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『戦国転生剣豪録 ――死ぬ間際の心残りは今期アニメの最終回でしたが、目覚めたら美少女閻魔に戦国転生を勧められたので本能寺の変を覆しに行きます』  作者: 常陸之介寛浩✪書籍・本能寺から始める信長との天下統一


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第31話 来る前から厄介な男

 羽柴秀吉という男は、まだ安土へ来ていない。


 来ていないのに、もうそこにいるような気がする。

 それが厄介だった。


 文一通。

 たったそれだけで、本能寺の朝に被せた器の上からこちらの腹を探り、しかも無礼も無理もない形に整えて送りつけてくる。

 姿も見ぬうちから、“ああ、こういう男か”と胃の奥へ重みを残していく。


 龍之介は朝の安土の空気の中を歩きながら、ふとそんなことを思った。


 城の朝は静かに忙しい。

 兵が交替し、使いが走り、奉行筋の者らがもうその日一日の段取りを頭の中で組み立てている。

 陽はまだ高くない。

 だがこの城は、日が昇りきる前からもう半分動いているようなところがあった。


 その中で、龍之介もまた動く。


 信長から「羽柴の腹を測れ」と命じられて以来、ただ座して待つ気にはなれなかった。

 会えば分かることもあるだろう。

 だが、会う前に拾えるものを拾わねば、秀吉のような男に最初の一手から飲まれる気がした。


 だから、まずは聞くことにした。


 秀吉を知る者が、どう秀吉を見ているか。

 それを集めるところから始めるしかない。


     ◇


 最初に当たったのは、やはり勝家だった。


 龍之介にとっても、それが一番分かりやすいと思えたからだ。

 勝家は回りくどい言い方を嫌う。

 秀吉をどう見るかと問えば、少なくとも“どう言えば自分が得か”ではなく、“どう思っているか”に近いところから口を開いてくれる気がした。


 朝の稽古場は、まだ本格的な喧騒の前だった。

 何人かの若い者が木剣を振っている。

 板敷きに足が当たる音、気合いの声、木の打ち合う乾いた響き。

 その向こうに勝家がいた。


 今日は木剣を持っていない。

 腕を組み、若い者の稽古を見ている。

 それだけで、場の空気が少し重い。


「柴田殿」


 龍之介が声をかけると、勝家はちらりとこちらを見た。


「おぬしか」


「はい」


「また手合わせか」


「今日は違います」


「ほう」


 勝家はそこで、若い者たちへ一言二言投げてから、龍之介の方へ向き直った。


「何だ」


「羽柴殿のことを」


 その名を出した瞬間、勝家の眉がほんのわずかに寄る。


「……朝から面倒な話を持ってくる」


「面倒だからこそ、朝のうちに」


「理屈をつけおって」


 だが追い返しはしない。

 少なくとも話す気はあるらしい。


「羽柴をどう見ておられるか、お聞きしたい」


 勝家はしばらく黙っていた。

 若い者たちの打ち込みの音だけが響く。

 やがて勝家は、低く言った。


「腹で斬る男だ」


 以前も聞いた言葉だった。

 だが改めて問うと、その言い方の重みが違う。


「それは、どういう意味で」


「笑う。下がる。軽く出る。人を立てる」


 勝家は指を折るでもなく、ただ言葉を並べた。


「で、気づけばこちらが一歩前へ出ておる。あるいは一歩下がっておる。そういう男だ」


 龍之介は、黙って聞く。


「正面から“こうだ”とは来ぬ。槍のように真っすぐは刺してこん」


「はい」


「だが、こちらがどこを嫌がり、何に乗り、何を守りたいかをよう見ておる。そこへ、ぬるりと入る」


 勝家の顔には、露骨な嫌悪があった。

