第19話
「肩が凝ったな」
王城を出て市街に戻ってくる道すがらデイブが言う。
「俺達は無粋な冒険者だ。あの場所は似合わないよ。それにしても地図がもらえたのはラッキーだった」
「全くだ。あとで高い山か火山を探そうぜ。あの黒い渦はたぶんそこあるだろうから俺たちの目標になる」
デイブが言うと隣を歩いているダンも頷いた。
「王家の紋章が入っているコインか。これがあるとどこでも自由に動けると言ってたな。どっちもこれから必要になるだろう。助かったよ」
そんな話をしながら通りを歩いて二人がギルドに顔を出すとすぐにギルマスの部屋に呼ばれる。そこで王城での話の内容をギルマスに伝えた。
「元々冒険者ってのは自由気ままな商売だ。どこに行こうと勝手さ。それでこれからどうするんだ?」
「とりあえずモレスビーの街に戻る。それから北に行くよ。獣人を倒しながらね」
あっさりと言うデイブ。聞いているギルマスのスチュアートはこの二人は前もそう言っていた事もあり今の発言を驚かずに聞いていた。
「わかった。それでだ、王都の騒ぎが収まったこともありこの街所属のホワイトタイガーの連中も最前線に行きたいと言ってきている。モレスビーまで一緒に行ってくれないか?」
王都での事件で冒険者達が王女を守る必要がなくなった今、ランクの高い冒険者が最前線に行きたいと言うのは不思議でも何でもない。
「ここだけの話だがな、新しい国防大臣からはギルドに対して1年半から2年の間、今のまま冒険者が最前線に張り付いて対応してくれという話が来ているんだ。その間に弱体化した軍隊を整備しなおしそれから各都市とその郊外にある要塞に送り込む計画らしい。それまでの繋ぎを頼まれている」
聞きながら当然の話だとダンもデイブも頷く。魔人によって弱体化された軍隊はそう簡単には元の状態に戻らない。ある程度時間がかかるのは仕方のない話だと。
「俺達は構わないよ。モレスビーにはボルケーノというAクラスのパーティがいる。そこにホワイトタイガーが来たら防衛ラインとしちゃあそれなりに堅牢になるんじゃないの?」
「そう言うことだ。モレスビーは最前線の中でも一番戦闘の頻度が高い都市でな。そこに2組のAクラスを張り付かせることでかなり押さえられるというのがギルドの見立てだ」
その後ギルマスの執務室から受付に戻るとそこにはノワール・ルージュを待っていたホワイトタイガーのメンバーがいた。酒場に移動して一緒に座るとすぐにプリンスから
「ギルマスから聞いたと思うけど、俺達の王都での仕事がなくなった今ここにいる必要はない。なのでノワール・ルージュと一緒にモレスビーに移動することにしたんだよ」
「俺達は問題ない。モレスビーまで一緒に行こう。ただモレスビーに着いた後は俺達は街で買い出しをしてから北に向かう。獣人の村や街を片っ端からぶっ潰していくつもりだよ」
デイブが言うとそれは知ってるよというホワイトタイガーのメンバー。
「正直ノワール・ルージュ以外で大陸中央部の川を目指すことができる力のある冒険者はいない。そこは任せるよ」
プリンスが言うと周りも失った領土を取り返してくれと声をかけてきた。そしてそのまま流で酒場で仲間で酒を飲む二人。
飲んでいるとホワイトタイガーの戦士のジャンが、
「ところで宰相に化けていた魔人、大臣に化けていた魔人、お前たちから見てそいつらのクラスはどうだったんだ?」
「せいぜいSクラスだろう。そうだよな?」
デイブが答えてダンを見ると、
「ただのSクラスだな、本当に雑魚だったよ。鍛錬にもならなかった」
Sクラスが雑魚で鍛錬にならないと表情一つ変えずに言うダンの言葉を聞いている周囲の冒険者たち。実際にギルドの前でダンの戦闘能力を見ていた連中はダンの言葉が誇張でも何でもないことを知っていた。目にも止まらない速さで片腕ずつ切り落として眉ひとつ動かさず平然としていたダン。最後は魔人の方が恐怖に慄いていたのが周囲から見ても丸わかりだった。それほどの迫力を持っていた。
普通ならSクラス相手、しかもそれが魔人となるとAクラスのパーティが死を覚悟して複数で挑んでいく相手だ。その相手に向かってお前は弱いと言い切って一人で倒す強さ。今こうして静かに酒を飲んでいるダンからは想像がつかない。
その日の夜、宿のデイブの部屋でダンとデイブはテーブルの上に地図を広げていた。
このシグナギ大陸は簡単に表現すれば長方形の大陸でその中央部に大きな川が流れている。その川は大陸の西部にある高い山々から流出している様だ。ちょうど川を挟んで高い山が川の北側と南側にある。
2人は予想はしていたが大陸北部、獣人領の部分はあまり記入されていない。恐らく川の向こうに行ったことがある人間がいないのだろう。
「高い山は西部のここだ。渦があるとしたらここが一番怪しい。大陸中央のこの川沿いに上流に上っていけば行けそうな感じだな」
地図を指差しながらデイブが言う。
「そうだな。それにしても変わった大陸だな。西側の海岸線沿いにいくつか高い山があるだけで他はほとんどが平地か低い山々だよな」
「いや、ダン。俺たちのいた大陸が異常だったのかもしれないぞ。荒野だらけの大陸の方が普通じゃない気がする」
「そう言われたらそうか。こっちは緑が多く水も豊富だよな」
ダンは以前自分がいた地球を思い出す。ほとんど出歩くことは出来なかったがそれでもテレビや地図を見ると多くの場所が緑だった。
そんなことを思い出しているダンの耳にデイブの言葉が飛び込んでくる。
「山の上にあるだろう黒い渦を探す前に獣人領の奥にいって鍛錬だな」
「その通り、こっち側だとおそらく鍛錬にならないだろうしな」




