第55話
ダンは2週間後に大河にある橋の要塞経由でそのまま川沿いに上流を目指すことにする。これはそのタイミングで橋の要塞に詰めているAクラスのパーティの交代で次にボルケーノが要塞に詰めることになっているからだ。大河の横にある要塞は現在この王国にいる5組のAランクパーティが交代で詰めるローテーションを組んでいる。
彼らと一緒に要塞に出向いてそこから1人で西の山を目指して進むことにしたダンはモレスビーの街の中で準備を進めていた。その途中でデイブとマリアンヌの新居に顔を出したダンは2人の持ち物の整理をする。
「アイテムボックスはダンが持ってくれ。俺はダンが持っている魔法袋の大を貰う」
新居の応接間で2人はそれぞれの持ち物を取り出しては分けていく。
「わかった。オーブはデイブだな」
「いいのか?」
「お互い無事だって確認ができるからな。デイブが持っていた方が良いだろう」
マリアンヌはデイブからアイテムボックスやオーブの説明を受けてびっくりする。2人が袋やアイテムボックスから取り出してくるものはほとんどが見たことがない様なものだ。興味津々と言った目でそれらを見るマリアンヌ。
「すごいものがあるのね」
「普通じゃまず手に入らない。ダンジョンの奥にある宝箱や強い敵を倒した時に落とすアイテムだよ」
デイブの隣でアイテムや武器を覗き込んでいるマリアンヌにデイブが説明していく。
「二人の武器もそうやって手に入れたの?」
「そうだよ。おそらく俺とダンが持っている片手剣以上のものはないだろう。それくらいに優れたものだ」
「以前貰った片手剣も凄い切れ味よ」
「あれも優れものだ。この大陸では見ない武器だよ」
「そうだな。あれも良い武器だ」
デイブとマリアンヌのやりとりを聞いていたダンが言った。前のモスト大陸で入手した魔石はダンが持ち、この大陸で手に入れた魔石はデイブが持つ。
「これみんなSクラス以上の魔石ね」
並べられた魔石の中から大きな魔石を1つ手に取ったマリアンヌ。
「魔人領で?」
と魔石から顔を上げて続けて聞いてきた。
「そう。獣人や魔人を倒して取ってきた。面倒くさいからAクラス以下の魔石は拾ってないけどね」
目の前にある多数のSクラス以上の魔石を見ているマリアンヌ。これだけでも相当な金額になる。マリアンヌの視線に気づいたデイブが言った。
「これだけの魔石を換金したらとりあえず金には困らないんじゃないか?」
「困らないどころか大金持ちになれるわよ」
「そりゃよかった」
「こっちにもまだあったよ」
そう言ってダンが自分の袋からこの大陸で取った魔石を取り出した。SクラスどころかSSクラスやその上のクラスの魔石まである。手元に数個だけ残したダン。ヴェルスの錬金ギルドに見せてやるんだという。
「あとは全部どうぞ。俺には不要だからな」
「じゃあ貰っておこう」
2人のあっさりした会話を聞いているマリアンヌ。そして普通なら見ることができないSS以上の魔石が次々と並べられていのを見ながら改めてこの2人が桁違いの強さであることを目の前の魔石を見て認識していた。
「向こうの金はこれだけだ」
デイブがモスト大陸で使っていた貨幣をダンに渡す。
「OKだ。あとヴェルスに戻ったらデイブのアパートは解約しておくぞ」
モストの貨幣を受け取ったダンがアイテムボックスに収納しながら言った。
「頼む」
お互いの荷物の整理が終わるとマリアンヌとデイブがせっかくだから家で飯を食っていってちょうだいとマリアンヌお手製の食事を食べることになった。
「ダンの準備は進んでるの?」
3人で食事をとりながらマリアンヌが聞いてきた。マリアンヌとデイブが並んで座り、デイブの向かいにダンが座っている。
「ほとんど終わったよ。今日アイテムボックスを貰ったからあとは水や食料品を買い足したら終わりかな」
美味いなと言いながら料理を食べているダンが言った。
「やっぱりこっちにも渦の前には守護神のゴーレムの様な奴がいるんだろうか?」
同じ様に料理を口に運びながらデイブが言う。
「いると思った方が良いだろうな。まぁこっちも強くなってる。4Sクラスなら問題ないだろう」
ダンがあっさりと言うとデイブも今のダンなら雑魚とまでは言わないが問題のない相手だろうと言う。
「4Sクラス相手に問題ない相手だって言えるのがね、もうわかってるんだけどびっくりしちゃうのよ」
マリアンヌの言葉を聞いてダンが顔を上げて彼女を見た。
「俺達も最初から強かった訳じゃない。鍛錬を続けた結果強くなっただけだよ。マリアンヌのボルケーノもこれからはデイブと一緒にダンジョンに潜ったりして鍛錬するといい。人間領内にはもう強い敵はいないがダンジョンにはSランクやそれ以上もいる。鍛錬する場所はあるからな。格上と鍛錬したら勝手に強くなるよ」
「そうね。ダンが言っていたけどこの国のAクラスの冒険者が強くなることが国の安全につながることになるんだものね」
そうの通りだと言うダン。
マリアンヌはダンは無口な男だと思っていたがデイブと2人の時はそうじゃないってことがデイブと一緒になって初めてわかった。その事をダンとデイブに言うと、
「普段はデイブに任せている。俺が話するよりもずっと的確に、そしてうまく話を纏めてくれるからな。デイブは俺なんかよりずっと頭がいいし物事の先を読むのにも長けている。だからデイブが話していると俺は何も話さなくてもいいんで楽なんだよ」
そう言っていた。ただこのダンの言葉ににはデイブが、
「話するのは過去からの成り行きというか知らない間に役割分担度して俺が話しているだけだよ。戦闘能力じゃダンの方が俺よりも上だ。俺はそれを分かっているからダンが戦いやすい立場や環境を作るのが自分の仕事だと思ってる。ダンも頭がいいし先を読む能力もしっかりとある。まぁお互いに立場をわかっていて長い付き合いの間に自然と分担が決まっていったって感じだよ」
お互いがお互いを認めあっているのがマリアンヌにも伝わってきた。
その後もダンは準備を進め、彼の全ての準備が整った日にモレスビーのギルドに顔を出した。明日の朝からボルケーノと一緒に要塞に向かうので最後の挨拶だ。
「世話になった。明日要塞に出向いてそのまま川の上流を目指してくるよ」
「世話になったのはこっちだぞ、ダン。お前がいなきゃこの国は亡くなっていただろう。感謝しても感謝しきれないほどだ」
ギルマスの執務室でダンと向かい合って話をするギルマスのコーエン。最初このギルドにきた時には暗黒剣士、赤魔道士って何だ?と思っていたが模擬戦を見てその実力に驚いたのが昨日のことの様だ。
「この大陸に来て強い相手と鍛錬ができて腕が上がった。この大陸でやるべきことはやったよ。あとはデイブに任せておけば大丈夫だ。あいつはこの国のAランクをはじめ冒険者達をしっかりと鍛え直すと言っている。素材がいいのが多いから1年か2年もすりゃ皆強くなるだろう」
「ダンにそう言ってもらえるとこっちも安心だな」
最後にギルマスと固い握手をして執務室を出たダンは酒場にいた冒険者達と最後の酒を楽しんでモレスビーの夜を過ごした。




