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転移先は推しの作品世界〜経験したことしか書けない作家なんて……いるんですか!?〜  作者: exa(疋田あたる)


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救出作戦……の前にピンチ!

先週分を投稿したつもりで投稿できてませんでした!

「オウジ先生の行方がわかったと、そういう話だったはずなのに。オウジ先生は街の中央に向かったと聞いたばかりなのに……我々が街から遠ざかってるのは、どういうわけですかね!?」


 走りながら猪野は叫んだ。

 大きくあけた口に砂ぼこりが飛び込んで、大きく顔をしかめる。それでも握りしめた巨鳥の手綱は、離さない。

 そんな猪野の隣を走りながら嫌そうな顔をしたのは、何でも屋の青年たち。


「仕方ねえだろ! 探れたは良いものの、貴族のやつに見つかっちまったんだからよ!」

 

 追われるままに街を飛び出し、走る猪野たちの後ろには怪しい集団がいた。

 顔も髪も頭巾で隠した、見るからに怪しい集団。暗い色ばかりを身につけた集団は、明るさを無くしていく景色に溶けて見えにくくなっていく。

 カラカの語るところによれば、偉い人に飼われている者たちらしい。初対面で武器を突きつけてきたあたり、仲良くなれそうにはないが。


「へええええ? それで意気揚々と『情報とってきたぞ』って私たちの前に来たと? その瞬間に襲い掛かられたのは、手土産のつもりだとでも!?」

「見つかってないつもりだった……不覚」


 パプラが珍しくしおらしいことを言うので、猪野の非難は出口を失った。


 ──まあ、私たちを放って二人で逃げてしまわなかった点は感謝しても良いかも?


 街のなか、ひと気のないかつての見張り部屋の近くで襲われた段階で、彼らだけ身を隠すこともできたはずだ。

 それを猪野と巨鳥に乗ったポフィンを逃がすため、小門をこじ開け駆けてくれているのだから、彼らも大概人が良い。「偉そうにしてる中央の連中に泡吹かせてやりてえからな」などと言ってはいたけれど、それだけではないだろう。

 やはり自分の人を見る目に間違いはなかった、と猪野が自慢に思っていると。

 

「わ、わ! 追いつかれちゃう!」


 鳥の背に揺さぶられているポフィンが振り向いて、悲鳴じみた声をあげる。

 猪野も息を乱しながら後ろに目をやれば、ポフィンの発言が不安や恐怖からくる錯覚ではないと知れた。非常に残念だけれど、街を出た時よりも互いの距離が縮んでいる。


「はっ、はっ、これは、だいぶピンチ! 時に何でも屋さんたち、私たちはどこへ向かっているのでっ?」

「目的なんざ特にねえよ! とにかく真っ暗になる前にできるだけ街を離れてえだけだ! この街じゃあ、中央に住む連中の良いようにし放題だからな」

「目指すとしたら、最寄りの二等星の下。村よりは大きい町」

「ははーん、木を隠すには森の中ってやつですね!?」


 なるほど、有力者の支配下から逃れるために走っていたらしい。


 ──そうとわかれば。


 猪野は握りしめていた手綱をパプラの手に押し付けた。オウジノートもおまけに。


「は?」

「頼みますよ、何でも屋さんっ」


 猪野は叫び、真っ直ぐ駆けていく一行をよそに大きく左に踏み出す。

 そう遠くないところに木々の生い茂る山が見えたから。


「おいっ、どこ行く気だ!」

「リスクの分散ですっ」

「馬鹿か! あいつらが狙ってんのが誰だかわかんねえのかっ」

「だからですよ! 私は猪野ふらん。狙われちゃうほど良い女であると同時に、なんやかんや上手くいく運の良さも持ち合わせているわけなのでっ」

「〜っ馬鹿が! 森には魔物がいるんだぞ! せいぜい食われるなよっ」

「もちろん、後でまた会いましょうっ」


 吠えたカラカに猪野は笑う。

 彼は悔しげにしているけれど足を止めはしなかった。もちろん、猪野のほうに方向転換もしない。ポフィンを乗せた巨鳥の手綱を握って遠ざかる。パプラも共に。


 ──それで良い。オウジノートを持っていけば、よその町で人に紛れ込める可能性も上がるはずだから。


 離れていく彼らは速度を上げる。猪野の足に合わせてくれていたらしい。やはり猪野の人運の良さは誇るべきだ。

 巨鳥はもちろん問題なく彼らについて行く。背中のポフィンが悲壮な目を向けてくるのに手を振って、猪野は自分の背後を確認した。


「はっは〜! まったく私ってば、人気者で困るなあっ」


 追ってくる集団のうち、半数が猪野のほうへ駆けてくる。彼らの目的はわからない。けれど「保護したオウジの仲間を呼びにきた」なんて優しい話でないことは、平和主義の猪野でもわかる。


「女ひとり、早急に捕らえて戻るぞ」

「はっ」


 背後の人々は猪野のことを熱烈に求めてくれているようだけれど、森は目前だ。


「そう簡単に捕まってたまりますか、てね!」


 猪野はいっそう速度を上げる。体力はあまり残っていないけれど、火事場の馬鹿力というやつだ。

 森に飛び込みさえすれば逃げ隠れする場所もあるだろうという、運任せの行動でもあった。


 ──私の豪運をもってすれば、きっと飛び込んだ先に程よい隠れ場所などが……!


