リリスの策謀
連れ去られたエルナは、黒衣の監視官たちに囲まれ、眠らされたままどこかへ運ばれていた。
──そして、彼女の封じられたスキルからは、かすかな“感応波”が、まだ微かにリクとカイのもとへと繋がっていた。
エルナは、目を覚ました。
ぼんやりとした視界。
全身に重たい倦怠感。
(ここは……どこ……?)
足元が不安定だった。
移動する空気の振動。
自分は、何か巨大な飛行艦の中にいるらしい。
そして、目の前に立っていたのは——
「……お目覚めね、エルナ=リーヴァ」
女だった。
漆黒のドレスに、深紅の宝石をちりばめた、美しくも冷酷な気配を纏う。
その女は、やや愉快そうに微笑んだ。
「私はリリス。第六監視官ヴィクトール様直属の捕縛官よ」
エルナは身を起こそうとしたが、ぐらりとよろめく。
リリスが、艶やかな指先をエルナへ向けた。
「大人しくして。すぐに終わるわ」
「安心して。壊しはしないわ。
あなたは、“起源級存在”リク=フォルナをおびき寄せるための——
とても、とても大切な『鍵』なんだから」
リリスがエルナの額に指を当てると、エルナは再び倒れる。
「リク=フォルナの情報がわかったわ!」
高空を滑る飛行艦の中、
暗い戦術会議室には、数人の監視官たちが集まっていた。
リリスもその一角に、静かに座している。
中央の浮遊モニターには——
リク=フォルナの戦闘映像が映し出されていた。
《瞬間創造》による即興武器の生成、
《魂障壁》による精神防御。
そして、僅かな時間で「重力魔法」まで再現しようとする異常な成長性。
「……見ろ。常識外れだ」
ひとりの監視官が、重々しい声で言った。
「登録コードに依存せず、己の意思だけで“新たなスキル”を編み出すなど……本来、ありえん」
別の監視官も頷く。
「問題は、時間だ。放置すればするほど、リクの対応力と創造力は加速度的に成長する」
「下手をすれば……数か月後には、こちらの制御手段そのものを無力化される可能性もある」
会議室に、緊張が走る。
その中で、リリスは静かに口を開いた。
「結論から言うわ。
リク=フォルナに、“学習する猶予”を与えてはならない。」
「……では、どうする?」
リリスは微笑む。
しかしその瞳には、冷酷な光が宿っていた。
「“疑似コード封鎖結界”を展開するわ」
場がどよめいた。
「……それは、全存在のスキル行使そのものを封じる禁術だぞ?」
「ええ。だとしても、リク=フォルナに対抗できる唯一の手段よ」
リリスは続けた。
「通常のスキル封印とは違う。
コード・ジャマーは、“この空間そのものを、スキルの根源波長から切り離す”。
つまり——創造も再現も、できなくする」
「なるほど……奴の最大の武器は、スキル生成力。
だが“素材”となる世界法則を封じてしまえば……」
「ただの少年に過ぎない」
リリスは冷たく言い切った。
「リクが力を取り戻す前に、心を折り、捕らえる」
その言葉に、誰も異を唱えなかった。
◆
一方、その場に同席していたヴィクトールは、淡々と付け加えた。
「対象への精神破壊は、引き続き私が担当する。
起源級存在の魂は通常の手段では砕けぬが……
“繰り返し絶望”させれば、いずれ屈する」
リリスがヴィクトールに目をやり、冷たく微笑む。
「ええ、そうして。
ただし、エルナ=リーヴァは傷つけないで。
彼女はまだ、利用価値があるわ」
「了解した」
彼らの間で、非情な作戦が静かに整えられていった。
──リクがこの罠に気づくことなく、迫ってきてくれるのを、待ちながら。