 だが、その嫌悪は単なる好き嫌いだけではない。

 武の人間として、ああいう手合いが本能的に性に合わぬのだろう。


「怖いですな」


 龍之介が言うと、勝家は鼻を鳴らした。


「怖いとも。儂は、嫌いなものは嫌いと分かる。だがあれは、嫌う間もなく懐へ入ってくる」


「味方でも、ですか」


「味方でもだ」


 勝家は即答した。


「いや、味方の方がよほど厄介だ。敵なら切ればよい。味方の顔で来られると、切るわけにもいかぬ」


 それは、かなり本質に近い気がした。


 秀吉は裏切りの気配を表へ出す男ではない。

 むしろ表ではよく仕え、よく働き、よく笑う。

 だからこそ厄介なのだ。

 露骨な敵意であれば備えようもあるが、忠義と働きの形で近づかれれば、人はつい受け入れてしまう。


「羽柴殿が来れば」


 龍之介は問う。


「柴田殿はどうなさいます」


「どうもせぬ」


 勝家は言う。


「上様が呼ばれるなら、羽柴は来る。来て、よい顔をする。働きも見せる。ならば儂も儂の顔をするだけだ」


「正面から」


「それしか知らぬ」


 勝家はそう言ってから、龍之介をまっすぐ見た。


「だが、おぬしは違う」


「そうでしょうな」


「おぬしは、羽柴のような男の“どこで場を取るか”を見る役を負わされる」


「……やはりそう見えますか」


「見える」


 勝家は容赦がない。


「上様がわざわざおぬしを羽柴に当てるのだ。ただ挨拶をさせるためではあるまい」


「はい」


「ならば気をつけよ。あれはまず、おぬしに喋らせようとする」


 龍之介は、その言葉を深く受け取った。


 たしかにそうだ。

 秀吉は、いきなり自分から大きくは出ないだろう。

 まず相手に喋らせ、相手が何を大事にし、何を濁し、どこで息を詰めるかを見るはずだ。


「肝に銘じます」


 龍之介が頭を下げると、勝家は小さく鼻を鳴らした。


「それとな」


「は」


「おぬしは、羽柴に気に入られようとはするな」


「……そんなつもりは」


「なくとも、あれは“気に入った顔”をするのがうまい」


 勝家の声は低い。


「褒める。持ち上げる。分かると言う。そうして相手の足場を緩める」


 その物言いに、勝家がどれほど秀吉のやり方を嫌っているかがにじんでいた。

 だが同時に、それだけ見てきたのだろうとも思う。


「儂は儂のやり方しか知らぬ。ゆえに、あれをうまく捌けるとも思わぬ」


 勝家は言った。


「だが、おぬしのような半端に外から来た男は、あれにとって面白い餌だ」


「餌、ですか」


「そうだ。都の匂いがある。武も少し分かる。上様の近くにもいる。しかも得体が知れぬ。食いつかぬわけがない」


 まったく嬉しくない評価だった。


「肝に銘じます」


「うむ。銘じるだけで足りるかは知らぬがな」


 それもその通りだろう。


     ◇


 次に龍之介が話を聞いたのは、丹羽長秀だった。


 勝家と違い、この男はわざわざ掴まえに行かずとも、こちらが少し動けば向こうから静かに現れるようなところがある。

 実際、その日の昼前、龍之介が廊下の隅で都からの文を読んでいると、いつの間にか丹羽が立っていた。


「よい顔ではないな」


「羽柴殿のことを考えておりました」


 率直にそう言うと、丹羽は少しだけ口元を緩めた。


「それは、よい顔にもなるまい」


「やはり」


「当たり前だ」


 丹羽は飄々とはしていない。

 だが、こういうところで変に励ましたりもしない。

 その率直さがありがたい時もある。


「少し、お時間を」


 龍之介が言うと、丹羽は頷いた。


「歩きながらなら」


「十分です」


 二人で廊をゆっくり進む。


 丹羽の歩き方は静かだが遅くはない。

 無駄のない人間の歩き方だ。

