十八片:白い大蛇
「へ、へびぃぃぃ!!」
(で、でかすぎるっ。蛇? え? ここダンジョンだったの? え? え?)
大蛇はゆうに3mはある。明らかにボスクラスのモンスターだ。邪悪な気配はなく威嚇するような態度はないものの、友好的なサイズではない。花梨はそっと懐に手をやり──真っ青になった。
(しまった……蛍光刀はないんだった)
他に武器はないかと花梨は辺りを見たが、殴れるものといったら、足元に落ちている枝ぐらいだ。
(どうしよう。枝で殴っても、あの堅そうな鱗じゃ効かないよね。オブジェと思って見逃してくれないかなぁ。そうだ‼ イメージすればいいのよ)
あたしは木、あたしは木よ~と花梨は心の中で念じてみた。魔法はイメージだった。だからイメージすれば木にもなれる!!──と花梨は信じきった。
(大地よ……あたしは今、光合成をしている!!)
花梨は自称、木のポーズをとりつつ、チラリと大蛇を見た。だが残念なことに、蛇の青い目は不思議そうに花梨をじっと見たまま、去ってくれる様子はない。
(なんか……恥ずかしい)
<<主?>>
「しぃ~~っ! 今、木になってるの!! って、え? あるじ??」
どこからか若い男の声がした。花梨は辺りを見渡したが、気絶した夏伯、子供以外に人は見当たらない。
「主って誰?」
<<あなたのことですが?>>
(あたしっ??)
「でも、どこでしゃべってるの?」
<<どことは失礼な。目の前におるではないですか>>
花梨の目の前で大蛇がエッヘンとばかりに頭をピンと伸ばした。いかにも自分だとアピールしている。
「うわぁぁ!! 蛇がしゃべった!!」
と言っても、口元は何ら動いていない。花梨にだけ聞こえる声で話しているようだ。
<<この青白を蛇? なんと失礼な。それより主に不快な思いをさせたこの男、目障りですので、存在ごと消し去ってよいでしょうか? 丸呑みすれば証拠は残りません>>
青白が夏伯の首に牙を向ける。あの口で噛まれたら夏伯の首など、ひとたまりもない。
「だ、ダメ。絶対ダメ! いますぐ放してあげて」
<<……ちっ>>
花梨の静止に青白は口を閉じ、ぞんざいながらも夏伯を開放する。が、青い瞳はいかにも不服そうだ。花梨とて腹立たしかったが、これ以上、目のまえで誰かが死ぬ姿は見たくなかった。
<<全く主もお人好しな。この男が何故、ここにいたとお思いで?>>
「さぁ? 文を読まなかったからって、子供にキレて大変だったのよ」
青白がはぁーと大きくため息をつく。
<<この男は送った恋文の返事を、大胆にも直接聞きに来たのです。姫が今、どういう時期か、知った上でですよ? 失礼にもほどがある>>
「恋文だったの? ふっ、美少女って罪ね。こんなクズすら虜にするなんて」
真剣に言う花梨を、冷めた目で青白が見る。
<<なんと警戒心のない。それで自ら近づきになったのか。主の真意を確かめてからと、思いとどまるべきではなかった。寝所に近づいただけでも許せぬのに、いやらしい目で主を!!>>
青白がペシリと尾で夏伯の顔を叩く。夏伯の鼻からさらに血が噴き出した。
「わぁぁぁ、青白さんダメっ! 」
<<──ちっ>>
(また舌打ち……)
<<私の名前に敬称は不要です。青白とお呼びください。それより私にする事があるでしょう?>>
「あなたにする事?」
青白がうねうねと体をくねらせる。花梨になにか要望があるようだ。
(まさかあたしを食べたいとか──って、聞くのが怖い)
<<小汚い男から守ってさし上げたのですよ?>>
「あぁ!! そういう事か。どうもありがとう」
ペコリと花梨は頭を下げる。
<<礼だけ? それだけで済ませるおつもりか? 私も軽く見られたものだ>>
ペシンと青白が尾で地面を叩く。どうやら『ありがとう』だけではダメらしい。
「じゃあ、何をすればいいの?」
(やっぱり食べたいだったらどうしようっ)
<<まさかおわかりでない? 私の鱗をなでる名誉を与えると言っているのです>>
「え……」
フフンと青白が得意げに顔を上げる。
(ぶぶっ、なにそれ)
花梨が噴き出したとたん、青白がまたペシンと地面を叩いた。早くしろと言いたいらしい。
戸惑う花梨に青白が頭を撫でろとばかりに首を垂らした。大蛇をなでた経験などあるはずもなく、最初こそ怖かった花梨だが、恐怖はすぐに消えた。撫でると青白が気持ちよさそうに瞳を細めたからだ。
「青白の鱗ってきれいね。すっごくキラキラしてる」
<<当然です。お気に召したなら、体も好きにしてよろしいですよ>>
(言い方!!)
