十五片:庭園の前で
視界の揺らぎが収まった途端、花梨の尻にドンと衝撃が走った。
痛い──そして冷たい。
花梨は尻についた雪を払い立ち上がると、空気の変化に震えが走った。どうやら宮から外に出たらしい。
「──っ痛。桔梗様ってば、もうちょっと優しく転送してくれないかなぁ」
そういえば帝もこけていた。御簾先であったので見えたのは影だけだが。あれが通常運転なら、今度からは転送先を考えてお願いしたほうがいいだろう。頭から落ちたらたまったものではない、などと花梨は考えていたのだが……
「まったくお前ときたら!!」
背後でよく知る声が聞こえ、振り向くと鋭い目つきの男が一人。花梨とは違い尻餅をつくことなく仁王立ちで立っている。ついでに顔も仁王のようだ。
「おじさん?」
どうやら腕をとったのは夏行だったらしい。
「おじさんではない。あと神器で自殺をするなっ!」
殴るような声が、花梨の耳に響く。
「怒んないでよ。どうせ神器で人は切れないんでしょう? だったら」
「馬鹿者!!! 人は切れぬが、使い手は別だ。神力の源は魂だぞ。しかもお前の武器は自身の魂刀。それを己に向ければどうなると思う?」
「どうって?」
「下手をすれば魂が砕け──死ぬ」
「げええええっ!!」
花梨の顔から一気に血の気が引く。どうりで桔梗が真っ青なわけだ。よく考えれば、桔梗のほうが神器に詳しいはず。神器で人が切れぬ事ぐらい当たり前に知っているだろう。その上で止める理由を花梨は考えもせず刃を向けていたのだ。
「全く無茶をする。魂を切る術はそれほど難易度が高いのだ。文献でも成功例はほどんとない」
「やっばー。それならそうと言ってよ!」
「馬鹿者‼ 自殺すると誰が思うか! しかも夜に行くとは無謀な」
夏行が不安気に空を見上げて言う。
(あ、もう庭園にいるんだっけ)
つられるように花梨も空を見た。てっきり不気味な闇夜かと思ったが、星や月明りで暗くはなく、邪悪な獣が潜む場所にはとても見えない。
「そんなに怖い所には見えないけど?」
(初期ダンジョンだからかなぁ)
「ここはまだ庭園ではないぞ」
「え?」
慌てて周囲を見渡すと、先程までいた建物が見えた。大声を上げれば聞こえそうな近さだ。どうやら花梨が落ちた場所はその建物に面する庭だったらしい。
「外にでただけ? なら自分で行けばよかった」
おかげで尻が痛いと花梨は嘆く。
「そう見えるが違う。婆様が空間をねじ曲げておるのだ。神気を読め──某と違い、お前ならわかるはずだ」
「そうなの?」
花梨は、ふぬぬ~と意識してみたが何も感じない。
「感じぬか? 黒獣の気配は察していたようだが?」
「黒獣はね。あたしをロックオンした時に体がビビってなるの」
レベル上げで暗闇の中、花梨は数百の黒獣を倒したのだ。いやでも体が覚える。
「ろっく……お?」
「狙いを定めるってこと」
「また珍妙な言葉を。それより本当に行くのか? 婆様は、お前の気が変わるやもと近くに飛ばしただけのようだが……あそこにしめ縄がみえるだろう? あの先が庭園だ」
夏行が建物とは逆の方向──暗闇を指をさしていう。
(あれが庭園……)
先を阻むかのように、木々にしめ縄が結ばれている。縄の向こう側は真っ暗だ。こんなに月明りがあるのにどうしてと目を凝らした途端、花梨は恐怖で息が詰まった。誰かに心臓を掴まれた気がしたのだ。だがどうしてか、その感覚に懐かしさを感じ、花梨はさらに混乱した。
(今のはいったい……?)
