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転移先は推しの作品世界〜経験したことしか書けない作家なんて……いるんですか!?〜  作者: exa(疋田あたる)


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猪野ふらんは短気じゃない

 異世界からやってきた。その説明をするのに、道端は適さない、と猪野が思ったわけではない。ためらいなく知っている全てを話しだした猪野を何でも屋の青年ふたりが止めたのだ。


「ちょっと待て、こっち来い!」

「む? まだ話は途中なんですが?」

「だまる。着いてくる。それ意外ゆるさない」

 

 ぴしゃりと言う顔が真面目なものだったので、猪野は大人しく従った。

 不安そうなポフィンが巨鳥の背中から見つめてくるので、手綱をとりつつ少女の手を握る。


「いいか、俺たちが良いって言うまで黙ってろよ」

「仕方ないなあ。従ってあげますけど」

「お、お姉ちゃん……」

「腹立つ。黙ってろ」

「はぁい」


 前にカラカ、後ろにパプラが立って暗い道を進んでいく。ひと気のない、静かな場所だ。


 ──なんとなく埃っぽい匂いがするような。例えばそう、体育館裏だとか、建物の間の隙間みたいな。


 暗さゆえに周囲は満足に伺えないが、人の暮らしから外れた箇所にあることは察せた。

 そして猪野たちが連れて来られたのは、街の外周を囲む塀。そのひとつ内側の壁の上部にひっそりと造られた小部屋だった。

 

 さほど広くはないが大人三人に子どもひとり、それから巨鳥一羽が入れる程度の広さはあった。巨鳥を入れなければいくらか余裕が生まれるのはわかっていたが、繋いでおけば目立つ。かといって「どうぞ自由に散歩してきてほしい。そしてお話し合いが終わるころにもう一度、来てはもらえないだろうか」などと頼める物でもない。

 なので、仕方なしに巨大な鳥のお尻を押して、狭い部屋に押し込んだ。


「元はここが街の一番外側だったらしいぜ。この部屋はその時代に見張りが使ってた場所だってよ」

「もう放棄された壁だから、人目はない。聞き耳を立てようにも、壁が厚くて聞こえない」

「ははーん、密談に打ってつけってわけですね!」


 ようやく許しを得て、猪野は話した。知っていることを何もかも。

 その結果カラカは頭を抱えて、パプラはこれ以上ないほど渋い顔。ポフィンはおろおろと猪野と巨鳥とを見回している。


「っあ〜、今からでも聞かなかったことにしてえ!」

「同意する」

「おや、手遅れですがね」

「腹立つっ! つーか、なんでそんなベラベラ全部しゃべっちまうんだ、あんたは!」

「馬鹿なの?」

「馬鹿ではありませんが。むしろ賢い部類ですよ。人類の叡智と呼んでいただいても差し支えないくらいには。しかし、なんで。ですか」


 問われた猪野は、考えた。

 確かに、物語の中でも異世界転移した人の取る行動はふたつに分かれる。

 ひとつはあっさりと状況を話す。これはその異世界で転移者が珍しくないパターンであったり、歓迎されるものであるパターンが多い。

 もうひとつの行動は、転移者であることを隠す。こちらは転移が一般的でない世界である場合や、転移者が悪意をもって利用される場合の行動だ。


 ──彼らの反応を見るに、転移者がしばしば来るわけではなさそうだし。無条件に歓迎されているわけでもないのだろうな。


 そうとわかっていて包み隠さず話した理由は。


「私、運がいいんです」

「はあ?」

「は?」

「えっと……?」


 三者三様のきょとん顔を前に、猪野はえっへんと胸を張る。


「これは自慢ですが、私がこれまで出会った人たちはみんな良い人ばかり。私を騙そうという人や、悪意を持って近づいてくる人とは縁付かないのが猪野ふらんなので。つまり、あなたたちも悪ぶった態度を取りはしても、根は悪いわけじゃないってことです!」


 自信満々。告げれば返ってきたのは「ええぇ?」「いや……もう、いや……」「う、うううーん?」と疑問符がついていたり、唸るような声。

 けれども猪野は慌てない。


 ──オーケーオーケー、よくある反応。こちらからの信頼を示したところで、本題に入ろう。


「というわけで、助けてください。よろしくお願いします!」


 猪野は言って、勢いよく頭を下げた。

 困った時に人を頼れるのは自分の美徳だと知っているので、迷いはなかった。


 ※※※


 猪野が頭を下げてからはや十日。

 未だ、猪野はオウジの決めた宿に居た。日暮の近づいた部屋の中にひとり、ベッドに寝転がっている。その隣にオウジの姿はない。

 

