第13話 勇者ってなんだ?
それぞれ、勇者に似合った武器を取得し、真の力を手に入れた勇者たちは、今現在……
「やばい」
「どうした?急に」
「気づかないのか?」
「そりゃあ、気づかない方がおかしいだろう」
「「暇すぎる」」
イブキとアモンが息を揃えてそう言う。
と、それに応えるようにしてナツミとリキが反応する。
「それ分かるぅ!!俺もめっちゃ思ってたんだよね!」
「マジで。アタシたちってさ、一応勇者なんだよね?」
「世界を救うべき勇者が、こんなにも暇してていいのか?」
「この世界の、勇者の在り方がまったくもって分からん」
「これじゃぁ、勇気なんて出せたもんじゃないわ」
そう言って、ナツミが床に仰向けになる。
と、ここでイブキがふと気づいたように、皆に話しかけた。
「ここ、俺の部屋なんだけど」
そう言ったイブキに皆が注目する。
この言動の何がおかしいのだろうか。
イブキは自分の言った事が不安になる。
今、この部屋にいるのは、ナツミ、リキ、アモン、そして、イブキの全員で4人。
部屋の前でたまたま3人に出くわしたイブキは、部屋に呼んだ覚えも全くないまま、まるで川に流れる水のように自然に3人は中に入ってきたのである。
玄関を入ってすぐにある客人用のグローバル空間も意味を成さないほどに滑らかに、イブキのプライバシー空間に一直線。
もちろん、靴は脱いではいるが、あとは好き放題だ。
でも、悪くはない。
この暇な時間に、誰かと居座れるというのは、嫌な気はしない。
が、正直言って、今のイブキにとっては3人の存在はただただ迷惑極まりなかった。
「……え?」
まるで見たことの無い生物を見るような目で、そう言われる。
「いや、え?じゃなくて。」
思わずイブキはそう答えた。
「帰ってくんない?」
当たり前の反応である。
と、思っていれば、何に気づいたのか、ナツミが騒ぎ始めたのをきっかけに、部屋中が騒がしくなる。
「待って!?何コレ!?」
「ナニナニ!?え、何それすげぇ!!」
「まってまって!こっちにも変なのある!!」
「ねぇコレ見てよウケる!!」
「アハハハハハ!!お前これどこで買ったんだよ」
「お前ら俺の物勝手に触るなよ!!」
この日に、イブキ部屋の大探索が行われたのは言うまでもない。
誰も注意する人は……イブキを抜かして誰もいない。
防音はMAXレベル。
止められるものは誰もいない。
……と、いうわけで、散々探索したナツミ、リキ、アモンは、今度はイブキと城下町に遊びに行こうという事になり、イブキの案内のもと、街中を歩くことになったのだった。
「……で、ここがパン屋」
「アレってパン屋だったんだ」
「パッと見はセ〇ン・イレ〇ンだよね」
「で、あそこが武器屋だって」
「武器屋!?」
「うわぁ、めっちゃ異世界!!」
「ちょっと、中に入ってみない!!?」
「いいと思うけど……冷やかしって思われないかな」
「確かに……それあるかも」
「じゃあやめとこっか」
そう言って、次々にイブキが紹介していく。
花屋、ポーション製造所、本屋、魔法武具店……そして次は、たくさんの出店が立ち並ぶ場所へとやってきた。
イブキの部屋にある物のほとんどは、ここで買われた物らしい。
ちなみにだが、勇者たちには、銅貨30枚、銀貨20枚、金貨5枚が支給されている。
「ほら、あそこ」
「あっ、ほんとにある」
「ねぇねぇみんな見て!これすごい!!」
「そうだろぉ〜?そうだろう!!」
出店の主人が快く返してくれる。
「すげぇ何それ!!」
「フフン、それはウチの自慢の逸品なんだ!良かったら買ってかねぇか!?」
「どうしよっかなー!?」
「あっ!これもすごい!こっちのも!!」
「はぁ……異世界と言えど、ここは街中なんだから騒ぐんじゃ――」
騒ぐんじゃない。
そう、イブキが言おうとしたその瞬間。
辺りに人がいなくなっていることに気がつく。
出店の主人も数人居なくなっており、イブキのみが、ただ事ではないんじゃないのかと、ソワソワとし始める。
それに気づいたのか、リキが話しかける。
「ん?どうした、イブキ?」
「いや、おかしくないか?」
「なにが……」