「大丈夫か?」
夏行の声で花梨は現実へと引き戻された。心臓の痛みやおかしな感覚も嘘のように消えている。
「やめるか?」
「え? 大丈夫よ」
「しめ縄の先に行けば戻れる保証はない。婆様と手練れの花守が何度も向かったが浄化できず、多数の死傷者が出た場所だ。二年前、大怪我を負った【あの方】を連れ戻しに行ったが……思い出すだけでもおぞましい所だった」
「連れ戻した? おじさんって実は凄いの?」
「いや……足止めがいいところだ。神無は神気を持たぬゆえ、黒獣を浄化できん。だが神気がないからこそ、黒獣に気取られず動く事は出来る。連れ戻せたのもそれが理由だ。【あの方】の神力が尽き、死にかけたていたゆえ、できたことだ」
「なら危ないわね。今回は宮に戻ってて。それじゃ──おわっ」
直進しようとしたら夏行に手を掴まれ、花梨は前につんのめった。
「だから一人で行くなと」
「え? だって黒獣を浄化できないんでしょう?」
「──うっ」
気まずそうに夏行が眉を歪める。
「心配しなくても大丈夫。2-3時間──あぁ、一辰刻で帰れると思うし」
都に行く途中、夏行に教えて貰った時間の単位で花梨が説明する──といっても2-3時間で攻略できる根拠はない。庭園の広さすらわからないのだ。ただ初期ダンジョンならそれぐらいで攻略できると、花梨独自のゲーム経験から言ったにすぎない。
「侮るな。黒獣は心の弱さもついてくる。剣技があればよいわけではない」
「でも守れなかったら嫌だもん」
夏行の気持ちは嬉しい。だが万が一、死なせでもしたら花梨が自殺宣言までして来た意味がなくなる。
「守る必要はない。庭園の地ならお前よりも知っているし、これでも花守だ。神無とはいえ黒獣を切るぐらい出来る。お前とて複数の黒獣を『同時に』は容易でなかろう?」
「たしかに」
花梨がレベル上げで戦った黒獣は複数相手だと一戦につき、せいぜい五から十。それ以上の数で襲われればさすがにきつい──ふと、あの夢の光景を思いだし、花梨は身が震えた。俊敏なあの子供も、連戦で力尽き黒獣に喰われそうになったではないか。レベルが高くとも長期戦となれば、状況が変わってくるかもしれない。
(あの夢は一人は危険という警鐘なの? 地の利を考えれば、おじさんを連れたほうがクリアーできる確率はあがるけど……やり直しがきくのは、あたしだけだし)
「──それでも一人で行くわ」
「なっ」
「別におじさんが頼りにならないってわけじゃないの。一度見て戦略を練りたいだけ。その後、必要ならついてきてもらうわ。それとも冬織さんに言われたから気にしてるの? あんなの真に受けちゃだめ。命懸けの任務なんてやる必要はないわ」
これで納得するだろうと花梨は思ったが、夏行は黙ったまま、じぃと花梨を見るだけだ。まっすぐな視線は心中を見透かすようで、花梨はなんだか居たたまれない。
「お前はまるで死ぬのが怖くないようだな?」
「え……こ、怖い、すごーく怖いよ。おじさんだってそうでしょ?」
花梨の声が裏返る。夏行の目を見て答えることが出来ない。
「某に死を厭う権利はない。だが死は常に傍にいた。だからわかるのだが……お前は死への恐怖が妙に軽い。庭園に怖れを抱きながら矛盾していないか? 何だ? 何がお前をそう言わせる? 某の力量を懸念するだけではあるまい」
(す、鋭い……)
「言えないのか?」
低く唸るような声で夏行が問うてくる。声だけで心が切られそうだ。
「言えないわ」
「なぜだ?」
「言いたくないからよ」
「……」
あからさまに夏行が傷ついた顔をした。罪悪感で、花梨の心がざわめく。
「だって──」
(ゲームだもんって)
