第54話
王城を出た2人はその足で王都のギルドに顔を出しギルマスに報告をする。デイブが残ると言った時にはびっくりしたギルマスだがその理由を聞くと表情が一変した。
「そりゃめでたい話だ。マリアンヌは俺達の国の中じゃあトップクラスの腕前だそして美人で性格も良い。デイブもいい相手を見つけたな」
「とりあえずこの話はギルマス止まりにしておいてくれるかい? 正式になったらモレスビーからまた挨拶にくる」
わかったというチャールストン。デイブがいれば万が一の時でも安心だし、彼がこの国の冒険者を鍛えてくれれば彼らのレベルも上がる。目の前の2人は多くは語らないが少なくともこの国の将来を考えて結論を出したのだろうと理解する。一緒になるだけならマリアンヌを連れていくという選択肢もあるがそうしなかったというのがギルマスには嬉しかった。ギルマスはダンに顔を向けた。
「ダンはこれからソロか」
「そうなる。まぁ腕も上がってるしこの大陸であの魔人の首領以上の敵はいないだろう。1人でもなんとかなると思ってるよ」
ダンの言葉に頷くギルマス。デイブもそうだがこのダンはデイブ以上に戦う男だ。既に他の冒険者達がどんだけ頑張っても手の届かない程の高みに昇っているがそれに満足せずにさらに上を目指している。5Sクラスの魔人を相手に五分の戦いをする奴なんてダン以外はもう現れないだろう。
「わかった。お前さん達2人は一応Aクラスのままだが実質はSかそれ以上だってのはギルド関係者の全員が知っている。デイブはこの国での活動に一切制限はない。好きに動いて冒険者を鍛えてやってくれ。そしてダン、お前さんにはもう何も言うことがない。世話になりっぱなしだった。また黒い渦を見つけて飛び込んでいくんだろうが、この大陸に来る方法は知ってる。いつでも来てくれ。歓迎するよ」
「ありがとう」
その後2人は王都のギルドで仲間の冒険者達を酒を飲んで過ごし、翌日の昼過ぎに王都を出てモレスビーに向かう。
「黒い渦の近くまで一緒に行こうか?」
モレスビーに向かう街道を歩きながらデイブが言った。
「いや、大丈夫だ。モレスビーでしっかりと準備をして出ていくよ。それにまだあの大河の上流に渦があると決まった訳じゃない。渦が無かったらまた戻ってくるかもしれないしな」
「まぁ今のダンなら何が出てきても大丈夫か」
「多分な。あのボス以上のがここにいるとは思えない」
デイブの気遣いが伝わってくる。ダン1人で行かせる事がまだ自分の中で整理がついていないのだろう。
途中の街の宿に泊まった夜、人が少ない宿の食堂で夕食をとりながらダンが言った。
「俺達はランクCから一緒にやってきた。俺がここまで強くなれたのはデイブがいたからだ。俺1人じゃ到底無理だった。デイブには随分と助けられてきている。そして俺もデイブもそれなりに強くなった。これからはお互いに自分の幸せを探す時だと思うんだ」
「俺もお前がいなかったらここまでなれなかっただろう」
「お互いにいい関係が続けられてよかったよ。それにギルマスも言っていたけど会おうと思えば会えないことはない。ここでの別れが今生の別れにはならない」
ダンの言葉を聞いたデイブが手に持っていたフォークをテーブルに置くと拳を突き出してきた、自分も拳を作ってデイブの拳にぶつけるダン。
「デイブは伴侶を得て自分の人生を歩き出す。俺は自分でもこれからどうしたいのかがまだわからない。だからとりあえず目の前に渦があれば飛び込んでいくつもりなんだ」
そう言ってから
「でもひょっとしたらデイブがマリアンヌと2人でモスト大陸に来た時には俺も1人じゃないかも知れないぜ」
笑いながら言うダン。
「そうだな。楽しみにしてるぜ」
王都を出て3週間後、2人は見慣れたモレスビーの城門を潜って市内に入っていく。ギルドに顔を出してギルマスに王都での報告を済ませるとそのままギルマスの部屋からギルドの受付に戻ってきた。
昼過ぎの時間帯でもあったせいかギルドの中は閑散としていた。デイブは受付に言伝を頼むとダンと2人でモレスビーの常宿に足を向けて部屋を2つ確保した。
ダンが部屋に入って水浴びをして旅の疲れを取り、そのまま部屋でのんびりとしていると夕刻、ドアをノックする音がしてデイブとマリアンヌが部屋に入ってきた。マリアンヌはいつもの皮の戦闘服のままだ。
「ダンはわかってたのね」
1つのベッドに並んで座るデイブとマリアンヌ。ダンは部屋にある椅子に腰掛ける。
「ああ。デイブとは長い付き合いだからな。お互いに相手が何を考えているのかはわかるんだよ。それよりもおめでとう。デイブなら俺が100%自信を持って推薦するよ。こいつは間違いなくいい男だ」
マリアンヌはありがとうと言ってから
「私が2人について一緒に行くのには反対だったの?」
「反対だ」
即答するダン。
「ただそれはマリアンヌ云々の話じゃない。この国で俺とデイブは魔人領に乗り込んで向こうのボスと相互不可侵の約束事をしてきた。ただ女王陛下をはじめ各地のギルドマスターも万が一獣人や魔人が約束を破って人間領に入ってきたらどうするんだという心配をしている。これは当然だよな。そしてその不安を取り去るには俺かデイブのどちらかがいた方が良いと言う話になる。彼らは直接は言わなかったが俺たちに残って欲しいと思っているのは伝わってきていたんだよ。そんな中でデイブとマリアンヌが一緒になるのならそのままここに残った方がいいだろう?」
珍しくデイブが黙ってダンとマリアンヌのやりとりを聞いている。
「それにデイブには言ったが渦に飛び込んだらまたここに来られる。2人も渦に飛び込んだら俺がいる大陸に来ることができる。その気になったらいつでも会えるってことだ」
明るく言うダン。聞いていたマリアンヌはもう一度ありがとうと言って頭を下げた。
「マリアンヌも他の冒険者達もデイブに鍛えてもらうといい。自分達が強くなれば魔人のことなんて気にしなくてもよくなるのだから」
「そうね」
デイブとマリアンヌの話はすぐにモレスビーの冒険者の間に広まり、それから各地にも広まって言った。多くの冒険者は2人の結婚を喜んだが各地のギルドマスター、そして軍の関係者は結婚よりもデイブがこの国に残ると聞いて安堵の声を上げる。
それから10日後、モレスビー市内にデイブとマリアンヌの新居の準備ができたとこの街にある王家の出先機関から連絡がありマリアンヌと3人でその新居に向かう。そこは商業区から居住区に入ったところにある一軒家だった。ギルドからもそう遠くはない。新居の前には王家の関係者が待っていた。彼に続いて家の中に入る3人。
「いい家じゃないの」
家に入ったダンが言った。庭が広くゆったりとした一軒家で中に入ると2人には十分すぎるくらいの広さがある。しかも置かれている調度品や家具も落ち着いていていい雰囲気だ。
「こりゃ想像以上に素晴らしい家だ」
家の中を見たデイブも言う。マリアンヌも感心しながら家の中を見ていて
「こんな立派な家、本当に王家から私たちが貰っていいのかしら?」
その言葉を聞いていた王家の関係者が言った。
「もちろんです。女王陛下よりくれぐれも良い家を準備しなさいと連絡を受けております。もちろん今日からこの家及び中にある家具は全てデイブ様の持ち物となります。家賃等は一才不要です。お好きにお使いください」
「よかったな、デイブ、マリアンヌ」




