いあるまい。
ん? 待てよ。
そのせいでイメージが合わず新ボディと魂のシンクロが上手くいかないんじゃないか?
タッちゃんは元の姿を単純に縮小しただけだと思ってるみたいだけど新しいボディはスペックのパラメーターが別物になっているのだとしたら……
そりゃあ合う訳ないよな。
ただ、それを伝えたところで的確に修正できるかというと何とも言えないところだ。
見た目が大幅に小さくなったとはいえ寿命が尽きるまで長らく馴染んでいた姿を前にして別物だと思うのは抵抗感が強いと思う。
中にはホイホイと節操なく切り替えられる者もいるだろうけど。
「あのさあ──」
試しに指摘してみたんだけど……
「上手くいかないねえ。困った困った」
ノーサムが言うように何度やってもシンクロできなかった。
「理屈では分かっているのだがな。どうしても留まることができん』
言いながら再び挑戦して失敗するタッちゃん。
このまま続けても結果は変わらないだろう。
少なくとも夜が明けるまでに成功させられるとは思えない。
ならば他の方法を考えた方が近道となる可能性はある。
一応アイデアはあるんだが、これも上手くいく保証はない。
あと、タッちゃんが気に入らなくて拒否されることも充分に考えられる。
「うーん。どうも上手くいかんな』
タッちゃんは根気強くシンクロに挑戦し続けていた。
この調子だと俺のアイデアを提案しても拒否られて成功するまで頑張るとか言われかねないな。
まあ、いいさ。ダメ元で言ってみるとしよう。
「思うんだけどさ──」
話を切り出そうとしたところでチビ黒竜とノーサムが同時に俺の方へ勢いよく振り向いた。
これがマンガのワンシーンだったら「グリン!」とか描き文字が挿入されているに違いない。
その眼差しからは究極の打開策があるんじゃないかという期待があふれそうな雰囲気をひしひしと感じてしまうんですがね。
こっちは軽い提案のつもりだっていうのにハードルを上げてくれるじゃないか。
言いづらいったらありゃしない。
「馴染みのある外見のせいで思い込みが強くなってシンクロできなくなってるんだったら思い切って見た目を変えてみたらどうかな」
それでも頑張って言ってみたのだけど、タッちゃんとノーサムともに返事がない。
「おーい」
両方の手をそれぞれに向けて振ってみる。
タッちゃんの方はそれでも反応がない。
ノーサムは俺のアクションに気付くと実に楽しげな笑みを浮かべた。
「シドくんは面白いことを考えるねえ」
「そう?」
「だってドラゴンに対してドラゴン以外になれって言うのは豪胆以外の何物でもないよ。そのせいでタッちゃんがすごく悩んでいるじゃないか」
タッちゃんがフリーズしてしまったのって、そういうことだったのか。
ちゃんと説明しないと本人を怒らせてしまう恐れもありそうだ。
「誰もドラゴン以外なんて言ってないんだけど」
「おや、言われてみればそうだったね。でも色を変えるとかだけじゃ難しいと思うよ。帝竜は黒竜だけど色が変えられるからね」
「へえー。それって属性も変わったりするとか?」
「おや、よく分かったね」
ノーサムが目を丸くさせている。
「なんとなくだよ。意味もなく色が変わるだけなんてことはないと思ったからさ」
「なるほどなるほど。で? 色以外だとどう変えるつもりかな。少しくらいだったら意味ないよ。これって結構な縛りだと思うけど……」
ノーサムはそんな風に言うけど、元日本人の俺からすると敷居ほどの障害にもならない。
「タッちゃんの名前の由来となった龍なら姿は完全に別物だろ?」
でも、辰もまぎれもないドラゴンだ。
「おおっ。それは盲点」
感心した顔で握った手を掌にポンと打ち付けるノーサム。
「こっちの世界じゃ龍はいないからタッちゃんも気持ちをリセットできて上手くいくんじゃないかなぁ」
「どうだろうね……」
「おや、自信なさげだね」
「ガラッと見た目が変わるからタッちゃんが納得してくれるか分かんないんだよ」
「そんなのはやってみればハッキリするんだよ」
言うが早いかノーサムはチビ黒竜に魔法をかけ始めた。
「あっ、ちょっ、おい!」
他の魔法ならともかくクリエイションのような魔法が発動してしまったら途中で介入するのは得策ではない。
干渉して何が起きるか分からないからね。
そんな訳でチビ黒竜は東の方位を司ると言われる青龍に姿を変えた。
タッちゃんの同意なく。
しかも……
「なんか、さらに小さくなってないか?」
人の子供サイズだった黒竜から今はマフラーくらいの長さになってしまっている。
さすがにペラペラではないがマッシブな造形だった黒竜からするとスレンダーになったせいで華奢に見える。
デフォルメされている訳でもないのに可愛いと思ってしまうほどだ。
「神秘性を持たせると、どうしてもこうなっちゃうんだよ」
また意味の分からないことを。
「おかげで魔力を消費しなくても飛べるし」
言われてみれば、フヨフヨと浮いているな。
もちろんタッちゃんとのシンクロは完了していない……はず。
「ほうほう。ふむふむ。これがシドの言っていた辰、龍であるか」
体をくねらせながら飛び回るチビ龍。
どうやらタッちゃんはシンクロに成功したようだ。
「なかなか格好いいではないか!」
それは何より。
本人が気に入ってくれたなら一安心だよ。
読んでくれてありがとう。
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