第Ⅷ幕 絵田園都市
実の兄を殺してしまった後、
僕の気分は、ふさぎ込んでいた。それに、
兄を殺しても、処刑された明乃の一家が、
「戻ってくるはずもない」
さらには、その巻き添えで、
多くのディアポリズム協会員も殺してしまった。
この協会員の顔ぶれは、
僕の顔見知りの近所に住む人たちである。
「あまり考え込まない方が良いわよ」
と、リリスが声をかけてくれたのは、
その日の午後のことだ。ここは地下の居住区で、
反乱軍の兵士や関係者が隠れ住んでいた。
「絵田園都市に行ってみない?」
と、リリスに誘われれ、
地下の居住区から僕たちは出る。そして、
スクーターに二人乗りして焼け野原を走った。
「リリス、少し飛ばすよ」
スピードを上げると、
後ろに乗ったリリスは僕にしがみつく。
「そんなにスピードを出して事故らない?」
「大丈夫、大丈夫。何もない焼け野原だよ」
しばらくスクーターで疾走して、
目的地に到着すると、リリスは、
「わあっ、綺麗な場所ね」
一面に広がる黄色い菜の花を見て声を漏らし、
僕も、その美しさと面積に圧倒れた。
「確かに綺麗なものだね。でも、すごい数の花だ」
この『絵田園都市』は、自然豊かな山間にあり、
殺戮の天使の攻撃から生き残った人々が暮らす、
仮設住宅地だった。そこで、
「おっ、リリスか。久しぶりだな?」
と、作業服を着た若い男性が、
馴れ馴れしく声をかけてくる。
「あっ、先輩、絵田園都市にいたんですか?」
「そうなんだよ。リリスも居住するのかい?」
「いいえ、私たちは別に住むところがあって」
リリスが、そう言った時に、先輩氏は、
僕の顔をジロリと見た。
「あれ、彼氏なのか?」
「はい、ほとんど夫婦」
リリスは悪戯っぽく笑う。すると先輩氏は、
睨見つけるような視線を向けてきた。
咄嗟に僕は、
「夫婦なんて、それはないだろう」
慌てて否定したのだが、それでも先輩氏は、
「スケベそいな奴だな」
と、挑発するように言葉を吐くので、
僕は、ムッとして言葉を返す。
「いや、スケベって、そんな言い方はないよ」
「何だと、年上に対する言葉遣いじゃないな」
先輩氏は凄みながら、
僕の胸ぐらを掴んだが、リリスが止めに入る。
「止めて、先輩、私たちは普通の人間ではないの」
そう言ったリリスの表情は、
悲しみにあふれているように見えた。




