104 結界が邪魔です
眼前に儀式用の魔法陣とその上に積み上げられた大量の大きな骨とそれに見合うサイズの大きな魔石がある。
今は中断されている儀式が成功すればアンデッドドラゴンが復活してしまうだろう。
ゾンビ系かスケルトン系かは不明だが大した違いはない。
骨だけのスケルトンタイプでは空を飛べないのだから大きな差異になると言われるかもしれないが。
生憎とドラゴンは空力的に空を飛ぶ訳ではないので翼が骨だけだとしても関係のない話である。
話がそれた。
そんなことより儀式を潰さなければならない。
単に魔法陣を破壊してキャンセルするだけでは、すぐに再開されるのが目に見えている。
骨や魔石を持ち逃げしようにも魔法陣に紐付けされてしまっているので儀式を続けることは可能だ。
儀式が成功すれば素材のある場所でアンデッドドラゴンの復活がなされてしまうだろう。
安直な方法ではゲラルース王国の野望を阻止できない訳だ。
そもそも魔法陣の境界部分に結界が構築されてしまっているため素材には簡単に手出しできない。
結界をどうにかせずその内側へ入るのはダイブインダークに干渉するから避けるべきだろう。
せっかくの隠密行動が意味をなさなくなる。
短絡的に結界を破壊しても儀式がすべておじゃんになる訳ではない。
それどころか魔法陣に注ぎ込まれた魔力によって結界が再構築されるだけだ。
向こうの被害は魔力を余分に使った分だけ儀式が長引く程度でしかない。
おまけに結界が破壊されれば相応の衝撃や音が発生する。
それはこの離宮内に常駐するゲラルース王国軍との戦闘開始のゴングを鳴らすようなものだ。
わらわらと集まってくる敵に手間取れば儀式を潰すという目的が果たせなくなってしまいかねない。
儀式が始まったばかりなら素材を一気に全部かっさらって「さようなら」もできたのだが。
意外に縛りが多いことに辟易させられる。
とはいえ手がない訳ではない。
結界は筒状に展開しているだけで上下は無防備だ。
高さはせいぜい十数メートルなので跳び越えることは可能。
もっとも魔法陣の内側が淡く光っているので飛び越えた瞬間にダイブインダークの効果が切れてしまう。
となれば地面の下しかないだろう。
魔法陣が光を放っていなければシャドウシェルターに切り替えて潜り込んだのだが、世の中そんなに甘くない。
もちろん、モグラのように穴を掘って潜ったりもしない。
穴など掘らなくてもターングラウンドの魔法を使えば済む話だ。
この魔法は己を亜空間で包み込んで地面を境に重力を反転させ上下を逆さまにする。
鏡に映る自分をヒントに編み出したものなので俺のオリジナルだ。
グルンと引っくり返る感覚は奇妙としか言い様がない。
地中であるなら周囲の状況が見えないのが普通なんだろうが、これは魔法なので視界は確保されている。
ただ、地面の上の状況を確認するためには下を向かないといけない。
これが違和感というか奇妙な感覚があって人によっては酔ってしまう恐れはありそうなんだよな。
言うまでもないことだとは思うが移動も可能である。
俺は無造作に足を踏み出し魔法陣の内側へと侵入した。
裏側ではあるのだけど。
地中までは魔法陣の結界は及んでいないので阻まれることもなければ壊してしまうようなこともない。
余裕で魔法陣の中央にまでたどり着いた。
「なるほどね」
裏からだとドラゴンの骨やら魔石が積み上がっていないおかげで魔法陣の詳細が分かる。
複数の魔法陣をリンクさせて儀式魔法を実行させる代物だ。
積層構造ではなく平面のため複数の魔法陣を無理やり混在させており効率が悪そうである。
中でも極めつけは魔力を集めるための部分だろう。
小さい魔法陣が全部で16ある。
微妙に記述が異なるのは魔力注ぎ込む者の名が刻み込まれているからだ。
つまり、何があろうと交代することが許されない。
選りすぐりの精鋭を集めたのかもしれないが交代もなしに連日の儀式に耐えられるのかという疑問がわいてくる。
アンデッドドラゴンの復活は儀式魔法の中でも過酷で困難なものであるはずだ。
中断しつつ日数をかけて続けているようだが、あまり間を空けると溜め込んだ魔力が抜けてしまうので休んでばかりもいられない。
となれば脱落者が出てもおかしくないと思うのだが。
それ以前に事故にあったり病気にかかったりすることだって考えられる。
思いのほか運任せなことをしている連中だ。
暗殺の危険を考慮していないのだろうか。
少なくとも俺はこの儀式のことを知ってしまったし、連中に政敵がいるなら狙われてもおかしくない。
儀式魔法の関係者が1人でも殺されればゲラルース王国の連中は血眼になって犯人捜しをするはずだ。
儀式を潰せば同じことだとは思うが、潰す前にお尋ね者になりたくない。
1人欠けたくらいでは儀式は止まらないだろうしアンデッドドラゴンの復活は絶対に阻止しないとね。
そのための方法なんだが、魔力を抜いて紐付けを解除した上で骨と魔石を奪い取ればいいと当初は考えていた。
生憎とそうは問屋が卸してくれなさそうなのが現状だ。
いくつかの骨はすでに魔力充填が完了している。
この状態から魔力を抜こうとすると抵抗されてしまうのは目に見えている。
場合によっては攻撃魔法を放ってくることだって無いとは言えない。
相手はそんじょそこらの雑魚とは違うドラゴンの骨だ。
何が起きてもおかしくはない。
例えば魔力充填済みの骨が竜牙兵になったとしても俺は驚かない。
あまり知られていないが牙でなくても竜牙兵は召喚可能だ。
全身骨の戦士といった姿をしているためにスケルトンと誤解されることもあるようだが、強さは段違いである。
ドラゴンには遠く及ばないとはいえ、ここにそろっている魔力充填された骨や牙がすべて召喚の媒体になると面倒なことになりそうだ。
もし、召喚されるようなことがあれば素材が凝縮され単一の強力な竜牙兵となるのではなく素材ごとに召喚されて頭数が増える方でお願いしたい。
こんなことを考えていると声に出して言わなくてもフラグが立ってしまうんだよなぁ。
そうなる前に処理してしまうとしよう。
まずは幻影の魔法で現在の状態を結界表面に静止画で投影し魔法陣の中で変化が起きても離宮内に常駐している者たちに気付かれないようにする。
これで魔法陣の上に積み上げられた素材が減っていったとしてもバレることはないだろう。
抜き取る際に崩れて派手な音を立ててしまう恐れはあるが、それも天候操作で雷雨となっているため簡単には気付かれないはず。
最初に頂戴するのは魔石に決定だ。
これ見よがしに積み上げられた骨の天辺に置かれており見た限りでは崩れ落ちる心配もなさそうだからね。
これにはまだ魔力が注ぎ込まれていないので処理が必要ないのも大きい。
テレキネシスの魔法でそっと持ち上げてみるが骨の積み木は微動だにしない。
そのまま何も詰まれていない魔法陣の上まで持ってきて置くと同時にストレージで回収。
魔法陣に干渉する懸念もあったが、何事もなくゲットできた。
セーフのジェスチャーとともに安堵の息を吐く。
だが、まだ始まったばかりだ。
ここでのうのうとしていると夜が明けてしまいかねない。
余韻に浸りたいところだけど作業を再開しないとな。
読んでくれてありがとう。
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