 あるはずだ、と思ったのだけれど。


「うわお! 魔物ぉ!」


 目の前の暗がりがぞわりと蠢く。

 咄嗟にしゃがんだ猪野の頭の上を魔物の伸ばした棘がかすめる。


「ぐ、がぁ……!」


 苦鳴を上げたのは追手の一人。胸を突き刺す棘が無ければ、猪野の首根っこを掴めていただろう位置にその人はいた。


 助かったラッキー、と思えるほど猪野は荒事に慣れてはいない。

 ただ悲鳴と混乱を押し殺して、魔物の脇を駆け抜けるのが精一杯。


「くそっ、待て!」

「こんな浅いところに魔物がいるなんて!」


 背後であがる声に振り向かず、猪野は走った。


「はっ、はっ、はっ……!」


 さっきまでよりひどく息が上がる理由はわかっている。動揺しているせいだ。

 目にした光景を受け入れられない。受け入れたくなかった。

 猪野は平和な日本で生まれ育ったから、あんな大怪我をしている人を間近で見たことなど無かった。大怪我を目撃しただけでもそれだけでも動揺は大きいのに、あの怪我には猪野が関わっている。


 ──私が避けなくても魔物の攻撃はあの人に当たっていた。私が避けたせいじゃない。けど、でももっと上手くやれたんじゃ……。


 自身を正当化しようとする思考と、どこからか湧き上がる自責の念とがぶつかりあう。

 体は身近に感じた死の恐怖に震えながら、心は自身の行いを責めてくる。体と心がバラバラになりそうで、猪野は努力して思考を止めた。

 そうしなければ足が止まってしまいそうだったから。


 ──ああ、むしょうに明かりが欲しい。暖かい明かりが。


 空の明るさは失せ、森の中はいっそう暗い。けれど明かりを持てば追手に見つかるかもしれない。

 でも心細くてたまらない。


 ──どこかに明かりが見えないだろうか。誰かが灯してくれたなら、そこまで走っていけるのに。


 あるはずのない灯火を求めて遠い暗がりに目を向けたとき。

 がくんっ、と猪野の体が沈み込む。


「あぁっ!」

 

 不意に猪野は転んだ。何かに足を取られたのだ。


 ──追いつかれた!?

 

 もしや魔物かあるいは追手かと身を固くした猪野だったけれど、転んだまま慌てて振り向けばそこにあったのは飛び出た木の根。

 暗さと不安に視野が狭まったせいで、わかりやすく張り出した木の根に気が付かなかったらしい。

 見据えた闇はしんと静まりかえっている。


「は……は……あ、あはは……!」


 緊張がほどけた猪野の口から飛び出したのは、乾いた笑い。


 ──笑え、笑え! 私は誰だ、猪野ふらんでしょうっ。


 震える手を地について、起き上がる。


「私が寝転がっていて、誰がオウジ先生を助けると?」


 あえて声に出したのは、自分を鼓舞するため。


「推しを守れずして何がファンか。作家を守れずして何が編集者か!」


 吠えるように自身に言い聞かせて、猪野は自分の両頬を叩いた。

 ぱぁんっ! と景気のいい音を響かせた頬は赤くなっているだろう。じんじんとする痛みと熱を感じながら、猪野はにいっと笑った


「よっし! 待っててください、オウジ先生! 猪野ふらんが今、助けに行きますからっ」


 大きく一歩、踏み出した猪野の足が空を切る。


「あら?」


 地面がなかった。

 暗いせいで見えなかったけれど、猪野が進んだ先の地面は真っ暗ながらんどう。

 勢いよく崩れたバランスはもはや立て直せず、猪野の体は暗がり目掛けて転がり落ちる。


 ──今からまさに、華麗なるオウジ先生救出劇がはじまろうというところなのに! 物語なら熱い見せ場のはずなのにっ。


 声にならない叫びを飲み込んだ暗闇は、猪野の体をも飲み込んでしまう。


「あららららー?」


 完全に宙に浮いた猪野は、なす術もなく落ちていった。

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