その瞬間。
『キャァァァァァ!!!』
『ウワァァァァァァァァァ!!!!』
1つの路地裏から、男女問わず、たくさんの叫び声が聞こえてくる。
勇者であるという認識から起こる本能だろうか。
その場にいた4人は、持っていた物を元の位置に戻すと、顔を合わせ、すぐに走り出した。
「あっ!お、おい!」
後ろで主人の声が聞こえたが、今は無視する他は無い。
ものすごいスピードで物が通り過ぎていくのに違和感を感じるが、そんなものを気にしている暇すらもなかった。
なぜだろうか。
この暗い路地裏を進めば進むほど、眩しくなる。
なんとも言えない胸騒ぎがする。
「抜けるぞ!!」
「あぁ!!」
最後の路地を抜ける。
ギラギラと照りつける太陽ではない別の光が目を刺激し、思わず目を細める。
視界が光に慣れてきたその時。
4人は、その光景に目を疑った。
『ワァァァァァァ!!!』
ギラギラと照り付ける光は、光魔法を利用したピンクと黄緑と黄色の色鮮やかなスポットライト。
4人の視界の先にはたくさんの人が集まっており、その人ごみの先には、ステージの上に立つ2人の姿があった。
薄いピンクと薄紫の、派手な衣装。
そのデザインはアンドロイドを思わせ、ピンクは頭部にウサギのような耳を生やし、薄紫の彼女は、猫のような耳を生やしている。
いや、カチューシャか何かか?
だが今は背中を向けているため、顔を視認することはできない。
どこから流れているのだろうか。
謎の音楽のリズムに合わせ、右足のカカトをステージに打ち付けてリズムをとり、短く纏められたサイドテールの髪が可愛らしく揺れる。
腰に当てられた左手にはステッキ……いや、マイクを模したであろう、物が握られている。
ここまで聞けばもう分かるだろう。
彼女は……彼女たちは……!
「アイドルじゃん……!」
ナツミが思わず呟く。
そして今度は後ろから、先程いた出店の主人の声が聞こえてくる。
「お……おーい……!!」
「お、おじさん!!」
「いいなぁ、若いってのは。足速すぎだろ」
「えっと……僕たちに何か用ですか?」
「あぁ、そうそう」
そして、身に付けたエプロンのポケットから何やら出し始めた。
「お前ら、『ピンチューン』のふぁんなんだろ?」
「ぴ……ぴんちゅーん……?」
「ふぁんなら、ぐっずの一つや二つ持ってけ!俺のやるからさ!じゃっ、俺ぁ行ってくるぜ!ヒャッハァァァァァァァ!!!」
そして渡されたのは、ピンクに光るステッキと、紫に光るステッキ。
何だこれ?と不思議に思っていると、ステージの方から聞いたことのある声がメロディーと共に奏でて響いてくる。
「「〜〜♪♪♪」」
可愛いらしく、煌びやかで、軽やかに動き回る。
透き通るような声と明るい音楽が綺麗にマッチし、美しく魅了される。
心奪われるような光景。
輝くしく光る2人。
そんな2人に魅入られていると、彼女らは自己紹介を始めた。
「薄ピンク担当☆チーちゃんハート!♡」
「薄ムラサキ担当☆ユーちゃんハート!♡」
「「2人でひとつ!ピンクピンクチューンですっ!♡」」
『ワァァァァァァァァァァァ!!!』
次の瞬間、その場の盛り上がりは頂点に達する。
老若男女問わず、両手に持ったペンライトを掲げ、2人の名を叫ぶ。
「チーちゃァァァん!!!」
「ユーちゃァァァん!!!」
「こっち向いてー!!」
様々な声が響く中、アモンはハッと意識を取り戻す。
ボーッとしてる場合じゃない。
そう思ったアモンはすかさずイブキの両肩を掴み、揺らし起こそうとする。
「なななななななぁイブキ!イブキってば!」
「え?」
「え?じゃない!ほら、ナツミとリキも……」
と、2人の方を見るアモンだが……
「「チーちゃァァァん!!!ユウちゃぁぁぁん!!」」
2人はどうも正気のようだ。
ポカンとする間もなく、2人はペライトを掲げる。
「ちょ……ちょっと!あ、あぁぁぁぁぁアレって、やっぱり……」
「でっ、でもすごいよ!!」
なぜこの4人は2人の姿を見てそこまで驚いているのか。
もう分かっただろう。
今、ステージの上で歌っているこの2人は、同じクラスメイト……つまり、勇者なのである。