なでろとばかりに青白がうねうねを体をくねらせる。別に構わないが、素直に従っていいものか花梨は惑った。だが断ったら面倒くさい事になりそうだ。
(しょうがないなぁ)
「これでいい?」
<<ふむ……>>
仕方なくなでてやると、青白は余程気持ちよかったらしい。くたりと体を伸ばすと目を閉じてしまった。今にも眠ってしまいそうだ。
(なんか変なのになつかれたちゃったなぁ。さて、どうしよう)
夏伯をこのまま放置するか否か。回復魔法をかけても良いが、返り討ちに会ったら、たまったものではない。
(ちょっと可哀そうだけど。やっぱ放っておこう!!)
見たところ鼻血以外は大した怪我はない。次期当主ならそのうち家来が捜しに来るだろう。それに青白の話が本当なら、女性の寝所に侵入しようとした不届き者だ。子供を殴ったことといい、これぐらいの罰でも許せる事ではない。問題は夏行のほうだ。いまだに意識が戻らない。息はあるので死んではいないようだが──と花梨は心配でたまらない。
「大丈夫かな」
すやすやと眠る顔はまるで天使のようだ。青白かったは頬には朱がさし顔色もいい。元はこんなに可愛らしかったのかと思うと、原型がわからぬほど殴った夏伯に、花梨は再度怒りがわいた。
<<心配は無用です。神無ゆえ神力に慣れておらぬだけ。そのうち目を覚ますはず。ただし今後、神器なしで力は使わぬように。とくに神糸はいけません>>
「しんし??」
<<神の糸とかいて神糸と言います。ほんらい神が限られた者にのみ使う御業です。高度な技ゆえ、普通の人間は使えません。ましてや神器なしなど無謀。下手をすれば死にます>>
「うげっ、どうりでやばいと思った。なるほど、あの糸はそういう。なら念の為、この子をお医者さんに診せたほうがいいわね。初めて使った技だし完全かわからないから」
<<おいしゃ……医術者のことですか? 神無は医術者に嫌われています。主の頼みであっても耳すらかさぬでしょう>>
「え? じゃあ警察──ええと、子供を保護してくる所はないの?」
<<神無など誰も保護しません。黄泉の子として畏怖される存在ですので。多くは赤子のうち死にます。人は主のように神糸は使えませんからね。この者の場合、母親が命を削り加護をあたえたようですが……よく夜叉が許したものだ。魂の加護はもって十年だというに。主が助けねば、そろそろ死ぬ頃であったでしょうね>>
「ええっ!! あっちのおじさんは10年以上いきてそうだけど。こっちのおじさんは違うって事?」
≪おじさん? こっちの……? そうか、主は>>
「決めた! あたしが面倒をみる! とりあえず部屋までつれてくわ」
(リアルなら犯罪だけど、ゲームなら大丈夫よね?)
