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107 求めた報酬は

 ドラゴンの素材をオークションに出したらどれほどの値がつくのか想像もつかないんですが?

 故にゲラルース王国とて俺がいただいてしまった素材と同等のものを再び入手するなど不可能に違いない。

 おそらく莫大な借金もしているだろうし。

 これで礼には足りないなどと言われてしまうと頭の中が真っ白になってもおかしくない。

 こちとら常識人なんでね。


 とはいえ、俺が何も言わないと向こうが用意したものが贈られるのは目に見えている。

 すでに門外不出な報酬をもらっているというのに追加があるというのは胃に過大な負荷が来そうで落ち着かない。

 下手すりゃ、追加の方がより価値のあるブツだったりすることもあるかもしれないし。

 ストレージで格納しておけば誰にも知られることはないのはわかっちゃいるけどさ。


 そうなると自分から無難な提案をした方がマシかもしれない。

 図々しいと思われてしまうかもしれないけど、そこは俺の胃の健康を考えればまだ目をつぶってしまえるところだ。

 問題は何を要求するかである。

 控えめで霊体ドラゴンが納得してくれるものとは無理難題じゃなかろうか。


 ここまで超高速で思考したけど猶予はない。

 何かないのかと大慌てで考えた末に思いついたことがひとつ。


「それなら、そちらの眷属と模擬戦をしてみたいんですが、ダメですかね?」


『眷属とな?』


「ええ。物でもらうより経験させてほしいということです」


 目の前にいる竜牙兵と手合わせすれば得るものは大きいに違いない。

 同じタイマン勝負でもグールに変貌してまで強さを求めたオルランなどとは比べるべくもないだろう。

 それこそ桁が違うはずである。

 そういう相手と戦ってこそ、この世界の強者の基準を計れようというものだ。


 前世の世界じゃ人の姿をした相手に限って言えば化け物と称されていても上限は常識の範囲内だったからね。

 生身で戦車と戦うくらいの差異はなかったことを考えれば俺が得るものは計り知れないものになるだろう。

 それに物ではないから隠す必要もないし、子供の俺が強敵と戦うことなどまずないだろうからバレることもないだろう

 これなら霊体ドラゴンも納得させられるのではないだろうかと思ったのだけど……


『生憎だが眷属などおらぬぞ』


「は?」


 思わず間抜けな声が漏れてしまったけど無理からぬことだと思う。

 目の前にいるのにいないとは、これ如何に?