 この男が政でも戦でも“必要なところへ必要なだけ力を入れる”人間なのが、こういうところにも出ている気がした。


「羽柴殿をどう見ておられます」


 龍之介が問うと、丹羽は少しだけ考えてから言った。


「人の欲と、場の空気を読むのが異様にうまい」


 勝家とはまた違う言い方だ。


「欲、ですか」


「うむ」


 丹羽は続ける。


「人は理だけで動いているようで、実際には損得、面子、恐れ、焦り、そういうものでずいぶん動く」


「はい」


「羽柴殿は、そこを見る。しかも“見ておる”顔をほとんど出さぬ」


 龍之介は無言で聞く。


「例えば、同じ場に三人いたとする。誰が誰を気にしておるか。誰がどこで引けぬか。誰が褒められたがっておるか。羽柴殿はそこを拾って、軽く言葉を置く」


「軽く、ですか」


「重く言えば警戒される。軽く置けば、人は自分からその方へ寄る」


 丹羽の物言いは静かだ。

 だが、静かなぶんだけ秀吉の怖さが生々しく伝わる。


「勝家殿が“腹で斬る”と仰せでした」


 龍之介がそう言うと、丹羽は頷いた。


「よい喩えだ。私はそこへ、“人の欲で腹を開かせる”を足したい」


「……嫌な表現ですな」


「実際、そういうところがある」


 それはもう、一種の手術めいている。

 相手の欲や焦りを刺激し、自分から口を開かせ、自分から一歩寄らせる。

 秀吉はきっと、そういう仕方で人との距離を取るのだろう。


「では」


 龍之介は問う。


「丹羽殿は、羽柴殿を敵と見ておられますか」


 丹羽は即答しなかった。


 廊の向こうで、使いの者が一人頭を下げて通り過ぎる。

 丹羽はそれに軽く目礼してから、ようやく言った。


「敵ではない」


「では味方」


「それだけでもない」


 やはりそこへ行き着くか、と龍之介は思った。


「羽柴殿は、上様のためによく働く」


「はい」


「その働きは本物だ。忠もまた、偽りだけではあるまい」


「ええ」


「だが同時に、羽柴殿はご自身の時も見ておられる」


 その一言は重い。

 だが、誰もがどこかで感じていることでもあるのだろう。


「上様の天下を支える。だがその支え方は、いつか羽柴殿の天下へ繋がる形にもなりうる」


 龍之介は、少しだけ息を呑んだ。


 勝家のように“嫌いだ”と言い切る方が、むしろ気が楽かもしれない。

 丹羽のこの見方は、もっと現実的だ。

 必要だ。

 有能だ。

 だが危うい。

 そしてその危うさは、排除すべきものではなく、使いこなすべきものとして存在している。


「三上殿」


 丹羽が静かに言う。


「おぬしは、羽柴殿を怖がっておるな」


 龍之介は苦笑した。


「顔に出ておりますか」


「少し」


「否定はいたしかねます」


「それでよい」


 意外な言葉だった。


「よい、にございますか」


「怖いと知っていて、なお会うなら、まだ見込みがある」


 それは、どこか信長にも通じる物言いだった。

 この城の人間たちは皆、恐れを消すことより、恐れを知ったうえでどう動くかを重く見るのかもしれない。


「では、何を見ればよろしいでしょう」


 龍之介が問うと、丹羽は少しだけ目を細めた。


「羽柴殿が、おぬしの何に食いつくかを見よ」


「私の、何に」


「都か、武か、上様との距離か、本能寺の朝か、あるいは別のものか」


 丹羽の声は静かだ。


「羽柴殿は、興味のない相手には無駄に手をかけぬ。逆に言えば、何かに食いついたなら、そこがおぬしの急所でもあり、羽柴殿にとっての利でもある」


 その言葉は、かなり役に立つ気がした。

 秀吉が何を聞いてくるか。

 それ自体が、彼の興味と意図を示すのだ。


「ありがとうございます」


「礼には及ばぬ」


 丹羽は言う。


