103 作戦開始
「これを量産するのは望ましくないな」
父アルブレヒトが淡々と告げてきた。
「でしょうね」
俺が同意したにもかかわらず父は呆気にとられた表情で固まった。
すぐにフリーズ状態は解除されたけど何なんだ?
「シドは量産の計画を立てていたのではないのか?」
「将来的にはそうなれば便利な世の中になるなとは思いましたね。それだけですが」
「ふむ、熱望していた訳ではないと」
俺という人間に対する父の過大な評価は継続中のようだ。
緻密な計算で頭の中に未来予想図を描いたりはしていませんよ。
好き勝手にやってるだけですが、何か?
「現状はむしろ伏せておくべきだと考えます」
俺がそう言うと父がすうっと目を細める。
「どうしてそう思う?」
静かに問われたにもかかわらず重苦しいプレッシャーを感じた。
これで殺気が上乗せされていたら飛び退いて間合いを取りながら身構えていたかもね。
「姫様が襲われたり呪われたりと尋常じゃない事件がありましたからね。これがもし敵国の仕業であるなら情報は制限されるべきだと愚考します」
特に自動車は迅速な兵員輸送を行うために利用されかねない。
全員は無理でも精鋭を最前線に送り込むなどの手段としては有効だろう。
現物がなければ簡単に作れるものではないと思いたいところだけど、世の中にはそういうものがあると話を聞いただけで作り出せてしまう天才もいる。
「なるほど。国内の政争よりも隣国の侵略と見る方が現実的か」
父の口ぶりからすると王家の中ではドロドロした人間関係はなかったみたいだな。
「よく分かったわね、シド」
「いえ、僕はそうなってほしくない最悪の可能性を考慮しただけです」
実際はその最悪が正解なんだけど現状で俺がそれを知っているとは思われていない訳だから、こう答えるしかないんだよね。
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空間ゲートの魔法を使って国境近くの離宮付近まで跳んできた。
周囲は闇に包まれている。
離宮からも大した明かりは漏れていない。
「よっ、リスタ。監視ご苦労さん」
俺が黒猫に変化しているリスタに挨拶すると、向こうは尻尾の先をくるんと俺の方に向けて返事のかわりにした。
ゲートの接続先にリスタがいるおかげで訪れたことのない場所でありながら問題なく空間をつなげることができた訳だ。
「儀式の方はまだ続いているのか?」
移動する直前までは見ていたんだけどね。
それで儀式を行っている連中の魔力が切れそうな気配を感じたからリスタの仮想分体との視覚共有を中断してゲートでこちらに来たって訳だ。
再度、視覚を共有するより聞いた方が早いと判断しての問いかけにリスタは頭を振った。
「今日はもう終わったのか」
ならば、しばらく間を置いてから儀式場へ乗り込むとしよう。
敵に発見されないよう努めなければならないのは言うまでもない。
そのために今回使う魔法は複数ある。
まずは天候操作だ。
今は月が周囲の闇を薄めているが、黒雲で空を敷き詰めれば月光も星の瞬きも地上には届かなくなる。
それでも離宮には真なる闇は訪れない。
人工の光源が敷地内に点在しているからだ。
なお、屋外のものは儀式場にいくつか設置されたかがり火である。
これを消すことも天候操作を用いた理由のひとつだ。
生半可な雨では消えないのは分かっているので豪雨をお見舞いすることになるが、離宮に陣取っている連中に気遣いなど無用だ。
派手に嵐を呼び起こしてやるよ。
だからと言って変身する忍者の真似をしたりはしないけどね。
とぼけたことを考えている間も離宮周辺の夜空が闇で覆われていく。
上から降り注ぐわずかな光は消え、空は闇に支配されようとしていた。
それにともない風が吹き始め勢いを徐々に増していくと上からポツポツと滴が落ちてくる。
もちろん、それで終わるはずがない。
「それじゃあ、次の魔法行ってみよー」
次の瞬間、俺たちの姿は周囲の闇色に染まっていった。
ここに他の誰かがいたなら闇という海に沈んでいくかのように見えたことだろう。
その名もダイブインダークという闇属性の魔法だ。
シャドウシェルターの亜種と言えば分かりやすいか。
影の中に亜空間を形成し潜り込むシャドウシェルターに対し、闇に潜り込む魔法である。
違いはダイブインダークの方が移動がしやすいことと明るい場所に出てしまうと魔法が解除されてしまうこと。
そう。だから先に天候操作で明かりを排除したのだ。
今の儀式場は真っ暗闇な上に大雨で人も近づこうとしないから、やりたい放題できるって訳だ。
言うまでもないことだけど闇の亜空間に入り込んでいる俺たちが雨に濡れることはない。
一方で儀式場のあれこれに触れたければブツをこちら側に引きずり込めばいい。
そうするためにダイブインダークを選択した。
「では、行きますか」
俺は闇が支配する中を駆け出していく。
視界は昼まであるかのようにクリアである。
外から中を覗くことはできないが逆は普通にできるというのは御都合主義くさいけどね。
そういう魔法だからしょうがない。
身体強化を使って離宮へと駆け出し始めた俺とリスタは走りながら超殖剛装ガイザーへと変身する。
一度やってみたかったんだよね、走りながらの変身。
特撮ヒーローものの醍醐味と言うと大袈裟だけどシチュエーション的に盛り上がるからさ。
実際は変形したリスタを身にまとっただけだし自分の姿が転じていくところを見ることなどできない。
それでよくテンションを上げられるものだと思われそうだけど、そこは想像で補えばいくらでもカバーできる。
己の姿を鏡に映している訳でもないのに悦に入るとか完全に厨二病だよな。
いいんだよ。中身はオッサンでも見た目は子供なんだから。
それにダイブインダークの魔法を使っているから誰かに見られることはない。
逆に虚しいと言われると否定しきれないけど、そこは考えてはいけない領域だ。
あれこれ考えている間に離宮の城壁まで到達したが突進の勢いは殺さずにジャンプし壁面を駆け上がる。
何処の忍者かとツッコミを入れられそうだけどガイザーはGコントローラーで重力制御をするので壁走りもアニメの中でよくやっていた。
そんな訳で重力操作を行うグラビティの魔法を使って再現している。
壁を飛び越え敷地内にフワリと着地する。
ダイブインダークは視覚情報だけでなく魔力も闇にまぎれさせてしまうからね。
さすがに光ったり燃えたりする魔法は魔力を隠せても魔法そのものが見えてしまうから隠蔽は無理だけど。
一方で効果が見えなかったり見えづらかったりする魔法だとダイブインダークの効果の外から感知されることは無いと言っていいだろう。
そんな訳で誰にも発見されることなく侵入は成功した。
このまま儀式場へと向かう。
中もそれなりの広さはあるけれど、外の荒野に比べれば大したことはない。
すぐに目的地へと到着。
やはり誰にも見とがめられることはなかった。
それどころか誰も儀式場を見張っていない。
さすがに警備態勢に問題があるんじゃないだろうかと唖然とさせられたが、その方がこちらにとって都合はいい。
せいぜい油断していてくれ。
これからが本番だからな。
読んでくれてありがとう。
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