新たな旅の始まり
戦場に、再び“重圧”が降り注いだ。
――ズゥン……ッ!
突如、空間が歪む。重力そのものが崩れたかのように、大地が凹み、空気が悲鳴を上げる。
カイとノクスが身構える間もなく、その中心に現れたのは黒く光る重力魔導環。
Dr.オーダが静かに呟いた。
「――《グラヴィティ・ドーム:ゼロ・イミュレーション》」
地面に倒れていたリクの体が、まるで磁力に吸い寄せられるかのように宙に浮く。そして、檻のように収束した重力場が彼の周囲を取り囲んだ。
「なっ……リクを……!」
カイが駆け出そうとする。だが、全身に圧し掛かる“重力の壁”がそれを許さない。
「これなら!」
カイが武器スキル“グラヴィティ”を使用する。上方向に重力を向け、対抗する。だが立つだけで精一杯だ。
ノクスもまた、瞬時に術式を展開しようとしたが、空間そのものが軋んで魔術の回路を断ち切られる。
オーダの視線が、どこまでも冷ややかに彼らを見下ろす。
「最高出力の7%ではこんなものか」
「創造者――コード創造の異常因子。次元干渉計画における最大の不確定要素……ここで一度、解析させてもらう」
「やめろ、リクは――!」
カイの叫びもむなしく、オーダは次元座標の断層を開く魔導ゲートを起動させた。
■《スキル:ディメンション・フォールド/虚界移送》
「では、また会おう。“観測可能な未来”が君たちに残っていれば、だがな」
リクを封じた重力の檻ごと、オーダの姿は光のひずみに吸い込まれ、次元の彼方へと消えた。
……直後、空間の歪みが収まり、圧倒的な静けさが戻る。
ノクスが、地面に膝をつきながら呟いた。
「……まるで、“世界ごと抉られた”みたいだった……」
カイは拳を握りしめる。悔しさに震える指が、地を叩いた。
「リク……必ず、取り戻す。どんなに掛かっても……!」
静まり返った街――
空には歪んだ次元ゲートの残響がまだ残り、重力に引き裂かれた痕跡が、戦いの凄惨さを物語っていた。
リクは、いない。
Dr.オーダに連れ去られ、次元の彼方へと姿を消した。
カイは、焦燥と怒りを押し殺し、何度も拳を握りしめては開いた。
「リクの魔力の痕跡は……もう完全に途絶えてる。追えない」
ノクスが周囲の残留魔素を分析しながら言う。だがその声音は、どこか落ち着いていた。
「だけど、希望がないわけじゃない」
「……希望?」
ノクスは懐から、一冊の古びた書を取り出す。封印印の刻まれた魔術書。表紙には、かすれて読みにくい古代文字が刻まれていた。
「『門の座標は三つの鍵で開かれる』……この記述、次元移送術の原典にあった一節。オーダが使ったゲートと同じ類の術式を、こちらでも再現できる可能性がある」
「つまり、その三つの“鍵”を探しに行くってことか……?」
エルナが、そっとカイの隣に立った。表情には迷いがあったが、その瞳は強く前を向いていた。
「……あたしも行く。リクを見捨てたくない。何度も支えてもらった……今度は、あたしの番」
カイはゆっくりとうなずいた。
「なら、決まりだな。俺たちでリクを取り戻す。そのための旅だ」
ノクスが微笑む。
「“三つの鍵”はそれぞれ、地・水・火の霊域に封じられている。どれも簡単には手に入らない。だが――行こう。今はそれしかない」
こうして、創造者を救うための旅路が幕を開けた。
かつて仲間だった者を取り戻すために、そして、Dr.オーダの野望を止めるために。