「私も見ておきたいだけだ」


「何を、にございます」


「おぬしと羽柴殿が、どう噛み合うかを」


 そう言って、丹羽は静かに去っていった。


     ◇


 最後に龍之介が会ったのは、光秀だった。


 安土へ戻ってからの光秀は、相変わらず“何もなかった顔”を保っている。

 だが、その顔を保つこと自体がもう重い役だと分かる者には分かる。


 呼び立てたわけではない。

 夕刻、城内の廊でたまたま顔を合わせた。

 もっとも、安土の中で“たまたま”などどこまで本当か分からぬ。

 光秀ほどの男と、いまの自分が何度も偶然だけで出会うとも思えなかった。


「日向守殿」


「龍之介殿か」


 光秀は足を止めた。

 顔は整っている。

 だが疲れは隠しきれていない。

 それでも崩れぬあたり、やはり強い人間だと思う。


「少し、お時間を」


 龍之介が言うと、光秀は小さく頷いた。


「よかろう」


 廊の脇、人の通りが少し薄いところへ寄る。

 城の夕方はまだ人が動いているが、このくらいなら余計な耳も付きにくい。


「羽柴殿のことを」


 龍之介が切り出すと、光秀はほんの僅かに目を細めた。


「来る前から重い名を出す」


「重いので」


「そうだな」


 光秀は苦く笑う。


「どう見ておられます」


 問いかけると、光秀はすぐには答えなかった。

 しばらく廊の先を見てから、低く言う。


「正面から敵に回すと厄介」


「はい」


「味方でも油断ならぬ」


「……」


「つまり、一番面倒な類の男だ」


 率直で、しかも言い得て妙だった。


「羽柴殿は、上様によく仕える」


 光秀は続ける。


「働く。気が利く。人をまとめる。場もよう見る。だから上様もお使いになる」


「ええ」


「だが、あれはただ使われるだけの男ではない」


 龍之介は頷いた。


「ご自身でも先を見ておられる」


「そうだ」


 光秀の声が少し硬くなる。


「こちらが“今ここ”のために動いていても、あれはたいてい“この先の自分”まで一緒に見ておる」


 それが秀吉の怖さなのだろう。

 現場に忠でありながら、同時に未来の利も見ている。

 目先の働きを本物にしつつ、その先で自分がどこへ立つかまで考えている。


「では」


 龍之介は問う。


「日向守殿は、羽柴殿を嫌っておられますか」


 光秀は少しだけ口元を歪めた。


「好くはない」


「でしょうな」


「だが、嫌いというだけでもない」


 やはりそうか、と龍之介は思う。

 信長、秀吉、光秀。

 このあたりの男たちは、単純な好き嫌いで収まらない。


「あれの才は本物だ」


 光秀は言う。


「都を読ませても、戦を任せても、人の心を拾わせても、よう働く」


「はい」


「だからこそ厄介だ。無能であれば捨てれば済む」


「……」


「才があり、しかも上様の役に立つ。ならば無視できぬ。だが、だからといって腹の底まで預けられるかといえば、それもまた違う」


 その言葉には、光秀自身の実感が滲んでいた。

 同じ織田家中の中で、秀吉という男をどう扱うか、彼もまたずっと考えてきたのだろう。


「龍之介殿」


 光秀がふと問う。


「おぬし、羽柴に会うのが嫌か」


 龍之介は少しだけ苦笑した。


「嫌ですな」


「そうか」


「ですが、避けても通れぬと思うております」


「ならば、その感覚は忘れるな」


 光秀の声が低くなる。


「嫌だと思う相手ほど、こちらが何を守りたいかを嗅ぎ取りに来る」


「……」


「羽柴は、相手の恐れを拾うのがうまい」


 そこだ。

 たぶんそこが本質だ。


 人は怖い相手の前では、守りたいものを無意識に強く意識する。

 立場、秘密、面目、関係。

