第16話 最強のカタチ
コスチュームが変わったことで身体能力が爆上がりした2人は、現実ではありえないような身のこなしで宙を舞い、互いに殴り合う。
空中で蹴りを避け、その隙を狙ってタカユキが拳を打ち込むと同時に、リキがそれをカウンター。
そしてそのカウンターされたリキの拳を、タカユキがまたカウンター。
カウンターにカウンターで返し、空中にも関わらず、相手の攻撃を容易に避け、当たらなかった攻撃は嵐のような爆風となって地面に大きなクレーターを作る。
大きな柱のような岩壁を上手く使い、相手の目を眩ませながら攻めに入る。
蹴り、殴り、背負い投げ、肘や膝を腹部に突きつけ、互いに引けを取らない。
「ハハッ!やっぱり同じ力量で戦える相手がいると楽しいな!」
そのようにタカユキに言って笑うリキ。
余裕そうに見えるが、こう見えてけっこう体力の消耗は激しい。
「確かに……そうかもなっ!」
一撃を食らわせるために腕を振り下ろす。
が、それは容易に避けられ、タカユキを中心に隕石でも落ちてきたのかと勘違いしてしまうような大きなクレーターができる。
体力の消耗だけが互いを蝕み、そろそろ決着を決めなくてはと、痺れを切らしたタカユキがリキに向かって話しかけた。
「なぁリキ!そろそろとっておきを出してもいいか!?」
「なるほど……!じゃあ俺もそろそろ出させてもらおうか!」
そして、互いに右腕に力を込める。
だが、どうしてもその2人から湧き出るオーラが、人間離れしているようでならない。
そして、2人は己のスキル名のひとつを叫んだ。
「燃えろ!我が魂よ!暗黒に交じりて太陽の如く!熱き輝きを辺りに照らせ!『渾身の一撃!打!!』」
「人類を超越せし力よ、我が力となりて敵に絶望を、味方に希望を!『巨神の右腕!!』」
空気を振動させ、リキの熱気が観戦者達の元にまで届く。
皮膚に浮き上がった血管に、目に見えてしまうほどに高まったオーラ。
力強く握りしめられた拳は光を帯びていた。
すぐに分かる、とてつもない威力だということは。
だが、そんなリキに対しても、タカユキはまだ負けていなかった。
禍々しく青紫に輝く腕。
まるでそれは、鬼神を思わせ、鋭利な角のような物が幾本も生えていた。
「フゥゥゥゥ……」
「なんだよアイツ……めちゃくちゃかっけぇじゃん……」
「リキの気迫もなかなかだけどな」
「じゃあ……行くぞ……!」
「よっしゃあ!」
そして、互いに構え、瞬間的に互いの中心にひとっ飛び。
ただ前へ進むだけで、体を煽られるほどの爆風が吹き荒れる。
互いに手の届く範囲内に来た時、思い切り腕に力を込め、振り下ろす。
1歩も引かず、逃げようとも、避けようともしない。
正真正銘の一騎打ちが今、繰り広げられた。
「「ハァァァァァァ!!!!」」
……………………
このような話を聞いたことがあるだろうか。
どんな矛の刺突も防ぎ切る最強の盾と、どんな盾でも貫く最強の矛の話。
矛盾。
ならば、もし、この最強の矛と最強の盾をぶつかり合わせた場合、どのような結果になるのか。
この答えは、至って簡単。
最強と最強のぶつかり合い。
つまりは……相打ち。
最強と呼ばれるもの達は、どんな形であろうと、平等なのである。
…………………………
2人が拳をぶつけ合う瞬間。
周りの音が一瞬、完全に遮断される。
話し合う誰かの声も、空気が流れる音も、木の葉が揺れる音も全ての音が消え失せ、目の前に広がる2人がぶつかり合う光景がただ、視界に入ってきた。
そして、次の瞬間。
まるで稲妻が落ちてきたような、耳を思い切り突き刺すような音が、辺り一体に鳴り響く。
パッと閃光が輝き、思わず全員が目を瞑った。
「ゔぁっ!!」
「がハッ……!」
2人の叫び声が響き、やっとのことで目が開けるようになると、そこには、大きくはじけ飛ばされ、地面に倒れ込むタカユキと、岩の壁にめり込んだリキの姿があった。
「あっぶないなぁ……」
そう言って、あとからやってきた1人の勇者が防御の魔法を解除すると、弧を描いた水がビシャッと地面に落ちて吸い込まれていく。
これが無ければ、あの二人だけでなくナツミやアモン達までもが吹き飛んでいただろう。
が、問題はこの後だった。
「なっ、何が……!?」
「いや、そんなことよりアレなに!?」
「魔力消費……キツすぎるぅ……」
そして全員がそれに注目した。
まるで豚のような、大きな腹を抱えた巨大な化け物。
ところどころに人間の赤い眼球のようなものが埋め込まれており、気味が悪い。
すると、それはいきなり眼球をギョロギョロと動かし始め、それぞれの目が観戦している人たち、そして動くことができないタカユキとリキを捉える。
「ちょっと……これやばいんじゃないの……?」
「アレは……魔災獣……!?」
「しっ、しかも……ジャイアントキメラオーク……!」
「まっ、魔災獣……?ジャイアント?キメラ?」
「はいです」
ミナとニナが反応する。