<<なっ、正気ですか? 子供とはいえ男ですよ?>>
「青白こそ正気? 夏伯に見つかれば、今度こそ殺されるわ。家族だって助ける様子はなかった……。大輔が部屋に戻ったら相談しなきゃ」
<<だいすけ? 男ですか? その者が主の寝所に戻るとはどういう……?>>
「あれ? 知らないの?」
(創造主なのに)
<<存じあげません>>
青白の縦長い瞳孔がぐぐっと広がる。その目が示す感情は明らかに怒りだ。呼応するかのように、木々にいた鳥たちまでが、いっせいに飛び立った。
(この感じ……)
「青白、あなた……」
<<主はふしだらですね>>
「え??」
<<知らぬ間に新たな男を口説くとは。私を弄ぶのもいいかげんにしていただきたい>>
「弄ぶって……言い方! 大輔は友達だよ? そういう仲じゃない、から」
一瞬、花梨は顔を赤らめたが、現実に叩きのめされ、しょぼくれた。
<<ふんっ、嘘くさいっ!! あぁ、この怒りをどうしてくれようっ>>
青白は舌打ちすると、勢いよく夏行を咥え上げた。大きな口に挟まれ、鋭い牙が今にも刺さりそうだ。花梨は慌てて手を伸ばしてたが届かなかった。揺さぶるなりして取り返す事も考えたが、その方法は賢明ではない。落ちれば夏行が怪我をしてしまう。万が一、青白が吞み込みでもしたら、助ける事は困難だ。
「何をする気?」
花梨は青白を強く睨んだ。その視線に青白は一瞬びくついたが、夏行を放す様子はない。黙ったまま花梨を凝視するだけだ。だんだんと花梨は恐ろしくなってきた。
<<主……やめよ。怖れは夜叉を狂わす。咥えただけで誤解されるとは。くそっ、だから男は嫌いなのだ>>
青白は舌打ちをすると、ぐにゃぐにゃと顔を変貌させた。鱗だった皮膚が人のものへと変わっていき、頭部から真っ白な長い髪が出現する。大蛇の胴体はみるみる縮み、代わりに人の手足がにゅっと伸びたかと思うと、絹のような白布が体を覆うように舞い、着物へと変化した。口元にいた夏行は、いつの間にか青白の腕のなかに収められ、すやすやと眠っている。
(び、びっくりした。まるで魔法少女の変身みたい。ちょっとグロイけど)
「これでよろしいか? 寝所に連れると仰るから咥えたまで。悪意はありません」
プンスカと怒りながら青白が人と同じ方法で声をだした。蛇の時からいい声だと花梨は思っていたが、人の姿で発する為か、より魅惑的だ。
「そうだったんだ。誤解してごめん」
「では主も。裸足では痛いでしょう? 抱いてさし上げる」
「え?」
青白が子供を片手でかかえ、空いた手を花梨へと差し伸べた。だが花梨は大袈裟までに後退り、首を横に振る。青白は真顔のまま「ん?」と首を傾げた。
「なぜ拒絶なさる?」
「なぜって……」
花梨は青白の視線から目を逸らした。抱っこが恥ずかしいという理由もあるが、問題はその姿だ。
彼は一言でいうと真っ白な美しい青年だった。
白い蛇だからか、髪や肌、長い睫毛に至るまで真っ白だ。そして目、鼻、口のパースが整い過ぎて、人とは思えぬ美しさがあった。神々しいと表現したほうが正しいだろう。優美な顔は一見、女性にも見えるが、骨格や肩幅、はたけた首元から見える頬骨のラインは男性らしく整っている。特に目を惹くのは、白磁の顔に輝く青い瞳だ。澄んだ湖面のように美しく、爬虫類独特の細い瞳孔は神秘的で、一度見たら誰であっても目が離せないだろう。
「なにを戸惑っていらっしゃる? 痛いことはしません。優しく抱くゆえ、身を委ねてくだされ」
(だから言い方!! 天然タラシなの、この蛇っ)
「むり! 青白が綺麗すぎて……なんかこぅ、心臓が持たないっ」
思ったままを暴露した花梨に、青白があきれた顔をした。だが美麗な口元は、明らかに緩んでいる。
「くくくっ、主ときたら。私が綺麗だからと、夜叉に恥じらうとは」
「いや……だって」
花梨は黙り込んだ。
(でも綺麗は否定しないのね──って、やしゃ?)
