美悪魔リリス
ヴィクトールの刃が第二波を放とうとした、その刹那。
空間が、ねじれた。
──パシュン!
真紅のドレスを纏った、美しい悪魔のような女が現れた。
長い銀髪。
血のように赤い瞳。
妖艶な笑みを浮かべながら、女は歩み寄る。
「ごきげんよう、監視官様。ご苦労様ねぇ?」
ヴィクトールが動きを止めた。
「……第七監視官、か。任務に干渉するつもりか?」
リリスと呼ばれた女は、楽しげに笑った。
「いえいえ、指令はこうよ。“確保優先”。
あなたは破壊が得意だけど、私は“拘束”が得意なの。」
リクが振り返る間もなく——
リリスは指先を弾いた。
白銀の手錠。《コードシール・バインド》
エルナは避けきれず、手錠で拘束されてしまう。「きゃあっ!」
リリスが言う。
「これで、あなたの未来は私たちのもの。
ねぇ……リク=フォルナ。
“君の魂”も、“この子の心”も……」
「すべて、解析して、利用させてもらうわ」
「エルナを渡せ!!」
リクが叫ぶ。
だがヴィクトールは、冷酷な光をその仮面の奥に宿していた。
「お前たちに拒む力はない」
ヴィクトールの部下たち、黒装束の兵士たちが、
一瞬の隙を突いて動いた。
リクとカイに向けて、スキル封じの網が放たれる。
同時に、空間を縛るような透明な鎖が展開される。
「くっ……!!」
カイは剣を振り払おうとするが、
ヴィクトールの放った重力系の結界によって動きを封じられる。
リクもまた、足元を捕まれ、動けない。
──その隙に。
ヴィクトールは、地に伏していたエルナの腕を無造作に掴んだ。
「いや……!」
エルナがかすかに抵抗しようとする。
だが、精神を削がれた彼女に、抗う力は残っていなかった。
ヴィクトールは無理やりエルナを抱きかかえると、
その背に、黒い転移紋を開く。
■ 転移スキル:《シャドウ・ゲート》
──指定地点へ即座に跳躍する闇の門。
この場を離脱し、監視官本部へとエルナを運ぶためのスキルだ。
リクが必死に手を伸ばした。
「やめろ!! エルナを……!」
だが、指先がかすかに届く前に──
エルナの小さな身体は、闇の門の向こうへと消えていった。
「エルナァァァアア!!!」
リクの絶叫が、森に響く。
転移ゲートは、冷たく閉ざされた。
辺りには、リクとカイ、
そして彼らを取り囲む監視官部隊だけが残された。
リクは、呆然と拳を握りしめたまま、地に膝をついた。
(……仲間……守れなかった……)
エルナの小さな手。
震えながら、助けを求めて伸ばしていた手が、
脳裏に何度も何度も焼き付いた。
カイも、拳を地面に叩きつける。
「クソッ……! なんで、俺は……!」
彼らの絶望を嘲笑うかのように、
黒装束たちが包囲を縮める。
会議
「いくぞ、カイ!!」
「おうッ!!」
リクとカイは、絶叫と共に動き出した。
リクは右手に、即興で創造した“炎の双剣”を。
カイは鍛え上げた武の肉体に、“流剣”と呼ばれる鋭い太刀を手に。
二人は、黒装束の監視官部隊へ飛び込んだ。
「うおおおおお!!」
リクの双剣が、烈火の軌跡を描く。
辺りの空気ごと焼き尽くすような斬撃。
「はあああッ!!」
カイは正確無比な一撃で、敵の急所を狙い切り裂く。
──次々に兵士たちが薙ぎ倒されていく。
しかし。
(……おかしい。まだ……全然減らない!!)
リクは瞬時に悟った。
黒装束たちは、倒しても倒しても、無限に湧いてくるかのようだった。
──いや、実際に増援が転移ゲートから送り込まれていた。
「まずい、リク!!」
カイが叫ぶ。
リクも気づいていた。
(……このままじゃ、持たない!!)
炎は、次第に燃料を失い、威力を落とす。
カイも、激戦続きで体力の限界が迫っていた。
敵の数は圧倒的。
しかも、ただの兵士ではない。
全員がスキルを封じる結界術や、時間操作の足止めを仕掛けてくる精鋭たち。
一人倒す間に、さらに二人、三人と増援が現れる。
「チッ……!」
カイが剣を叩きつけるように振るうが、
刃が空を切る。
リクの両腕も、限界に近づいていた。
創造スキルの酷使で、意識が霞みそうになる。
──そして。
「撤退するぞ、カイ!!」
リクが叫んだ。
「クソッ、分かった!!」
二人は背中を合わせながら、必死に後退を開始する。
リクが爆裂炎を放って敵の視界を奪い、
カイがその隙に道を切り開く。
「逃がすな!!」
「包囲しろ!!」
敵の追撃が迫る。
──だが、どうにか。
森の奥へと、二人は身を隠すことに成功した。