「うー、うー、うー!」


 猪野は短気ではないけれど、むしろ気は長い方だと自負しているけれど。それでも、十日だ。十日もただただ待ち続けていた。

 無意に過ぎた日々を思えば、ベッドにうつ伏せた猪野の口から不満だって漏れようというもの。

 枕を抱きしめ、猪野はぐるんと天井を向く。


「なぜなのか! こういうものは協力者を得てすぐ、手がかりが見つかるはずでは? あるいは事態の進展があるものでは!? まるまる十日間、まったく音沙汰もないとは、話を引っ張りすぎでは!?」


 じたじたばたばた。

 本当は走り出したい気持ちを抑えて宙を蹴飛ばす。

 いつもの猪野ならとうの昔に駆け出していた。なんならオウジが帰ってこなかったその日、そのまま探しに走り出したかった。

 それを止めたのは放ってはいけない幼い少女の存在と、何でも屋の青年たちの言葉だ。


「『あんたが動くと話がややこしくなる』なんて、やっぱり心配し過ぎだったのでは? むしろ私が動かねば、話が進まないのでは??」


 ──そうだ、そうに違いない。やはりこの猪野ふらんが動かねば、始まるものも始まらないっ。

 

 猪野が確信を持って立ち上がった時、部屋の扉が勢いよく開いた。飛び込んできたのは外にいる巨鳥に会いに行っていたポフィンだ。


「お姉ちゃん!」

「なんと、事態が動いたわけですね!? さすが私! 立ち上がるだけで効果があるとは!」

「え? えっと?」


 踊るような足取りで扉に近づけば、ポフィンは目を丸くする。けれど気を取り直したように頭を振って、猪野を見上げた。


「お兄ちゃんたちから連絡がきたの。先生の行き先わかったって!」

「おお! やはり私が見込んだ相手! やってくれると思ってましたよっ」


 ならば次は先生を救出するターン! と猪野は常にまとめてあった荷物を担いで階段を降りる。

 ポフィンも後をついて、駆け降りた。


「鳥さんはどこです?」

「イチ、裏口で待ってる!」

「オッケーですっ」


 受付に部屋の鍵を渡しがてら「鳥の散歩に行ってきます!」と告げる。

 そこに詰めていた店主は怪しみもせず「ああ」と頷いて返した。

 定期的に巨鳥の散歩に出掛けていたため、いつものことだと思ったのだろう。


 ──たぶんこのまま救出劇になるから、今夜は戻らないけれど。宿代は前金で支払い済みだから、問題なしっ。


 心の中で「お世話になりました」と告げながら、足を止めたのは宿の裏手。巨鳥の元へ辿り着いた猪野は、ポフィンを抱えて鳥の背に乗せる。


「あ、えっとお兄ちゃんたちがね」

「集合場所でしたら理解していますとも。例のあの部屋でしょう? さっそく向かうから、掴まって掴まって!」

「わ、あわわ!」


 話しながら巨鳥の手綱を引けば、突然の揺れに驚いたのだろう。ポフィンが慌てて口を閉じる。

 少女には悪いが、オウジの救出は急務だ。


 ──お話は例の部屋で聞けばいい。まずは彼らと合流して……。


 日暮れが近づいてる。

 空が発光しているだけの世界では夕焼けが照ることはなく、どこまでも平坦な空色が広がるばかり。

 けれど今日のような日には、花紋の世界も悪くない、と猪野は思う。


 ──何故って、夜間に雨が降るかもなんて心配がいらないから。何をしようと空は晴れ。つまり、空は私の味方ということ。


 猪野の辞書に失敗という言葉は、今日のところは見当たらなかった。そんな予感がするのだ。

 街の中、家路につく人々の間を泳ぐように、猪野は進む。にぎわう街中は、巨鳥を引いて歩くのに適さない。それでも猪野はオウジを救うべく、足を速めた。


「待っててくださいオウジ先生。今、この猪野ふらんがお助けに参りますのでね!」

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