「青白って夜叉だったの!」
「主は頭でも打たれたか? あなたは夜叉を統べる者──元始の巫女ではないですか」
(元始の巫女……)
青白の言葉が花梨の心を刻むように深く響く。
「……じゃあ黒獣や堕ち神と戦わなきゃダメってこと?」
「それが主の使命では?」
(使命……て)
花梨は震えあがった。たとえ酷い扱いを受けず、痛みのない仕様に変わったのだとしても、あの時の恐怖を忘れるなど花梨にはできない。
(怖いのも人が死ぬのも……もう嫌だ)
痛みのない肩を花梨は抑える。その痛みは花梨の体だけでなく心にも深い傷となっていた。それでも夏行が喰われる前に戻れるなら、歯を食いしばってでも花梨は戻る事を選択しただろう。
だがそれは叶わぬのに、同じ恐怖を繰り返せなど地獄にも等しい。
「嫌だ……怖い。逃げたい。ここは違うって思ったのに、結局、同じだなんて」
ポロポロと花梨の目から涙が零れた。不安と恐怖が花梨の心を押しつぶしていく。
「……ログアウトしたい」
「『ろぐあうと』とは?」
(青白も知らないんだ。そもそも知ってる人はいるの……?)
花梨は足元がぐらつき、息が苦しくなった。溺れて水面へ顔を出したくとも届かない──そんな感覚だ。
「この地獄から抜ける方法よ」
「抜ける? それでは使命はどうなさる? 主の使命の為、我らは存在するのに」
(なにそれ……? なんであたしが)
この世界は花梨に戦いを強要する。世界を救う事は、花梨がする事が当たり前で、誰かが代わる選択肢もなく、発想すらしてくれない。
「そんなの知らない!! だってあたしはこの世界の住人じゃないもの。気が付いたらこの世界にいたの。勝手に使命とか決めないでよ。そんな大層なものを背負う覚悟なんてないし、なかった。だいたい『架空の世界』を救って、なんになるというの!!」
「架空の世界……?」
青白の青い瞳が大きく見開く。
「そうよ。ここはゲーム……つまり架空の世界なの。あたしの世界に黒獣や堕ち神なんかいない」
「黒獣も堕ち神もいない?? そんな『夢のような世界』があると? それはどこに? どこにあるのです? 皆をそこに連れて行ってください、主!!」
「え……」
すべてを吐き出した後、花梨は自分の言葉を後悔した。
これでは花梨だけ『楽な世界』があると断言したようなものだ。青白はどうあがいても花梨の世界に行けない。黒獣や堕ち神の脅威の中、生きなくてはならないのだ。たとえゲームのキャラクターだとしても言っていいことではない。
その上、帰るという選択は、夏行を無責任に放棄する事にもなる。助けると宣言しておきながら、結局、自己満足で助けたのかと責められても反論できない。
(あたし……何てことを。それに今度こそおじさんを守るんじゃなかったの!!)
「ごめんなさい。あたし、自分だけが辛いって思ってた。青白の気持ちも考えないで、本当にごめんなさい」
ペコリと頭を下げる花梨に、青白は静かな声で「主……」と呟くと、花梨の頭をポンポンと優しく撫でた。
「青白?」
「心が辛い時、姫はこうやって私の頭を撫でて下さる。私は撫でられるのが好きなのです」
「姫……?」
青白がふっと笑う。
「菖蒲様だ。今、あなたがお借りしてる」
(え? 菖蒲さんは死んだはずじゃ? それに借りるってどういうこと?)
