表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
98/100

第98話 相棒になれたら

「リーディアっ!」

「キリカ……ちょっとっ」

 熱い抱擁は、胸の奥まで暖かくする。

 こそばゆい感覚を、キリカはいつも与えてくれる。

「いつ学園に戻れるの? このまま来ないつもりなの?」

 瞳を潤ませて、そんなことを聞かれてしまう。


「まだ慣れない仕事に手間取ってしまって……勉学に遅れるつもりもないから、落ち着いたらちゃんと通うわよ」

 通えるなら。

 このままだと、お父さまは勝手に退学届を出してしまう。

 代わりにクミンが通うことになるのだけれど、学力が足りなくて一度は断られるのよね。 時間をかけて私がクミンの学力を上げるという条件で入学を許されるわけだけど、私は城にきてしまっているから変わるかも知れない。

 ユハスさまがいまは教えている。

 クミンの頭が私が教えていた頃と同じなら、ユハスさまは相当苦労しているはずだけど。

「そうよね、城の仕事は学園よりも優先だものね……仕方ないことなのよね」

 私を招いて、お茶をいれてくれながら残念そうにキリカはつぶやいた。

 そして。


「ちょうどよかった。リーディアの噂を聞いて、城に届けてもらおうと取り寄せていたの」

 取っ手のついた籠を、私の前に置く。

 その中身は、焼き菓子や色とりどりの飴や、果物の甘煮がのせられたパイがぎっしりと入っている。

 まだバターの香る、とてつもなく美味しそうなお菓子たち。

 でも、キリカはなんて言った?

「う、噂って……?」

 声が怖くて震えてしまう。

 キリカは噂が好きな方だけれど、まさかクミンの言っていたような“噂”がキリカの耳にも?


「新作や外国のお菓子を集めてるんでしょ?」

 キリカがにこりと微笑む。

「もう、水臭いわ。それだったらうち(この店)が適任じゃない。私も興味あったから、お母さんに頼んでいろいろ仕入れてもらったの」

「そ、そうなの!」

 力いっぱい肯定してしまった。

「せっかく城にいるし、商売に繋がるかもしれないからいろいろ試食していいものは独占販売契約を結んだりできないかなって」

 噂を逆手に、私はキリカにそんなことを言ってしまった。

 口にしたら、自分でもいい商売になりそうだとは思ったけれど。

「味や新しいものにうるさい貴族相手に、良い商売ができるわ!」

 キラリと、キリカの瞳の奥が光ったのが見えた。

「だったらね、東方の国で貴重なカコーネを使った甘菓子が手に入るの。最近ね、お父さまが大きい商談をしていて、お土産でくれたのだけどとても美味しくて」

 美味しすぎて試食のつもりがひとつしか残せなかったという菓子を、キリカは籠の底の方から取り出して渡してくれた。

 金色の包に大事に包まれたそれは、高級そうでいかにも貴族が好みそうだ。

「食べてみて。少し資金があれば、仕入れられるの。カコーネ自体貴重すぎて金と同価格だからちょっと値が張るけど、貴族なら買えるわ」

「そうね。貴族に売りましょう」

「だったら、これも食べてみてっ。こっちは作るには手間がかかって職人が作りたがらないお菓子なの。でも、すごく美味しくて日持ちするの」

 また、籠の底の方からゴソゴソと出してくる。

 キリカも商売人の娘、私たち友達を超えていい相棒になれたりしないかしら。


 目の前で、生き生きと「未来」を語るキリカ。

 私たちの「未来」がそこにあればいいわね。


「どうしたの? リーディア……なぜ泣くの? ごめんなさいっ、私ったらつい。そうよね、そうよっ、リーディアは城でのお仕事が大変なのに私ったらっ」

 私、泣いていた?

 キリカに言われるまで、自覚がなかった。

 どうりで、キリカが少しぼやけて見えたのね。


「違うの。キリカが眩しくて、目が潤んでしまったわ」

 大丈夫と首を振る。

「キリカはいつも私に力をくれる。頼もしくて大好きよ」

 言えるときに伝えよう。

 言いたくても、伝える時が来ないかも知れないから。

「どうしたのリーディア、まるでもう会えないみたいなこと言わないで」

 キリカの瞳がたちまち潤んで、ポロポロと涙がこぼれだす。

「キリカっ」

 私は立ち上がって駆け寄り、キリカを抱きしめた。


「大好きよ、ただそれだけ。深い意味なんてないの。大好きだから、声にしたかったの」

 私の軽率な感傷。

 キリカは覚ってしまったのね。


 私の親友だから。


 私はそれに応えなきゃならないわね。


「ねぇ、キリカ。このお菓子を取り寄せてくれる? 来月ちょっとした茶会があるらしくて、多分私にも招待状が届くわ。手土産に用意してくれるかな。このお菓子なら、絶対注文したくなるはずよ」

 次に会う約束をしたら、少しは曇ったキリカの心は晴れるかしら。

「支度金はすぐに用意できるわ。利益の分配は、キリカが6私が4にしましょう。仕入や梱包なんかは任せたわ。私は販路を拓く」

「え? 6!? それこそ水臭いわ! リーディアの頼みにお金なんて……」

「だめよ、キリカ」


 私たちの間だから、私は利益を出したいの。

 だって、この籠を用意してくれたのだって、キリカは私のことを思ってのことでしょう?

 無償の愛情、キリカの。


「一緒に稼いで、いいドレスを仕立ててもらって、落ち着いたら旅行なんて行けるようにちゃんと取り決めてすすめていきましょう。ちゃんと役割を振って、それに見合う返しを稼ぐの」

 私は強調する。


「ふたりで、よ」


「リーディア……うん、わかった。旅行先、選んでおくね」

 涙を拭いて、キリカに笑顔が戻る。

「温かい南方にしましょうね」

「いいわね」


 未来を見てくれるキリカに、私はまた救われた。


「じゃ、またね」

 籠を手にして、私はキリカに手を振る。

「さて、帰ったら仕事が待ってるわ」

 ふぅ、と自然とため息が出てしまう。

 計算は嫌いではないけれど、国を動かしているお金という点が重いし桁が多いしで、緊張が続いて肩がこるのだ。

 あの紙の束を思い浮かべたとき、後方、それも上の方でパタパタと羽音がした。

「もしかして……ユー?」

 街の街路樹の太い枝に、一羽の夜鳴鳥が降り立つ。


 キュイッ。

 聞き慣れた声が、私に向かって飛んでくる。

 手に下ろそうと私はユーに手を伸ばした。


 シュ。


 風を切る音が、した。

 ギュイッ。


 ユーの悲鳴にも聞こえる鳴き声と、私の手に降り立つ前になにかに打たれたように、ユーがボトリと地面に落下した。



動物愛好家の皆様ごめんなさい。

(あとがきで謝ってばかりだなー)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