──言えるわけないでしょ。
夏行にとって現実でも花梨は違うのだから、感じる恐怖が異なるのは当然だ。だから仕方ない──花梨は心の中で何度も自分に言い聞かせた。けれどすっきりしない。正しいとも思えない。心の声が囁いてくるのだ。
「お前だけ狡い」と。
夏行にとっては死地である庭園も、花梨にとってはダンジョンでしかない。その上、痛みや本当の死さえ無縁だ。
(あたしは……覚悟を決めて来たおじさんに、本当の事を知られたくないんだ)
この世界で、花梨の味方は限りなく少ない。むしろ死を望む者のほうが多いだろう。残酷だが誰だって自分の世界や、大切な人を優先する。滅亡を呼ぶ女を擁護する方がおかしい。
それでも夏行は花梨についてきた。それは命がけで挑む花梨に感化されたのかもしれない。だが事実を知ったらどうか? 朝堂で受けたあの冷たい視線を、夏行まで花梨にむけてくるかもしれない。
(怖い……でもちゃんと話さなきゃ、おじさんに失礼だ)
「おじさ
「すまぬ!!!」
「へ?」
とつぜん夏行に謝られ花梨は驚いた。
「お前が某を信頼できぬのは当然だ。あの夜、確証がないからと元始の巫女について説明をしなかったからな。その上、庭園まで行く羽目に……そんな者に背中を預けるなど無理というもの」
「そんなことは」
(普通、滅亡を呼ぶ女──なんて国家機密、会って間もない人に言わないし)
言われたところで、どこの中二病かと花梨だって思う。
「これでもお前の立場を盤石にするため、冬織殿と対策は練っていたのだ。しかし選定の儀があまりにも早すぎた。婆様は好戦的なお前を見て焦ったのだろう。即座に巫女姫として取り込み、全ての危害から守ろうとなさった──けれども庭園での心労で衰えた結界では、花冠の巫女を止める事すら出来ず、あのような事に」
夏行が悔しそうに唇を噛む。
(それで冬織さんが色々と擁護してくれたのね)
結果、冬織のせいで庭園に行く事になったが、彼が止めなければ処刑コースだったかもしれない。貴族の大半が花梨を巫女姫とは認めず、不吉な者として見ていたのだから。
「気にしないで。本当の味方を知る、いい機会だったと思えばいいのよ」
「いい機会ってお前、その結果が庭園だぞ。楽観して言える事ではあるまいっ。だから某はっ」
(ついてきてくれたのね)
「ありがとう。ここまで来てくれて」
夏行がギョッとした顔をする。花梨に礼を言われる理由がわからないと言った顔だ。
「なぜ礼を言う? 某は庭園行を止めれなかったのだぞ」
「それは違うわ。庭園に行くって勝手に来たのはあたし。あ、でも出産について黙ってたのは許さないから」
「……すまん。黙ってたわけではないのだが」
夏行が言葉を濁す。
「まぁいいわ。そのかわりおじさんはあたしの味方でいてよね。別に庭園まできて命を懸けろってことではなくて……ただ、味方でいて欲しいの」
「元より味方のつもりだが?」
「わかってる。でもこの先も約束が欲しい。困ったら助言してくれて、悪い事したら叱ってくれる──そうね、あたしの花仕になってくれない?」
「……断る」
(即答された。やっぱ菖蒲さんには勝てないか)
「某は神無だぞ。それに先の約束と言われても……困る。だいたい怖くはないのか? 朝堂でも聞いただろう……?」
「ぜんぜん」
花梨は迷いなく答えたが、夏行の反応は暗く理解に苦しむといった顔だ。
「むぅ、嫌ならいいわよ。だからって神無を理由にしなくてもいいじゃない」
ぷぅと花梨は頬を膨らます。