花梨は混乱する。
「主……そろそろ時間のようです」
「え? 時間?」
混乱した状態で言われ、花梨はさらに困惑した。
「姫が目覚められる。元いた時に戻らねばなりません」
「元いた……」
花梨の背筋がすっと寒くなった。元居た時とは? 夏行が死に大輔が助けに来た時をさすのだろうか。すくなくともログアウトし現実世界に戻れる意味とは思えない。
(いやだ……)
「ここはリセットされた世界じゃなかったの? そう思ったからあたしは……」
(今度こそおじさんを守ろうと決めたのに)
花梨は青白の腕に眠る子をみる。
「この神無か? 心配なさるな。腹立たしいが姫が興味を持たれたようだ。時が来るまで私が預かりましょう。そのかわり、次に会う時は、私にしっかり礼をするように。私の名を呼び、撫でる名誉は主の特権であり、仕事です」
「でも、あたしが面倒を見るって……」
「もう十分みておられる。夢見まで使い、神糸で神力を与えているのですから」
「夢見?」
どこかで聞いた気がしたが花梨は思い出せない。誰かと大事な話をした気がするのに。
「夢見とは時を超え、縁の強い者と意識を共有する力です。縁者の過去を傍観する力と言えばわかりやすいでしょうか? まぁ主は、その概念を捻じ曲げ、姫の体で好き勝手されましたが」
「姫の体? 縁者の過去……? つまりあたしは新しい世界ではなく、夢見で過去に来たって事?」
花梨の問いに青白が頷く。
花梨は信じられず、おそるおそる両手で顔を触った。いつもと違う顔の凹凸。鏡がないので何とも言えないが、言われてみれば、やや視界が高く胸もそこはかとなく大きい。どうして今まで違和感を感じなかったのか不思議なぐらいだ。
(でもなぜ縁者が菖蒲さんなの? 会った事もないのに)
「だが主よ、今後、夢見は傍観のみにとどめなさい。理を超えた力は神域のもの。過去を大きく変えてはいけません。ましてや神糸を使うなど……神域を犯せば命の代償を払う事もあるというに」
「えぇ!! 命っ? あたし死ぬの?」
「落ち着かれよ。主は人とは少し違う。神糸について人に話さぬ限り、問題はありませぬ。しかし黄泉の加護者を奪った故、何等かの力は奪われたかもしれません。あの神は執着が強い。今後も介入してくるやもしれませぬ。夢から醒めたら奪われた力を確認なさったほうがいいでしょう」
(夢から醒めたら……)
花梨の脳裏に菖蒲の未来がよぎった。その後に待つ庭園の未来、そして夏行の絶望を。
「青白、伝えたい事があるの!! ──が──??」
(え? 声が……でない)
菖蒲の未来を伝えようとした途端、花梨の声がでなくなった。厳重に守護してもらえば、菖蒲が死なずにすむかもしれない。だが急く心とは裏腹に、花梨の口からは声の欠片すら出てこない。
まるで何かに邪魔されるかのように。
(だめだっ声が。どうしていつも大事な時にっ)
「主? まだ泣いておられるのか? こんなにも苦しまれるとは……」
青白が片手で花梨──菖蒲の頬を撫で、涙を指でふいた。その顔は苦しそうだ。
「やはり未来も恐ろしい世界なのですね。目覚められた時、主の心は孤独と苦しみに満ちていた。この私が狂い闇に堕ちそうなほどに。そのような時に帰さねばならぬとは……主、お許しください。あなたに戦いを強要した私を。主にとってこの世界は地獄でしょう。その絶望と孤独を理解もせず私は……。叶うなら主が帰りたいという『元の世界』に帰してさしあげたい」
青白のうるんだ瞳から、涙が一筋、零れ落ちる。その雫がポトリポトリと花梨の頭上に零れ落ちた。
「ですが、もう少しお待ちください。私と主は神域を超えた仲、その縁がきっと花開く時がきましょう。主と再び会えた時、必ず、傍にまいります」
(それは無理なのっ。だって未来で菖蒲さんが死んだって事は……)
花梨は叫んだが青白には伝わらない。涙でかすんだ視界がさらにぼやけていく。
「いいですか? 私の名を呼んで必ず撫でてくださいね。約束ですよ。私は……ずっとあなたを……おり……」
とうとう青白の声まで聞こえなくなり、花梨の意識はそこで途絶えてしまった。