「魔力災害獣と言って、国家指定害獣になってますです」
「でも、アイツ、レベル高い。勇者でも、勝てる?分からない」
「今回の原因は極度な魔力の密集でしょうね」
「さすが。勇者、すごい。でも、困る」
そう言う2人の言葉を聞いたなつみが、刀に手を添え、口を開く。
「とにかく、アイツを何とかしないとヤバいのね」
「えっ、ちょっとさっきの聞いてた?」
「いや、だから、ぶっ飛ばさないとヤバいんじゃないの?」
「その通り」
「えぇ?だってさっき勇者でも勝てるか分からないって……」
「アモンくん!行くよ!」
「……っあぁもうしょうがないなぁ!」
「それと、さっきはありがとね!アオイ!援護イケる!?」
「うん!魔力消費凄かったけど、まだ行けそう!」
出席番号19号。海花 碧。
なつみにとても気に入れられている。
毒舌ななつみに反し、平和と癒しの言葉が似合うような女の子。
可愛らしいミニキャラを描くのが得意。
先程の水魔法はアオイのスキルの1つ。
かなりと使い手と見てもいいだろう。
「それと、リキとタカユキは!?大丈夫!!?」
「あ……あぁ……大丈夫には……大丈夫だ……でも……」
「体力が残っ待てなくて……まったく動けない……」
互いに倒れたまま、ギリギリ残った体力を使って答える。
ほんの少しだけ顔を浮かしてみるが、そんな体力も余っておらず、すぐに倒れてしまう。
「なるほど……じゃあ3人で……行くよ!アモンくん、アオイちゃん!」
「分かった!援護は任せろ!」
「あたしも援護になるんだろうけど……頑張るよ!」
そして、目にも止まらぬ早さで、化け物に向かってナツミが駆け出す。
そしてアオイがどこからか白銀の槍を取り出し、前に突き出し、口を開いた。
「海の女神よ、彼の者に祝福を!『オーシャン・シールド』!」
ナツミを円で囲むようにして薄い水の壁ができる。
次の瞬間、化け物から生えた幾本もの触手がナツミを襲ったが、水のシールドに弾かれてナツミは無傷のまま。
アオイの判断力が生んだチャンスである。
「ナイス!アオイちゃん!」
「ありがとう!っ……でも……コイツ強いっ!魔力がゴリゴリ削られる……!あんまし持たないかも!」
「オッケー了解!」
触手を避け、たまに斬って流し、できるだけアオイに負担がかからないようにする。
だがしかし、これではなかなか前へと進めない。
それに気が付いたのか、片手に分厚い本を持ったアモンが手の平を前にかざし、唱える。
「どこだ……たしかここに……あった!『274ページ、第13章、植物法、第7番!悪魔のごとく這いずり、世界を蹂躙せし生命の王!今!我が力となりて目の前の敵を束縛せよ!《束縛の茨》」
そのように唱えると、アモンの目の前に広げられた分厚い本から、何本もの茨のツルが真っ直ぐにモンスターに向かって飛びかかる。
四股をみごとに捉え、襲いかかる触手の動きも止まり、今この瞬間しかないチャンスを逃す間もなく、ナツミは勢いよく飛び上がった。
「刀剣……大倶利伽羅!いざ……抜刀!!!」
大倶利伽羅。
江戸を語るには欠かせないであろうこの刀。
燃え盛る炎に纏われた倶利伽羅龍の刀身彫刻が施され、ギラりと刀身が太陽に照らされる度に、美しくそれは輝く。
かつてその刀は不動明王が右手に持っていたとされ、その威力も凄まじく、他に引けをとるはずもなかった。
その伝説級の刀を用いて、ナツミは空中で居合の構えをとった。
「……フッ!」
その声が辺りに響きわたり、化け物の背後には、既に刀を振り抜いたナツミの姿があった。
「強いって言ってたけど……アタシにとってはちょっぴり柔らかすぎたかな?」
そう言うと、ゆっくりと刃先を鞘に通す。
つい先程までしっかりと立ち尽くしていたソイツは、刀を収めきった途端、まるで煙のように細かに斬り刻まれ、空気中を漂って消えてしまった。
「いや、ナツミおまえ……ぜってぇ俺らより強ぇだろ……」
リキが最後にそう呟くと、体力の限界が来たのか、ガクリと力を抜かして眠ってしまった。
「ん?今なんか……」
「なっちゃんスゴーイ!何さっきの!!」
「えぇそう!?やっぱワタシすごい!!?」
「さっきので台無しだと思う」
「ワタシはアモンがうるさいだけだと思う」
そんな話をしていると、ミナとニナがテッテッテッと走ってやってくる。
「勇者、すごい」
「さすがですぅ!では、もう用事も済みましたし、王国に帰りましょう!」
「そうだねっ!あ、そういえばリキくんとタカちゃんどうする?」
「私たち、運ぶ」
すると背の小さなふたりは、身の丈以上の人間をヒョイっとかつぎ上げると、「行きましょう!」と言ってゲートを開いた。
「だっ、大丈夫?持つよ?」
「私たち、力、ある。リキ、さん。タカユキ、さん。持てる。大丈夫」
「なっ、ならいいんだけど……」
そうして、無事に帰ることができたナツミ、アモン、アオイ達は、その日も平和にゆっくりと体を休めた。




