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Dr.オーダ見参

濃密な静寂が、森の一角を支配していた。

ノクスの術式が終わり、リクがようやく正気を取り戻した直後――


空気がひび割れるような音と共に、空間が裂けた。


「……っ!? 転移陣!? いや、こんな精度……」


ノクスが驚愕に目を見開く。

その裂け目から、漆黒の外套をまとった人物が一歩ずつ、悠然と現れた。


「ようやく、“実験体”が完成に近づいたか……」


低く、感情の読めない声。

その瞳は、まるで冷たく研がれた刃のように、リクを見据えていた。


「貴様……Dr.オーダ……!」


カイがすぐさま前に出て剣を構える。

だが、本物のDr.オーダは一瞥もくれない。


「余計な干渉だったな、ノクス・ルーデンス。君の魔術理論には興味があるが、今は“素材”の回収が先だ」


エルナが叫ぶ。


「リクは、誰にも渡さない……! あなたがしたこと、全部――!」


オーダの目が一瞬、エルナへ向く。


「情緒的な感情反応。非効率だが……“対リク兵器”のテストには悪くない」


そう言うと、彼の背後から小型の球状兵器が数体、浮かび上がった。


「――《コラプサー・ナノミラージュ》、起動」


球体から放たれた黒い光が、霧のように広がる。


ノクスが即座に警告を発した。


「動くな! それは――侵食拡散型の誘導体だ! リクを再感染させるつもりだ!」


カイが剣を構え直し、叫ぶ。


「なら、ここで止めるしかない!」


Dr.オーダは微笑すら浮かべない。


「止められるものならな。私は“進化”を見届けに来ただけだ」


その瞬間、霧の中から影が飛び出す――!


戦いの火蓋は、再び切って落とされた。


霧のように広がる黒い粒子――《コラプサー・ナノミラージュ》が空気を侵食しながら舞い散る中、Dr.オーダの外套が風もないのに揺れた。


「解析開始。戦場条件、目標個体の反応、全ログ記録開始」


その言葉と同時に、オーダの背後に**魔法式のような“数式陣”**が浮かび上がる。まるで魔法陣ではなく、科学と魔術の融合体のように。


ノクスが目を見開いた。


「……これは、“術式”じゃない。演算理論……いや、“拡張思考リンク”だと!?」


空間に散った霧状粒子が、まるで自ら意思を持つようにリクたちの動きを計測している。


「……なるほどな。オーダ、お前は観測そのものを“武器”にしている」


Dr.オーダは静かに、だが威圧的に言葉を返す。


「事象は確率と因果によって定義される。“可能性”を収束させれば、予測は確定に等しい」


その瞬間、ノクスの足元から黒い槍のような“演算の影”が伸び、襲いかかる。


「っ……カイ、下がれ!」


ノクスが魔法障壁で槍を弾くと同時に、口早に語り出した。


「奴の能力は、“戦場のあらゆる情報”をリアルタイムで演算し、対象の“次の行動”を予測して先回りしてくる!

つまり、考えるより先に読まれている。普通の戦い方じゃ絶対に勝てない……!」


エルナが震えながらも叫ぶ。


「そんな……どうすれば……!」


ノクスは目を細めた。


「1つだけ手段がある。“観測されていない情報”を用意するんだ。

――例えば、こちらも“予測不可能”な変数になることだ!」


そのとき、Dr.オーダがまた呟いた。


「未知は興味深い。だが、君たちには“誤差の範囲”を超える力がない」


彼の背後の数式陣が回転を早め、複数の魔導兵器が起動し始めた。


「来るぞ……!」


ノクスは、呪文の準備を始めながら、小声で言った。


「オーダの“本質”に気づかなければ、いずれリクごと全てが失われる……」


回転する数式陣の中央に、突如出現したのは異形の兵器――《オーダカノン》。


それは砲塔というより、“計算機と魔導炉が融合した構造体”だった。無数の魔術管が脈動し、中心のコアが青白く光を放つ。


「――対象の戦闘ログ、魔力量、行動傾向……全データ収束完了。最適解による撃破ルート、確定」


Dr.オーダの声と同時に、巨大な光束が砲身内部に収束し始める。時間ごと演算する魔術アルゴリズムが走る。


ノクスが息を呑んだ。


「……あれは、“未来予測演算”によって敵の回避行動すら織り込んで軌道を調整する砲撃……!

避けられない一撃――!」


カイがリクの前に立ちはだかる。


「……なら、打たせるな。撃たれる前に、壊すまでだ!」


だがオーダは、すでに砲撃準備を完了していた。


「……第零式拡張演算式:《カオス・イニシエート》。

“運命歪曲値”を適用――撃て」


■ 《オーダカノン》 発射


まばゆい閃光が空を裂いた。


直線でありながら、あらゆる回避動作を無効化する“運命調整砲撃”。まるで意思を持って追尾するかのように、放たれた光束がリクたちを飲み込もうと迫る。


「……くそ、間に合え!」


ノクスが最後の瞬間、咄嗟に虚空に魔導式を刻む。


「反演転換結界――《リバース・ゼロフレーム》!!」


爆音と衝撃が辺りを包んだ。


地面が焼け、周囲の木々が蒸発するように崩れ落ちる。爆心地に残るのは深く抉られたクレーターだけ。


だが――その中で、ノクスの結界に守られて、リクとカイはかろうじて踏みとどまっていた。


カイが立ち上がり、歯を食いしばる。


「……あれを、あと何発も撃てるってのか……!」


Dr.オーダは冷ややかに言い放った。


「当然。“戦場とは、事象収束の実験場”。

今こそ証明してみせよう――君たちの“自由意思”が、我が“最適化された運命”に抗えるかを」


ノクスが静かに呟いた。




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