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110 ノーサムが来た理由

 ノーサムめ。

 話題にはなっていたけど呼んだ覚えはないぞ。

 にもかかわらず唐突に現れてくれちゃって。

 図太いというか図々しいというか一体どういう神経をしてるんだろうな。

 俺には真似できない。

 しようとも思わないけど。


 いや、そんなことよりも何の用があって来たかの方が気になる。

 このタイミングで来ること自体、何かしら目的というか目論見があるからだろうし。

 思わずジト目で見てしまう。


「いやぁ、そんなに見つめられると照れちゃうなぁ」


 ハッハッハと笑いながら照れているノーサム。

 白眼視されても、この調子とは白々しいものだ。


「これで世界の管理者なんだぜ」


 ノーサムのことはスルーしてタッちゃんに話しかける。

 元々俺たち2人で話していたんだし何ら問題はない。

 何の断りもなく横入りしてくる方が悪いのだ。


 タッちゃんからの返事はない。

 神に等しい存在だと思っていたら何かチャラいのが来たせいでショックを受けている模様。

 たぶん……


「やあやあ、帝竜くん。初めましてだね」


『お初にお目にかかる。我が名はタッちゃんだ。そう呼んでくれるか』


 タッちゃんはノーサムに話しかけられてどうにか再起動したようだ。


「オーケーオーケー、タッちゃんね。僕のことはノーサムと呼んでくれたまえ」


「それで何の用なのさ」


「シドくんはせっかちだねえ。ま、そういう状況なんだけどさ」


「なんだって?」


 ノーサムが動くほどの事件が起きようとしているのであれば大事だ。

 それも急を要する状況となればなおのこと。

 ただ、俺には思い当たる節がない。

 隣国が攻め込もうとしているというのは俺からすれば大事ではあるが世界の管理者たるノーサムが動く案件とは思えないからね。


 仮にそうだとしてもタッちゃんのアンデッド化を阻止したことでゲラルース王国軍にも少なからず損害が出ている。

 この状態で強引に侵攻してくれば被害は想定をはるかに超えて拡大するだろう。

 しばらくは時間が稼げるはずだ。


「タッちゃんに残された時間がわずかだよね。これはシドくんにも分かるだろう?」


 問いかけにうなずいて返す。


「その後が問題になってくるんだなぁ、これが」


 ノーサムが動かなければならないほどの問題が残るとは思ってもみなかったが、一体何だ?


「中途半端な形で終わったとはいえアンデッド化の途中だったよね。そのせいで君の魔力がよろしくない状態になってるんだよ」


 ノーサムの言葉にタッちゃんの方へ意識を向けて注意深く感知してみると、わずかに濁りのようなものがあるように感じた。


「今はタッちゃんが抑えこんでいるから問題ないけど、魂があの世に旅立ってしまうと残された魔力が悪さをする訳だ」


 そういうことか。

 世界有数のドラゴンが保有していた魔力ともなれば災害級の被害をもたらしてもおかしくはないだろう。

 ノーサムが出張ってくるくらいだから俺には想像もつかない。

 少なくともアルス国が消滅するくらいは覚悟しておいた方が良さそうだ。


『具体的にはどう悪さをするのだ?』


 タッちゃんがもどかしげな空気を隠そうともせず問うた。

 立つ鳥跡を濁さずとは真逆の状態だと言われれば気になるよな。

 悪名が広がりかねないわけだから。


「悪霊化するよ。誰も勝てないくらい超強力なアンデッドになるなぁ」


 人からアンデッド化したなら、まだ対処できたかもしれない。

 しかしながら元はドラゴンである。

 霊体型のアンデッドの最上位になるのは間違いあるまい。

 これは災害級どころか滅亡級だな。


「それで? どうするつもりなんだよ」


 肝心なのは解決法があるのかということだ。

 あったとしてノーサムが何処までやってくれるかという問題もある。

 対処法だけ説明して俺に丸投げなんて勘弁してくれよと言いたいところだが、フラグを立てたくないので余計なことは言わない。


「シドくん、タッちゃんの骨と魔石を持ってるよね」


「出せってんでしょ。はいはい」


 ストレージの魔法で確保していたものを全部サクッと引っ張り出す。

 どうせ棚ぼたでゲットしたようなものだから少し惜しいけど仕方ない。


「タッちゃん、そっちの竜牙兵ももらうね」


『仕方あるまい。シドに渡すつもりだったのだがな』


 あー、礼の足りない分はこれだったか。

 人形だと言っていたから俺にも扱えるのだろう。

 タッちゃんが扱っていた時ほどの性能は望むべくもないとは思うけど。

 アイデアは何かに使えるかもしれないので収穫はゼロではない。


「はいはい、サンキュッキュー」


 状況の悪さに思いっきりそぐわないノリの軽さでタッちゃんの全素材を受け取ったノーサムが即座に作業に入る。

 魔力の流れが独特でありながら覚えのある感覚がしたので、すぐに分かった。


 これは、あれだ。

 俺がクリエイションの魔法を作るときの感じに近い。

 きっと素材を何か別のものに作り替えるつもりなのだろう。


 予想通り素材は光に包まれ粘土をこねるように形を変えながらひとつの球体になっていった。

 それだけではなく大きさもみるみる小さくなっていく。

 無重力空間に浮かぶ液体のようにフワフワした状態にまで行き着いたときには俺くらいの子供がうずくまったのとさほど変わらないサイズになっていた。


 加えて色も完全に変わってしまっている。

 虹色の光沢を帯びたメタルシルバーだ。

 ここまであっという間だったが、どう仕上げていくのかは想像がつかない。


 グネグネと全体を波打たせるようにしながら形を変えていく。

 それに合わせて光が強くなり途中からは直視していられなくなった。

 どんな形状になるのかは出来上がってからのお楽しみということらしい。


 発光がさらに増して目を開けていられなくなった。

 そこから待つことしばし。

 閉じた瞼越しに光が感じられなくなったので、ゆっくりと目を開けていく。


「ジャジャーン、でっきあっがりぃー!」


 眼前には黒くてリアルなドラゴン像が鎮座していた。

 サイズは最も小さくなった状態からほぼ変わっていない。

 本物を縮尺したフィギュアであるかのようにリアル感満載の形状をしている。

 これが本当にフィギュアだったら誰が買うんだよってくらい置き場所には微妙に困る大きさではあるけどね。


「で、こんなの作ってどうするんだよ?」


「タッちゃんにはこの可動式フィギュアに入ってもらいまーす」


 フィギュアって言い切ったよ、この人。

 大きささえ無視すれば本物と見紛うほどリアルなのでゴーレムとは言いにくいのかもしれないが、こっちの世界にはフィギュアなんて単語はないっての。

 おかげでタッちゃんが『ふぃぎゅあとな?』と困惑している。


「この中に入るとしばらくは成仏せず現世にとどまれるんだよ」


 なるほどね。


「よろしくない状態の魔力をタッちゃんに抑えこんでもらおうって腹づもりか」


「穏便に解決しようとすると、これがモアベターなんだよね」


 ベストでないのはタッちゃんを成仏させられないだけでなく一仕事させることになるからだと思われる。


「タッちゃんの負担は?」


「現状で感じてなければ何もないよ。小さくて窮屈に感じるかもだけど」


「どうだい、タッちゃん?」


 俺としては入る前に確認しておこうというつもりの質問だったのだけど。


「うむ。悪くない感じだ。窮屈でもない」


 黒竜から声が聞こえてきたかと思うと手脚を動かしながら自らの姿を確認するように見ている。

 さっそく入っちゃってますよ。

 躊躇わないね……


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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