第11話 勇者武器の試練#2
森の中。
小鳥が鳴き、風が心地よく流れる。
木の葉の隙間から差す木漏れ日が肌を照らし、温もりを与える。
これほど心地がいい天気はもはや稀だろう。
と、そんな平和な森の中を、高スピードで走り抜ける姿があった。
木の根に足が引っかからないよう、体を浮かす度に後方で纏められた髪が大きく揺れる。
息は一定で疲れた様子は全くない。
彼女の名は織菜 捺未。
吊られた目が特徴的な彼女は、どこか焦っているようにも見えた。
「ゆ……勇者様……!ちょっと……!」
「なに!?風の音で何も聞こえないんだけど!!」
「勇者様……なぜそんなに急いでいるのですか!!?」
「さっき話したでしょ!!?」
「「(いやいや、何も聞いてないって!!)」」
「私の武器があるはずの光の柱がものすごいスピードで移動してるからよ!!」
「武器が……移動ですか……!?」
「ありえないかもしれないけど、光が動いてるんだからそうでしょ!!?」
確かに、ナツミの言っている事は間違ってはいない。
休憩中、ふとナツミが光の方を見ると、それは見間違えるワケもなく、本当にそれは移動していたのだ。
「もうすぐよ!!」
「ゆっ……勇者様……そろそろ休憩……」
「よっしゃ、行こう!!」
「「……はい…………!」」
木と木の間を猛スピードで翔けてまわり、目当ての場所へと辿り着く。
が、そこにあるのは何の変哲もないただの荷馬車だった。
馬がおらず、荷台に被せられた布がビリビリに破けているということを、除けばの話だが。
「オイオイ、なんだぁ!?てめぇらァァ!!」
目が合うなり、荷台に寄りかかった男がそう放つ。
ナツミがピタリと動きを止めると、急に止まったナツミに体力的にも対応することができず、10名の騎士たちはそのまま頭から滑り込んでしまう。
「お前ら!その荷台見せろ!!」
「はっ……速すぎ……ぜぇ……ぜぇ……」
「なっ、なんなんだお前らは!!」
「そういうのいいからはよ見せろ!!」
「こっ、断る!!」
ド直球、ドストレートな彼女に押されそうになるが、なんとか持ち堪えて叫ぶ。
先に言おう、まるで会話になっていない。
「まずは名乗れ!!」
「荷台を見せろ!!」
「ダメだ!!」
「もうめんどいから見るよ!!」
「ダメだってば!まず名乗れって!!」
「なんで名乗らなきゃいけないんのよ!!」
「逆になんで名乗らねぇんだよ!!」
「別に荷台を見せてもらうくらい良いでしょ!?」
「名乗れって言ってんだよ!!」
「ここにアタシの武器があんの!!」
「なんでお前の物になってんだよ!!てかなんで武器があるって知ってんだよ!!」
「私と繋がってんのよ!!」
「何言ってんだよ!!」
「私が聞きたいわ!!」
「お前が言ったんだろ!!?」
「あ〜も〜、めんどくさいわこのやり取り!!」
「お前のせいなんだよ!はやく名乗れ!!」
「やーだ!!お前から名乗れ!!」
「あ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"ぁ"クソっ!もぅ普段使ってる偽名でもなんでもいいからはやく名乗れ!!」
「う〜ん……」
そして、滝のように流れるこのやり取りはやっとのことで止まり、ナツミは何かないかと顎に手を添えて考える。
「……なっちゃんです。」
「よし見ていいぞ」
「はい見ます」
「っっっっってェなるかァァァァァボケェェエエエ工工!!!!」
もう何をやっているのか分からない。
もはやコントである。
思わずノリツッコミをしてしまうほどにバカげた会話でも、賊は荷台の中を見せようとはしない。
いったい何が入っているのか、ナツミは気になってしょうがなかった。
「(どんなにすごい武器なんだろう……!)」
疲れ果てた賊たちと騎士たちを横目に、ナツミはキラキラと目を輝かせる。
「いいか!?分かったな!?絶対に見るんじゃねえぞ!!?」
「うん、ワカタ。」
と言って、荷台の幕を上げる。
「おいぃぃ!!」
中にはたくさんの武器やポーション、宝石に何やら不思議な本までなんでもあった。
だが、ナツミにとってはそんな不可解な物には興味のカケラもなく、ただ一直線に、輝く柱の場所へと向かう。
「あ、あそこに……!!」
「ちょっ、お前待てってば!!」
