第五話「"Perfectio"」(前編)
昏い空間に、意識だけが浮かんで居る感覚が在る
恐るべき事に、思考を明瞭にした上で周囲を解析してもなお結論は同じだった
僕は本当に現在、意識の世界に居るらしい
『僕はいま、死を観測して居るのだろうか』
そう思いメモを取りたかったが、メモを取れる物品は何処にも存在して居らず、また本当に僕が死亡して居るのなら、観測して記録を取る意味もほとんど存在しなかった
「僕は」
「失敗したのか…………?」
本当に詮無き無駄な言葉を口にした後、僕は周囲の虚無を視渡した
意外にもそれに対する返事は返ってきた
ただし、知らない者の声に拠ってでは在るが
「それは、まだ決まって居ないよ」
眼前に異様な魔女が現れた為、何が出来るわけでも無いものの僕は身構える
不意に何も無かった場所に現れたのは、暁光の様な明るい色で織られた衣を纏った、派閥の読めない出で立ちの少年だった
服装や漂う魔力の匂いからすれば、魔女である事は疑いの余地が無い気もするが、魔女で在るのならばこの様な明るい色彩を好む筈が無い
様々推測を挟んだ後、僕は彼に問い掛けた
「君は、5人目の魔女なのか?」
何を言われたのか解らないような顔で、少年がきょとんと僕を視る
しかし直ぐに思い当たったらしく「うーん……」と答えた後、「そうかも知れないね」と続けた
「君は、どういう思想派の魔女なのだ?」
「この場所は何処だ?」
『この少年は、今がどういう状態なのかを識って居る』
そう思うと、次々と質問が口を衝いて溢れる
僕にとっては予想だにして居なかった反応だったが、少年はこの質問が非常に痛快であったらしく、きつく眼を閉じながら腹を抱えて笑い始めた
「そうさな……君達の定義で言うのなら『放浪派』なのだろうが」
笑い終えた少年が言う
彼が笑う意味すら、まだ僕は解らなかったが、どうもロクな事の様な予感はし無かった
「敢えて名乗るなら、私はねえ」
「───『完全者』とでも名乗るべき者なんだ」
「あっ、ヴェル!無事だったのか!!」
聞き慣れた声
視れば、Argentumが、遠くの暗がりから僕の方へ手を振りながら走り寄って来て居た
恐ろしく嫌な予感がした
動悸が暴れ狂って居る
僕は思わず左胸に手を当てて、予感を握り潰そうとした




