第59話
ダンが要塞を出て西に向かって行った数日後、デイブは要塞の一番上の部屋のバルコニーに立ってオーブにありったけの魔力を注ぎ込む。
「これで繋がるの?」
デイブの隣に並んで立っているマリアンヌがオーブに魔力を注ぎ込んでいたデイブを見て言う。
「近ければこのオーブに相手の顔が写り、会話もできるんだけどこの大陸と前の大陸との距離がすごく遠いから会話は無理かな。でも相手が応えればオーブが光出すんだよ」
そう言って魔力を注ぎ込んだオーブを見ていた2人。しばらくするとその2人の目の前で淡くオーブが光だした。
「ほらっ、光ってるだろう?」
「本当だ、ほんのりと光ってる」
「これで相手に俺達が元気だってことがわかるんだよ」
「じゃあダンが向こうに戻ってもこのオーブがあればデイブが元気にしてるっていつでも伝えられるってことね」
「そういうことになるね」
2人はデイブが手に持っている淡く光っているオーブを見つめながら話をしていた。
要塞にはAクラスのボルケーノと軍の駐留部隊がいるが要塞から見える川向こうの獣人領には敵の姿は見えない。
しばらくすると淡いオーブの光が消えた。
「繋がっていると思うだけで気が楽になる」
バルコニーから要塞の部屋に戻ったデイブが言う。2人は要塞の中の1部屋を与えられていた。部屋にある椅子に座る2人。
「ノワール・ルージュって魔法はデイブ、剣はダンって言われてたじゃない?実際2人の差ってどれくらいあったの?私なんかはもう別次元すぎて2人ともすごいとしか思えなかったもの」
マリアンヌが言うとそうだなと思案顔になるデイブ。しばらくして口を開いた。
「魔法の威力で言うとダンの魔法よりも俺の方が1段階以上2段階未満の範囲で上だろうな。詠唱のスピードはお互いに無詠唱だから同じだしね」
デイブの話を黙って聞いているマリアンヌ。
「そして剣になるとダンの剣は俺の剣の2段階以上、3段階未満の範囲で上になる。これは間違いないよ」
確かに2人の模擬戦でもダンは装備を外してフル装備のデイブと行っていた。それでもダンの方が剣が強いのは模擬戦を見ていたマリアンヌは知っている。
「俺もダンもどっちが上とか下とか気にしたことはなかった。元々赤魔道士と暗黒剣士という異なったジョブだったこともある。ダンは前衛向き、俺は後衛向きジョブだ。そしてダンは俺を信用して常に格上の敵に突っ込んでいった。そして俺はダンが動きやすい様な環境を作ることに注力していた。奴が暴れてくれればこっちも楽になるしね。お互いを信用していた。そしてジョブ特性をうまく活かした戦い方だったよ」
そう言って笑ったデイブは話を続ける。
「マリアンヌもわかるだろう?個人の技量だけじゃなくそれにチームワークが加わるとさらに強くなるってのが。俺とダンはそう言う関係だった。そうして格上と対戦しながらお互いの技量を高めていったのさ。ボルケーノも個人の技量にチームワークをプラスすれば今よりもさらにずっと強くなるよ」
デイブの言葉に大きく頷くマリアンヌ。
ミンは久しぶりにオーブが光ったのを見ると魔力を注ぎ込んでそれに応える。
「前よりは少しだけ光が強いけど、まだ会話できるレベルじゃないわね。でも2人が元気だってことがわかったからワッツとレミーに報告しとかなきゃ」
しばらくしてオーブの光が消えるとミンは店を出てレミーの防具屋に寄ってから2人でワッツの武器屋に顔を出した。
「オーブが繋がっているのなら一安心だな」
店に入ってきたミンに椅子を進め、自宅からジュースを持ってきたレミーがテーブルの上にジュースを置いてからテーブルに座ったタイミングでワッツが言った。
「そろそろ帰ってくる頃じゃない?」
レミーがジュースを一口飲んで言った。
「どうだかな。あの2人は鍛錬となると時間を忘れてのめり込むタイプだ。自分達が納得するまでは帰ってこないだろう」
ワッツが言う。
「あの2人の鍛錬になる様な相手がいたら長引きそうね」
「そう言うことだ。そしてここに帰ってきた時には行く前よりも更に強くなってるということになる。特にダン、俺にはあいつの能力の上限が見えなかった。どこまで強くなって帰ってくるのか楽しみだよ」
「ワッツって本当にダンが好きなのね」
ミンが言うと
「あいつは今まで見たことがないタイプの冒険者だ。赤魔道士はミンもレミーも知り合いにいただろう?でも暗黒剣士を見たのは奴が初めてだ」
2人は同じ時代にソロで活動していた赤魔道士の冒険者を知っていたからワッツの言葉に頷く。
「暗黒剣士というジョブが実は最強のジョブなのかと俺は最初思ったがそうじゃなかった。ダンが最強の冒険者なんだよ。あいつが授かった基礎能力は半端なかった、そしてその半端ない能力を更に自分の努力で高めていった。あんな奴は今まで見たことがない。そうなると一体どこまで強くなるのか見極めたくなってな」
暗黒剣士はジョブとしては存在しているがそれを選択する冒険者はいない。いや過去にはいたかも知れないがワッツが知っている限りではダン1人だ。ダンの後に新規でこのジョブを選択した者もいない。
「奴は冒険者の概念というか常識をことごとく覆してきている。デイブと組んで2人だけで2ランク上の相手に鍛錬して倒してくるなんて俺たちの時には想像もできなかった」
「そうね。しかもあの2人はランクCの時にランクAのダンジョンボスを倒している。普通ならあり得ないわよね」
レミーが言うとミンも確かにあり得ないと言う。
「ダンの強さに引っ張られてデイブも強くなった。元はダンなんだよ。強くなることをいつも考えていて酒だ女だ博打に現を抜かさずに自己鍛錬を極めてくるとあそこまで強くなれる、いやもっと強くなれるんだって事をあいつは証明している。大した奴だよ」
そう言ってからワッツは最後に、
「もう俺なんかいくら努力しても追いつけない高みに登っていったよ」
そう言うワッツだがその表情は悔しさというよりも自分はそこまで登っていったダンを鍛えたんだという満足感が溢れていた。




