第56話
モレスビーを出発する日の朝、城門近くには要塞に向かうボルケーノのパーティにノワール・ルージュの2人、そして彼らに同行して要塞に詰めるBクラスの冒険者達が集まっていた。その中にはギルマスのコーエンの姿もあった。
コーエンはまずボルケーノに近づいていくと、
「よろしく頼むぞ」
「ああ。デイブがいるし大丈夫だろう」
ナイトのジャンが隣を見て答える。そうだなと頷いたコーエン。ジャンの隣に立っているデイブとマリアンヌに顔を向け、
「デイブ、要塞でしっかりと彼らを鍛えてやってくれ」
「もちろんだ。時間はたっぷりとあるからな」
デイブがそう言うとそれを聞いていたボルケーノの戦士のブルーが、
「お手柔らかに頼むぜ。俺達は4Sクラスじゃないんだからな」
「いずれはそれくらい相手にできるくらいにならないと安心できないだろう?」
デイブとジャンのやりとりを聞いていたコーエン、最後にボルケーノの近くに1人で立っているダンに近づいていった。
「黒い渦ってのを使うと向こうからこっちにもやって来られるんだろう?ダンはいつでも歓迎するから時間ができたらまた是非来てくれ」
「わかった。このモレスビーは俺にとっても第二の故郷だからな。デイブもいるしまた落ち着いたら顔を出すよ」
「必ずだぞ」
そう言って右手を差し出してきたコーエン、それに応えて握手をするダン。
「本当に世話になった」
「こっちもだ」
最後の短い挨拶を交わすとコーエンはBクラスの連中の方に移動していった。
一行はモレスビーの街を出るとまずはラエの要塞を目指した。翌日にラエの要塞についた一行はそこで夜を過ごすと、その翌朝大河の要塞に向かって歩き出す。
ラエの要塞から川の要塞へ行く途中には元々こちら側にいたCクラスやBクラスの魔獣がいるがCクラスの魔獣にはBクラスの冒険者達が、Bクラスの魔獣にはボルケーノが相手をして苦労せずに倒していく。戦闘を見ていたダンとデイブ。デイブがBクラスの冒険者達に今の戦闘について話をしている間にダンはボルケーノのメンバーと話をする。
前衛のジャンとマリアンヌ、そしてブルーの3人は背後の精霊士のクラウドの魔法の着弾を見てから剣を振っているがダンはそれでは遅いと言う。
「戦闘能力は上がっている。これは間違いない。チームワークも以前よりずっとよくなっている。でもまだまだだ。Bクラスならもっと早く倒さないとダメだ。まだお互いに完全に信用しあってない部分が見えるぞ。味方をもっと信用して早く仕掛けた方がいい。個人個人の戦闘の技量は上がっているからあとはチームワーク力を高めるんだ」
ダンの言葉を頷きながら聞いているメンバー。ダンはクラウドに顔を向けると続けて言った。
「クラウド、先に攻撃したらターゲットが自分になるんじゃないかと躊躇ってるだろう?もっと味方を信用するんだ。先に遠距離から魔法を撃ってもあとはジャンがしっかりタゲを移してくれる。心配するな」
「わかった」
ダンにダメ出しを喰らいながらも途中で出会う魔獣を倒しながら進み、ラエの要塞を出てから2週間ちょっとで大河の要塞が視界に入ってきた。
近づいてきたボルケーノらを城壁の壁の上から見つけた仲間が要塞の門を開け、一行は要塞の中に入ると今まで要塞に詰めていたリサラの街所属のAランクのパーティであるアクスと要塞に詰めている軍の将校が一行を出迎えた。冒険者達は1ヶ月単位で交代しているが軍の兵士はそれよりも長い間この要塞に駐留する。軍の将校はナッシュで彼はノワール・ルージュが魔人領から戻ってきた時にもいた将校だった。
「軍はまだ再編成中でね。しっかりとした組織が出来上がるまでもう少しかかる。そう言う訳で我々は組織が出来上がるまではこの要塞に詰めて北を見張る任務を続けているんだよ」
要塞にいる軍のトップであるナッシュはそう言ったあとで
「もっとも君たちが不可侵の約束を取り交わしてからはこの川の近くにも獣人や魔人は来ていない。彼らもきちんと約束を守っている様だ」
「そりゃよかった」
その後要塞の中にある部屋に軍の幹部らとボルケーノ、そしてノワール・ルージュの2人が集まった。デイブがこの国に残ることは既に彼らも知っていて皆歓迎してくれる。
「正直万が一の時に我々だけじゃあ勝つのが難しい。デイブがいてくれれば安心だよ」
「とりあえずは俺がいることで安心するのはわかるけど、いずれは自分達でも対処できる様にならないといけない。せっかくこの国に残ると決めた以上まずは冒険者のレベルを上げるつもりだよ」
デイブが言うと、我々軍の方も頼むよとナッシュから言われる。
「時間はたっぷりとあるからね。おいおい軍の鍛錬も見させてもらうよ」
デイブが言ったあとでナッシュが顔をダンに向けた。
「それでダンはいつ出発する予定なのかな?」
「ここに長居をしても意味がない。明日にでも要塞を出て川沿いに上流を目指していくつもりだよ。ここはデイブがいるから問題ないだろうし」
