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第四話「Quinque」(前編)

「ビジネスパートナーになろう」


敵を静かに観測しながら僕がそう言うと、隣でArgentumは眼を丸くした



「えっ」


「…………今?」


いま以外に、もうそんな機会は無かった


失敗したとは思って居ない

僕は天才だし、最適の行動だけを取った

単純に、人生には『それでも駄目な時が在る』というだけだ



状況はそこまで複雑な事では無い

出会い頭に、敵に尖った金属製のよく解らない巨怪な腕で捕縛された


そして彼の大きな機械仕掛けの躰に接続された、透明な板の中に投影された少年の姿が語り始めた

掻い摘むんで記すと、「自分はこの機械の躰が持つ圧倒的な暴力で、抵抗出来ない生命躰をゆっくり左右に引き裂いて殺すのが好きだ」とか、「人間の、しかも幼躰を捕獲するのは久方ぶりだ」とか、そういう愚にも付かない話だ


きっと僕くらいの魔女を相手にしてもなお、圧勝しかした事が無いのだろう

事実として、僕は現在一切の抵抗行為が出来て居ない

厳密に言うならば『あらゆる抵抗が可能だが、観測の結果の仮説として、その間に向こうが先んじて、僕の生命活動を完全停止出来る可能性が極めて高い』というだけだが


それはいい

とにかくそうして居る内に、今度はArgentumが僕と同じ出口からその場に現れた

銃も持って居たし、少しは期待出来たものかと僕は囚われの立場ながらに考えた


事実として、彼は銃による的確な攻撃を以て、この機械の躰をした少年魔女の外装に装着された、人脳の詰め込まれた薬瓶4つを破壊せしめた


…………問題は、それらは弱点などではなく完全に単なる装飾に過ぎず、何の打撃も与えられなかった事だ


僕と同様にArgentumも機械腕によって囚われとなったが、攻撃行為を行ったという事実が判断され、先に殺す予定に決まったのは彼の方らしかった



遂に、Argentumへの加虐行為が開始された


あまり形容が難しい内容では無い

ただ全身を、2本の機械腕の信じ難い力で全身を左右に強く引かれて居るだけだ


それだけでも苦痛としては圧倒的であるらしく、Argentumは人間が上げて居るとは思えないような甲高い声で叫び続けると、唾液でべたべたになった顔で大泣きを始めた


満足したらしく、機械腕の攻撃が緩む

Argentumがどうにか呼吸を整え、『交渉』を始めようとした



「はは………」


「素晴らしい技術力じゃないか……」



「どうかな、僕の資産力に価値を感じないか?」


透明板の中の少年が、意思の読めない表情で聞き入って居る



「金だけでは無い、僕と組むのなら都市の社会に於ける地位も───」


そこから先は話す事が出来ないようだった

加虐行為が再開された為だ


小一時間上記した様なやり取りを往復経由したあと、Argentumはすっかり大人しくなった

機械の少年が暴力を開始しそうな雰囲気を発するたびに怯え、場合によっては恐慌を起こし、無意味に暴れさえした


最早、この加虐者と被虐者達は個々人の世界で総てが完結した様子を視せ始め、責め苦は永劫に続くのかと思われた



───何か音がする事に気付き、僕はその方向に視線を向けた


次の瞬間には僕達の現れ(いで)た場所、洞窟の出口から、けだものの様な影が走り現れ


瞬き一つもする内、巨大かつびくともしなかった機械腕が1本

偶然か故意にかは解らないが、僕を捕縛していた物が轟音と共に完全破壊され、屑鉄を撒き散らした



機械の躰から生えた臓物入りの薬瓶の林の中に、何者かの影が在る


紅い月がその魔女を照らす

先程遭遇した、血月派の少年だった

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