「そうではない。神無は黄泉に近い存在だ。某などを花仕にしてみろ? お前に『不吉』や『死』の印象を周囲に与え、孤立をさらに招くだけだ。あの菖蒲様ですら畏怖され、お一人で過ごすようになってしまわれたのに。椿殿の言うとおり、菖蒲様が黒獣に殺されたのも……某の『不吉』がまねいたのやもしれぬ」
「あーーーー!! 不吉、不吉って。おじさんって本当に失礼ね」
「なんだと?」
「それを言うなら、あたしは『国家滅亡級』の不吉なんですけど。『不吉』を自称するならその規模になってからしてくれない? 地味にディスられてる気がするし、配慮がなさすぎ!」
「でぃす……?」
夏行の目が点になる。
「あと、根拠もないのに自分のせいとか言わないの!」
「しかし某などを花仕にすれば……」
「その発言も失礼。『おじさんだから』花仕にしたいの! 菖蒲さんもきっと同じ理由だわ」
花梨の言葉に夏行が目をむく。
「……なら聞くが、お前は何故、某にこだわる? 助言なら某でなくてもよいはずだ。婆様のほうがよほど色々と知っておられる。仲間なら神力のある冬織殿に頼めばよい。人脈も優れておられる。お前にとって最大の味方となろう」
「たしかに二人は魅力的ね。でもこの世界で『守る』って断言してくれたのは、おじさんだけよ。しかも危険な庭園にまで着いて来ちゃうお人好し。こんな人はなかなかいでしょ? だから花仕にして独占したいの」
「……」
夏行の声が上ずる。あせる夏行に反し、爆弾発言をした花梨は真顔のままだ。
「だって花守の任務でどっかに行かれたら困るもの。その点、花仕ならあたし専属の仲間だからね。どうどうと傍にいてもらえるわ。ぐふふっ、あたしってば天才」
「そういう事か……まったく」
独占云々は花梨が無自覚に言っただけと夏行は理解したらしい。
「だが意外だ。そこまで信用されるとは」
「おじさんだって、山にぽ~んと現れたあたしを、信じてくれたじゃない」
ケラケラと花梨が笑う。
「そんなことで信用するとは……まったく、お前と話すと、色々なことが馬鹿らしくなってきた」
仁王の顔面すら弱弱しく見える程、夏行が頭を抱えて言う。
「おじさんが難しく考えすぎなのよ。ま、返答は庭園をクリアーした後でいいわ。おじさんだって考える時間は必要でしょ。宮でゆっくり考えといて」
「まて、さりげなく戻そうとするな。傍にいろ発言はどうした?」
夏行に言われ、花梨の顔がすっと真顔になる。
「今回は別。一人で十分よ。全部は言えないけど……あたしだけは大丈夫なの。やられても痛くないし、死ぬことだってない……そういう卑怯で狡いスキルを持ってるの」
バクバクと心の音が花梨の鼓膜を叩いた。幻滅されたらどうしよう……そんな不安や恐怖で花梨の心が潰れそうだ。それでも花梨は嘘をつきたくなかった。自己満足にすぎないとわかっていても。
「そんな事が……」
夏行が数歩後退する。畏怖の混じったその瞳に、花梨の心はずんと重くなった。
「あるのよ、本当に。北山の黒獣と対峙したあたしに、恐怖なんてなかったでしょう?」
「……」
「てことで庭園はあたし一人でなんとかす──っ」
突然、花梨の足元が空を舞った。正確には夏行が花梨を抱え上げたのだ。その素早さに花梨は逃げる隙もなかった。
「ちょっとおじさん??」
「……」
夏行は花梨を抱えたまま、暗闇へと足を向ける。
「放して!! 何をする気?」
「某も供に行く……」
「だめって言ったでしょ!」
花梨は足をばたつかせ抵抗したが、無駄だった。夏行の腕は思ったより逞しく動けない。だからと決して苦しかったり痛いわけではないのだが。レベルをカンストした花梨のプライドは砂のように崩れ去った。どうやら夏行の力は花梨より相当、上のようだ。
(こうなったら……)
「きゃぁぁ~、乙女に何するの~!! へんたーい、ちかーん!」