「ダンとデイブには感謝しかない。2人がいてくれたおかげで我々は国を失うという危機を避けることができた」
ナッシュが改まって2人にお礼を言った。
「俺達が魔人領に出向いていったのは鍛錬が目的だったんだ。結果的にこの国の役に立ってよかったよ」
デイブが言った。その後は要塞に詰めている兵士や冒険者達と一緒に要塞の中にある広い食堂で歓談しながらの会食となる。さすがに最前線の要塞で酒を飲んでばか騒ぎをする訳にはいかない。
食堂では明日ここを出発するダンの周りに人が集まってきていた。
「ダンとデイブの模擬戦が見られないのは残念だよ」
「見ても俺達じゃわからないんだけどな」
周囲がそんな声を出しながら話している。
「デイブはこれからこの大陸の冒険者達をビシビシしごくって言ってる。彼の訓練はきついから覚悟しておくんだな」
ダンが言うとマジかよという声が冒険者達の中から上がるが彼らはそれを望んでいるのは雰囲気から伝わってくる。ダンは顔をBクラスの連中に向けると
「みんなも鍛錬をしてクラスを上げるんだ。Aクラスが街に1組なんて決まりはないって聞いている。努力を続けたら間違いなく強くなれるよ」
その言葉に頷くBクラスの連中。彼らから見ればノワール・ルージュは別格の強さの冒険者に見えるが彼らも初級冒険者から上がってきたのだというダンの言葉に大きく頷く。
鍛錬を続ければ誰でも強くなれるんだという当たり前のことを再認識する彼らだった。
食事が終わるとダンとデイブの部屋にマリアンヌはじめボルケーノのメンバーがやってきた。
「最初にラエの要塞で会ってからいろんなことがあったよな」
ジャンが言うとそれをきっかけに彼らとノワール・ルージュの思い出話になる。ダンもデイブもその話に乗っかってあの時はこうだったなとか皆で思い出しながら話していた。その話がひと段落したところで、
「ところでさ、デイブとマリアンヌの関係だけどダンはいつから気がついていたんだ?」
クラウドがニヤニヤしながら聞いてきた。
「マリアンヌが鍛えてくれと最初に俺たちに言ってからどうだろう、3回目のデイブとの鍛錬を見ていた時にそうじゃないかと思ったよ」
「それって結構前じゃない。そんな時から気づいていたの?私たちは全然気が付かなかったのに」
僧侶のジャスミンが聞いてくる。色恋の話は女性も男性も大好きだ。マリアンヌとデイブは黙ってダンの顔を見ている。ダンは2人と目を合わせてから顔をジャズミンに向けると、
「剣を合わせると相手の考えていることがわかる。しかも俺とデイブは長い付き合いだ。デイブの剣の動きで考えていることがわかる。そしてマリアンヌだが彼女は純真だ。気持ちが剣筋に出るからね。デイブとマリアンヌの模擬戦をを見てこりゃ2人とも惹かれあってるなってわかったよ」
ダンの言葉にびっくりする周囲のメンバー。剣を合わせただけでわかるのかというクラウドの言葉に頷くダン。純真だと言われたマリアンヌは顔を赤くして俯いていた。
「ダンの剣はそれくらいのレベルだってことだ。例えば魔人などの強い敵と対峙すると剣を何度か合わせると相手が次にどう動くかが予想ができるらしい。俺はそれを知っていたからダンにはバレてるなと思ってたよ」
デイブの言葉に皆ダンに顔を向けた。
「はっきりと分かる訳じゃない。でも剣を使った動きやちょっとした仕草でそうだろうなって分かるんだよ。こいつは次横から来るなとかね。感覚的なものかな」
「次の動きが予測できれば戦闘がずっと楽になるよな」
「鍛錬を続ければ誰でも知らないうちに身につけられるよ。特別な能力じゃない」
しばらく雑談をしてマリアンヌ以外のメンバーが部屋から出ていくと部屋には3人だけ残った。他のメンバーも気を遣ってくれている。部屋に残ったのが3人になるとダンはマリアンヌに、
「デイブをよろしく頼むよ。彼は間違わないがそれでも完璧じゃない。それにまだこの国を完全に理解していない。マリアンヌがデイブの足りないところを補って助けてやってくれ」
「わかった。ダンも気をつけてね」
「ありがとう」
そう言って今度はデイブを見て拳を突き出すとデイブも拳を突き出してきた。言葉はいらない。お互いに拳を突き合わせるだけで十分だった。
翌朝、大勢の見送りを受けてダンは要塞から出ていった。要塞を出る前、最後にデイブがダンに近寄ってきた。2人は拳を合わせてからがっしりと抱き合う。
「俺はここで待ってるぞ」
抱擁を解くとデイブが言った。
「ああ。必ずまた会おう」
そうして隣にいるマリアンヌに
「世話になった。デイブをよろしくな」
その言葉に目を潤ませながら頷くマリアンヌ。
挨拶をして皆に手をあげるとダンはそのまま背中を向けて川沿いに上流を目指して西に向かって行った。
「根っからの戦闘人だったよな」
「でも人間的にも優れてた。大した奴だよ」
ダンの背中を見ながら口々に言う冒険者達。彼らはダンの姿が見えなくなるまでずっと要塞の門の外で見ていた。




