第三話「Sanguinem」(後編)
洞窟内の、一瞥するには物陰にしか視えない岩の裏に小さな通路が在る
滑る様に身を潜らせ、穴の先の小部屋に在る、自分の啓示の石版を手にする
一瞬の迷いの後
敵に奪われる危険を考慮し、僕は石版を床に叩き付けて破壊した
『魔女である少年の、五つの心臓を抉り出せ』
『真理の扉を』
『開く為に』
石版と共に、文字達が砕けていく
ついに、最後まで言葉の意味が解る事は無かった
もし本当に五人の魔女がここに集まるのなら、僕自身も死ななければ、真理には辿り着かないのだろうか?
何かしら逆説的な意図を感じる気もするが、断定するには情報が足らず、思考する時間も不足して居た
先ずは生存して、態勢を整えなくてはいけない
棚から試作の悪霊篭手を一つ取り、割れて堕した果実のようになって居た、右手に被せた
瞑目し、意識の中で篭手の中の悪霊と思考同期を行い、再び眼を開ける
恐る恐る右手の指を握り、開く
負傷が治った訳でも指が生えてきた訳でも無かったが、篭手の中の悪霊を使役する事で、淀み無く手が生えて居るのと同等のパフォーマンスを発揮出来そうな、手応えを感じた
補足にはなるが、足の方は最初から負傷してさえ居なかった
撃たれる瞬間、銃口の向きから弾道を計算し、手近に落ちて居た人肉片を撃たせたのだ
それが新鮮で有った為、血や肉も飛び散っただけの事である
当然、人肉片は、この悪霊篭手の祖躰となった人間の余剰部品である
「彼らは、戦うかも知れないが……」
「先ずは漁夫の利からだ」
棚を倒す
裏から通路が現れる
案外にその少し先は、既に洞窟の外になって居た
外に出さえすれば、やりようは有る筈だ
僕は洞窟の外界へと踏み出し───
言葉を喪った
「えっ……」
「『五つの心臓』って……」
「いや、『五つ』だけど……」
外は月が紅く、昼よりも明るく視える程に満月だった
洞窟を出た先の広場に
巨大な『よくわからないもの』が居る
数え切れない程の、人間の脚と思しき物が生えた金属製の台の上に、様々な位置、高さで臓器や眼、脳等の人間の部品が入った薬液瓶が整列し、管によって接続されて居て
外周には、数え切れない程の人間の腕が生えて居る
そして、その『生命』の中央にして最上部に
透明で巨大な板が幾つかの管と共に接続されて居り、物憂げな少年の顔が幽鬼のように投影されて居た
「雷啓派、か………」
心臓は
目視での確認にはなるが、彼には五つ在るようだった