 秀吉は、そういう“守りたいもの”の匂いを嗅ぎ取るのだろう。


「では、どうすれば」


 龍之介が問うと、光秀は静かに言った。


「最初から勝とうと思うな」


 意外な返しだった。


「勝たずともよい、と」


「いや」


 光秀は首を横に振る。


「最初の一手で勝てる相手ではない」


 それはたしかにそうだ。


「では」


「見ろ」


 光秀は言う。


「あれが何を知っており、何を知らず、何を知ったふりでおるか」


 龍之介は、その言葉を深く受けた。


 秀吉は何でも知っているように見せるだろう。

 だが実際には、まだ推しているだけの部分もある。

 ならば、こちらが見るべきは彼の問いそのものではなく、“問いの濃さ”なのかもしれない。


「ありがとうございます」


「礼には及ばぬ」


 光秀は少しだけ目を細める。


「私も、あれがいま何を嗅ぎつけておるかは知りたい」


 それもまた本音なのだろう。


「羽柴が来る」


 光秀は最後に言う。


「上様の前では、何も知らぬ忠臣の顔をする。だが、その笑いの裏で何本も線を引いておる」


「……」


「おぬしもまた、あまり不用意に笑うな」


 その忠告は、かなり現実的だった。


 秀吉の笑いに引かれてこちらまで笑いすぎれば、余計な隙を見せることになる。

 かといって硬すぎても、“そこを守っているな”と見られる。


 難しい。

 だが、その難しさこそが秀吉の土俵なのだろう。


「肝に銘じます」


 そう答えると、光秀は小さく頷いて去っていった。


     ◇


 夜、部屋へ戻った龍之介は、灯の下で一人考えていた。


 勝家。

 丹羽。

 光秀。


 三人とも、秀吉を違う言葉で語った。


 勝家は、腹で斬る男と言った。

 丹羽は、人の欲と場の空気を読むのが異様にうまいと言った。

 光秀は、正面から敵に回しても、味方でも、どちらにせよ油断ならぬと言った。


 どれも同じ一人の男の話だ。

 そして、その全部がたぶん本当なのだろう。


 秀吉は表では忠であり、内では計算し、相手ごとに顔を変える。

 働きは本物で、野心もまた本物。

 必要な男であり、危うい男でもある。


「……来る前から厄介だな」


 ぽつりと呟く。


 すると、いつの間にかいた影鷹が柱の影から言った。


「来てからはもっと厄介でございましょうな」


「おぬし、今日もずいぶんと景気の悪いことを言う」


「事実にございますので」


 影鷹は少しだけ笑った。


「ですが、ようやく腹が決まってまいりましたな」


「そう見えるか」


「はい。会う前からもう勝負が始まっているお顔にございます」


 龍之介はその言葉に、しばらく黙っていた。


 たしかにそうだ。

 秀吉はまだ来ていない。

 だが、文を送り、空気を揺らし、こちらに準備をさせている時点で、もう勝負の半ばは始まっているのかもしれない。


 ならば、ただ迎え撃つだけでは足りない。

 こちらもまた、会う前から相手を読み始めねばならない。


「日取りは」


 龍之介が問うと、影鷹は短く答えた。


「決まりました」


「……そうか」


「数日のうちに、安土入りにございます」


 その一言で、胸の奥がひとつ強く鳴った。


 来る。

 ついに。


 本能寺の朝の匂いを嗅ぎ取り、文一通でこちらの腹を探り、まだ顔も見せぬのに皆へ“厄介な男”と言わしめる羽柴秀吉が、安土へ来る。


 龍之介は灯の揺れを見ながら、小さく息を吐いた。


「嫌な予感しかしないな」


「それで正しいかと」


 影鷹の返しはいつも通りだった。


 だが、そのいつも通りが、今夜ばかりは少しありがたかった。

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