101 シドは気合いを入れ父は唖然とする
気合いを込めてアンデッドドラゴンの復活を阻止すると決断はしたけれど。
実行に移すのは夜陰にまぎれての予定なので時間は有り余るほどあった。
それに昼からは自動車を父にお披露目することになっている。
これをドタキャンすることはできない。
しようとすれば理由を聞かれるだろうからね。
聞かれれば答えるしかない訳で。
できればアンデッドドラゴンの件は伏せておきたいのだが。
王族がグールにされてしまっていることなんかは別に構わない。
どのみちゲラルース王国が密かに侵攻しつつあることは報告するつもりだし。
ただ、それも情報を確定させてからにしたいと思っている。
どちらも敗北は必至ということは覆しようがない情報だけれど、より冷静に対処できるのは後者だ。
アンデッドドラゴンの復活なんて聞かされて動揺しない訳がないからね。
まあ、それも俺が復活を阻止してしまえばいいだけである。
いずれにせよ事後報告はするつもりだが、それについては勘弁してもらおう。
ミッションインポッシブルのひとつを潰したところで国が敵に乗っ取られるのはすでに確定的事項である。
ある意味、アンデッドドラゴンの復活阻止よりも覆しがたい現実だ。
それならば判断を間違えぬようにしてもらいたいところ。
より具体的に言うなら自滅的な戦いだけは選択してほしくない。
人間、ヤケクソになると無敵の人になってしまうからね。
本当に無敵になれるなら苦労はしないがゲームでアイテムをゲットして無敵キャラになるのとは違う。
実際は誰の意見にも耳を貸さないというだけなので、せいぜいが道連れにする相手の数を増やせるくらいだろう。
いや、アンデッドドラゴンが出てくれば数がどうこう言う前に無駄死にするのは確定的か。
仮に向こうが何らかの理由で先にアンデッドの軍勢を出してきたとしても、やはり無駄死にすることになるのだけど。
ならば父が冷静でいられるよう努力すべきだよね。
失敗できない理由が増えていくなぁ。
するつもりもないんだけどプレッシャーは上乗せされてしまうんだ、これが。
なんとか夜までに重圧をはね除けておかないとね。
その前に昼過ぎには父に自動車のお披露目をするから、それまでに表情へ出ないようにしないといけないのだが。
これはこれで無理難題だ。
自力で解決できなくはないけどね。
さあ、気合いを入れて頑張りますか!
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昼食後のまったりタイムを満喫することは叶わなかった。
待ちきれなかった父アルブレヒトによって自動車のお披露目を急かされたからだ。
「シド、行くぞ!」
先に書庫へ入ってこようとしていた姉を押し退けるように入って来た父の第一声がそれである。
「行くぞって、何処へです?」
思考が過熱気味の父をクールダウンさせるため、あえてとぼけてみた。
「聞いているぞ。自動車を走らせる専用の場があるそうじゃないか」
「ああ、はいはい」
という訳で街外れのコースまで行くことになったよ。
ただし、自動車は幌馬車に積載してだけどね。
今更の気がするけど目撃者を減らしたいという意図があってのことだ。
国が乗っ取られると分かっているのに新技術を広めるつもりはない。
職人から情報や技術が漏洩しないように対策を考えておく必要はあるけど、とりあえずは噂が広まらないようにしないとね。
「シドは信じられんことを連発してくれるな」
コースへ向かう道中、箱馬車の中で向かいに座っている父は呆れ返っていた。
「そうですか?」
ちょっと何のことを言われているのか分からなくて首をかしげてしまう。
「空間を拡張させる魔法など、そう簡単にできるものではないのだぞ」
ああ、そのことか。
自動車を分解せず馬車に積み込むため一時的に付与したけどさ。
一応はレアな魔法を使った自覚はあるけど信じられないと言われるほどのことをした覚えはない。
ストレージやポケットの魔法のように亜空間に収納したりする訳じゃないんだからさ。
空間拡張は世間的には難しいとされる魔法だけど魔法の大家と言われるミューラー伯爵家の人間が驚くほどの話だろうか。
一応ポケットと同じ特級に分類されているけど、ただ広い場所を確保できるというだけの空間拡張とでは難易度に隔たりがある。
ポケットは小容量とはいえ亜空間に収納できる魔法だからね。
そう考えると空間拡張は上級でもいいんじゃないかなとは思う。
やはり父が驚くほどのものではない気がするのだが。
もしかして俺が10才児だからか?
中身はほぼオッサンなんだけどな。
まあ、それを言う訳にはいかないんだけど。
「おまけにフロートの魔法をあのような重量物にかけて平然としておるとは」
フロートは物を浮かせるだけの魔法だけど一応は上級に分類される。
俺的には中級でもいいくらいだと思うのだけど、世間的にはそこそこ難しいらしい。
どうやら一般的には消費魔力が多い魔法だという認識のようだ。
重量物ほど持ち上げるのに力が必要という固定観念があるからじゃなかろうか。
その上、物は浮かないという思い込みも加わっているとすれば尚更か。
「そんなの今更よ、父さん」
俺の隣の席を確保した姉がクスクスと笑う。
「シドは転移トラップの魔法陣を解析して転移魔法を成功させたのよ。空間拡張くらいで驚いていられないわ」
エレオノーラは魔力量については言及しなかったが、それこそ今更ということなんだろうな。
「むう」
アルブレヒトも報告を受けていたことを思い出したようで、やや表情を渋らせてうなっていた。
昨日の報告を一時的とはいえ忘れるのはどうかと思うよ、父さん。
ショックだろうからツッコミは心の中だけにとどめておくことにする。
失念するくらい驚いていたんだとしたら追撃になりそうだし。
そんなこんなで車中で賑やかにしていたせいか、さほど時間が経過したとは思えぬ間にコースへ到着。
まずは馬車から車を下ろして状態の確認を行う。
とは言ってもゴーレムの一種だからセルフチェックで終了するため指示を出した後は報告を受けるだけなんだけど。
「さて、それじゃあ走らせましょうか」
父に声をかけると信じられないと言いたげな顔をされた。
「本当にここを走らせるのか?」
「そうですけど?」
何がダメなのかが想像がつかないんだけど念押しするように問われても変更の予定はない。
「冗談だろう。上下の起伏がひどいぞ。こんなのでまともに走れるものか」
それは馬車を基準にした場合の話である。
父は常識にとらわれすぎているな。
ああ、そう言えば模型自動車で走らせたのは書庫の中だけだったな。
こんなことなら外にオフロードコースを作ってデモンストレーションをしておけば良かったか。
「走れるわよ」
そう証言したのは姉である。
「まさか」
にわかには信じようとしない父だが、常識をアップデートしないことには無理からぬこと。
「父さん、私もここでコレに乗ったのよ」
そう言いながらエレオノーラは苦笑している。
言外には「これも報告したでしょう?」という問いかけが含まれているかのようだ。
「むう……」
短くうなった後は反論の言葉もない父。
ぐうの音も出ないとは正にこのことだろう。
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