騎士たちに関しては、疲れもあってか、息を切らしながらポカンと2人の様子を見ている。
ナツミを追いかけている奴のその他の賊に関しても……、(以下同文)
「あったァァ!!!」
「テメッ、それはぁ!!」
「なーにか問題でも?」
「問題大アリだ!!」
「ナニ?見つかったらマズイの?」
「んなワケ……」
ニヤニヤとしながらナツミは賊に話す。
「ふふん♪」
「いや、お前のじゃねぇし。なんでドヤ顔やってんだよ」
「えっ!?私のじゃ……」
「いや、なんでタダで貰えると思ってんだよ!?てか返せよ!!」
「ぐぬぬ……じゃあ……!」
「じゃあ……!じゃねぇーよ!!」
その手に持っている武器が、自分の武器であることには間違いない。
なんせ、数ある武器の中で、これが唯一黄金に輝き、不思議と、その武器と強い繋がりを感じる。
今までに感じたことの無い感覚が過っているのだから。
「とっ、ところでだけどさぁ……」
散々否定され続けたナツミが切り出す。
「あ"ぁっ!?今度はなんだ!!?」
「あアンタら、その馬車どうしたのさ?ぎょっ、行商人にも見えないしさぁ」
「うぐっ、」
「どうせ盗んだ物……なんでしょ?だからさぁ、これ一個を持っていくぐらいイイっしょ?」
身体を震わせ、口を噤む。
見れば分かるが、奴らは賊。
きっとこの宝の山は、そこらの道でたまたま居合わせた貴族のモノを盗った時に得たものだろう。
しかし、問題はここからだ。
賊が物を盗る理由。
それは金銭を得るためだった。
豪族の馬車から金目の物を盗み、それを売り払って金銭を得る。
だが騎士団に捕らえられたくはない。
だからこそ、安全にずる賢く盗みに手を汚してきた。
それが彼らのやり方。
そしてそれをしばらく続けていくうちに、物の値打ちがわかるようになっていたのだ。
「それは……それだけはダメだ」
ナツミが手に持っているその武器は、勇者の武器に選ばれるほどのなかなかの代物だった。
今は布に巻かれており、どのような姿をしているのかは分からないが、その姿を見た瞬間、その賊に電撃が走った。
素晴らしい。
その一言に尽きるほどにものすごい逸品だった。
「それだけは……ダメなんだァァァァァァ!!」
「なんでよぉぉぁぉぉ!!!」
一方、それに理解できないナツミ。
その世界の物の価値など、ナツミに足らずこの世に来た勇者全員が、知るはずもなかった。
手に取って見て一言、
「かっけぇ」
これだけである。
「じゃぁ!!」
ここで、ナツミが荷台から飛び降りる。
「お前と勝負しよう!!この!!武器を賭けた勝負を!!」
「勝……負??」
「そう!!」
そう言って、手に持った武器を掲げる。
「私が勝てば、この武器は私が貰う!!お前が勝てば、この武器はお前の物だ!!」
「いいや!待て!!」
相応な勝負かと思われたが、賊はそう易々と受け入れようとはしなかった。
「この武器は先に俺らが盗った物だ。だからこれは俺らが貰うべきはずだ!!」
ここで、ナツミはニヤリと口角を上げて笑う。
「本当に、いいのか?」
「なっ、何がだ?」
そしてナツミは後ろを親指で指差す。
その表情は、自信に満ちていた。
「なっ!?てめっ……!?」
そこには、息を切らしていたはずの騎士が、綺麗に整列して並んでいた。
無言ではあったが、確かな威圧を感じる。
「いつでも動ける」
そう、言っていた。
「(まさか……今までの謎の会話は時間稼ぎ……!?それにまんまと引っかかった俺は騎士どもの休憩を長引かせていた……!コイツ……ただの女じゃあねぇ……!)」
「さぁ、やるのか?やらないのか?」
自信に満ちた表情で、ナツミはそう言った。
「(俺の運は……どうやら尽きちまったらしいな)」
思わずそう考えてしまう。
が、タダで負ける訳にはいかない。
最後の最後まで抗う。
これが、漢道だ。
「その勝負……受けて立とう……!!」
闘志に燃える男と、自信に満ちたナツミ。
周りから突き刺さる視線を横目に、ナツミは心の中で言った。
「(なんかオッケーしてくれた♪ラッキー♪♪)」
この出来事の全てが、たまたま起こった奇跡だったのだ。
時間稼ぎをする気も、その男を騙す気も何も無かったのだ。
それを知らない男は、拳を握りしめて大声で言う。
「さぁ、勝負だオラァ!!」
ここに、新たな勝負の幕が切って落とされた。