真面目な夏行のことだ、てっきり慌てるだろうと思ったが無駄だった。夏行が慌てたのは一瞬で、花梨と眼があった途端、あきれた顔をされ、ため息までつかれた。
「下手な演技をしおって。そもそも子猿が乙女なものか」
「ひどっ、そんな子猿の足をみて、赤くなった人は誰よ?」
「ふん、お前は想春と同じようなものだ」
「ちょ、想春君は男じゃない!!! どこが同じなのよ」
花梨の申し立てに夏行が軽快に笑う。その顔は仁王とは程遠い──少年のようだ。
「そうだな……本当は怖いくせに強がるところが似ている」
「別に怖くなんか」
「嘘をつけ!! 一人は怖いくせに。あの夜だって泣いてただろう? 『だいすけ』やらとはぐれ、見知らぬ山にいたのだからな。たとえ死と無関係であっても孤独感や恐怖はある、違うか?」
(う……)
核心を突かれれ花梨は黙り込んだ。
「やはりな──恥じることはない。某も冬織殿や婆様に見放され、孤独になるのが怖かった。危険な任務に体をはるのも【あの方】を助けたのも同様の理由だ。命を懸ける事でしか己の場所を守れなかった。それでも庭園だけは怖くてたまらない。菖蒲様を失った恐怖が忘れられんのだ。【あの方】を助ける時ですら、大泣きして行ったからな」
(おじさんが大泣き……想像できない)
「そこにお前は一人で行くと言う。某を死なせたくないと言ってな。だが本来一人で向かうべきは某だ。菖蒲様への贖罪ならなおさら……けれど神無は浄化が出来ない。情けないがお前に縋るしかないのだ。お前は自分を卑怯で狡いと言うが、それは某も同じ。お前の力を当てにして解決したいと思っているからな」
(もしかしてあたしが卑怯で狡いって言ったから……)
「お前の懸念はわかる。某は浄化ができん、尻ぬぐいは頼む形になるだろう。だが足手まといにはけっしてならん。菖蒲様の花仕として最後のけじめをつけさせてくれ。某を選んでくれた彼女の為にも──頼む!!」
「おじさん……」
(どうする……?)
花梨の心音が五月蠅いほど響いた。花梨の一言で夏行の命運が決まるからだ。ゲームでも気楽に言えることじゃない。たとえ生き返るとしても、死ぬ姿を見たら花梨の心は持たないだろう。
「や、やっぱり──
《駄目だよ花梨》
──え?
《夏行を連れていくんだ。残せば彼の命は持たない。死ねば二度と戻らない。夏行は花梨、花梨は夏行、その絆を絶ってはならない。守りたいなら君と夏行は繋がっていなければならない》
知った声が聞こえ、花梨は慌てて周囲を見渡した──といっても夏行に抱えられているため、後ろまでは見れない。
「どうした?」
花梨の反応に夏行が怪訝そうな顔をする。
「大輔の声が聞こえたの。どこ? あたしは庭園の前にいるわ!! お願い返事をして‼」
花梨は大声で叫んだ──だが何度叫んでも、返事は返ってこない。
(まただんまり? もうっ、接続障害でも許さないんだから。一人で行くつもりだったのにダメって言うし。しかもおじさんがあたしって謎なワードを残されても)
花梨は逃げ出したくなった。物語を作った大輔に言われれば、夏行を連れていくしかない。それも失敗が許されぬという重圧つきだ。
なぜなら大輔は明言した。死ねば二度と戻らないと。
(復活不可なんて鬼畜すぎでしょ。庭園をクリアーしたら、ぶん殴ってやるんだから)
「おじさん、手を放して」
気迫のこもった声に夏行の手が思わず緩んだ。その隙をつくように花梨は抜け出すと、しめ縄の前に立ち、先の見えぬ闇を花梨は見つめる。
「一緒に行きましょう──ただし死にそうになったら、あたしにかまわず真っ先に逃げて。それが条件よ」