『言うておくが、これは──』


 竜牙兵が立ち上がって振り向いた。


『──我が眷属などではないぞ。単なる操り人形だ』


 竜牙兵がしなやかな動作で礼をする。

 人間の貴族の所作だというのに知っているんだなと妙な感心をしながらも操られているとは思えないほど滑らかな動きに唖然となった。

 これは眷属だと思い込んでしまうのも仕方ないなと自分を納得させる。


『この人形で構わぬなら相手をしよう』


「願ってもないことです。よろしくお願いします」


 竜牙兵は眷属ではなかったが、結果的に望んだとおりになるのだから今の言葉に嘘偽りはない。

 ただ、問題があるとすれば霊体ドラゴンが操ることで本来の竜牙兵を上回る能力を発揮しかねないということか。

 それは竜牙兵を基準にしてこの世界の魔物の強さをデータ化するのは難しくなったということでもある。


 まあ、そっちはオマケのようなものだから贅沢は言うまい。

 強者との戦いの中で今の俺の実力を確認しつつ経験を積めれば御の字である。


『うむ』


 霊体ドラゴンが返事をした直後に竜牙兵が一瞬で間合いを詰めてきた。

 思わず頬がゆるむ。

 これがスポーツであれば不意打ちとして非難されただろう。

 しかしながら、模擬戦を望んだとはいえこれはルールのある試合などではない。

 俺としては望むところだ。


 突き出された手刀をわずかに体をずらして避ける。

 さらに踏み込んできた竜牙兵が膝蹴りを繰り出してきた。

 これを後ろに引くことでかわそうとしたが膝から下が跳ね上がってつま先蹴りが飛んでくる。

 半身になって竜牙兵のつま先をやり過ごす。


 流れるような連続攻撃をすべて避けたが、これで終わりではなかった。

 俺が反撃に転じる前に打ち下ろしで踵を斜めに振り落としてきたからだ。

 蹴り終わった後が隙になるかと読んでいたのだけど、そこまで甘くはなかった。


 この間合いのままでは、いくら回避しようとも攻撃がやむことはなさそうだ。

 そう判断した俺は竜牙兵の踵落としを身体強化した状態で払い除けつつ大きくバックステップした。


 着地しても油断はしない。

 追撃されれば再び攻撃の嵐にさらされるからね。

 けれども、竜牙兵は蹴り終わった状態で身構えたまま間合いを詰めてこなかった。

 かわりに霊体ドラゴンの笑い声が脳内に響く。


『人の子よ、やるではないか』


「望んでおいて序盤で終わっては格好がつかないですからね」


『言うではないか。どうやら子供と思って加減しすぎたようだな』


 普通の子供なら今ので終わってるけどね。


『ならばもう少し厳しめにしてみるとするか』


 再び動き出した竜牙兵の猛攻が始まる。


「っ!」


 先程と同じモーションの手刀から入ってきたが余裕がない。

 スピードが段違いだ。

 おまけに手刀には剣の形に光がまとわっている。

 光剣はジャマダハルのような幅広の形をしており刀身はあまり長くはないが手刀のリーチが伸びたことを思えば厄介だ。

 それに当てるだけで斬られそうだし。


 少し厳しめどころの話じゃないぞなどと内心で愚痴る余裕もない。

 同じパターンで攻撃してきているが身体強化で底上げしてもついて行くのがやっとなのだ。

 アニメとかではギアを一段上げるなんてシーンがあるけど、それ風に言うなら一気に数段は上がっている。


 どうにか身体強化の出力を上げて対抗するが、それでも上回ることができない。

 向こうもスピードを上げているからだ。


 おまけに魔法まで使ってくる。

 初級魔法のファイヤーボールを連発しつつ中級のウィンドカッターをファイヤーボールの死角から放ってくるから質が悪い。

 避けにくい上に手数も増えたせいで否応なく防戦一方となる。


 前世で培ってきた技術のすべてを用い相手の体術の速さと魔法を織り込んだ手数に対抗する。

 こういうのは得意なんだよ。

 転生するたびにノロマと言われ続けてきたおかげで試行錯誤を繰り返してきたからね。


 とはいえ、そこまでやっても去なすのが精一杯で反撃に転じるのは難しそうだ。

 我慢して隙ができるのを待つか?

 そんな甘い相手ではないな。

 何しろ本物のドラゴンだった存在が操っているのだから。


 考える暇があるなんて余裕だなと思われるかもしれないが、これは前世までで培った技術としか言い様がない。

 いくつもの前世という膨大な時間をかけた慣れとも言う。

 喋りながら手が動くのと同様に、複雑な思考をしながらも全力の回避ができるというだけのこと。

 なんの足しにもなりは……


 いや、ひとつだけあるな。

 己の思考を武器に変える方法が。

 そう。魔法である。


 妄想を具現化するのは得意分野だ。

 無詠唱ならば見えざる一手にできるだろう。

 どうせなら、それを足がかりにした起死回生の一発にしたい。


 発動ポイントをずらせば竜牙兵の死角をつけるだろう。

 だが、それだけでは霊体ドラゴンには通用しない。

 離れた場所から操っているのだから当然と言えば当然なんだが。


 そんな訳で一工夫。

 目眩ましに煙幕を使ったと思わせて本命の魔法を発動するという寸法だ。

 上手くいけば守ってばかりだった状況から一発逆転もあり得る。

 そんな風に考えていた時期が俺にもありましたよ。


 いざ、実行してみれば易々とかわされてカウンターをもらって敗北したけどね。

 やっぱりドラゴンは甘くないよ。


読んでくれてありがとう。

ブックマークと評価よろしくお願いします。


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