エルナ、ピンチ
ヴィクトールは静かに、手にした異形の剣を掲げた。
その刃から、黒い“波動”が放たれる。
■ スキル発動:《コード・ブレイカー》
──対象の「存在コード」を直接破壊する異能。 肉体だけではない。精神、魂、そして意志そのものを穿つ、世界規格の殺戮技。
(まずい……!)
リクは直感的に理解した。
普通の攻撃ではない。
当たれば、「戦う」という意志すら破壊される。
そして——
ヴィクトールの視線が、エルナに向いた。
「……感応者。機能停止を優先する」
エルナの周囲に、見えない刃の波が走った。
ザリ……ザリ……
空間そのものが歪む。
「……あっ……」
エルナの膝が、崩れ落ちた。
目が虚ろになり、全身から力が抜ける。
「エルナ!!」
リクが駆け寄ろうとする。
だがヴィクトールが鋭く剣を振るい、リクの進路を断ち切った。
「来るな。起源級存在」
ヴィクトールの声には、一片の感情もない。
ただ、淡々と、世界の法則を遂行するだけの機械のようだった。
◆
地に膝をついたエルナの頭に、次々と「絶望のイメージ」が流れ込んでいた。
——誰も信じられない。
——裏切られる。
——お前の力は気味悪がられるだけだ。
今まで耐えてきた孤独、痛み、疑念。
すべてが、コード・ブレイカーによって増幅され、エルナの心を押し潰していく。
「……もう、いや……」
エルナが震える声で呟く。
「やっぱり……わたしなんて、いないほうが……」
彼女の心の光が、消えかけていた。
──リクが、叫んだ。
「エルナ!! 聞こえるか!?」
エルナは顔を上げることができない。
ただ震え、涙をこぼすだけだった。
カイも苦悶の表情で叫んだ。
「立て、エルナ!!お前がいなきゃ、俺たちは……!」
だがヴィクトールは無慈悲に歩み寄る。
「終わりだ」
黒い刃が、エルナに向かって振り下ろされる。
──その瞬間。
リクは魂を振り絞った。
「創るッ!!!」
■ スキル創造:《ソウル・シェルター》
──対象の精神を一時的に“護る殻”で覆い、外部干渉を遮断する防御結界。
リクの右手から、蒼白い光の球体が放たれた!
ドオオンッ!!!
間一髪、エルナの周囲に光の盾が形成される。
ヴィクトールの斬撃が、結界に衝突し、凄まじい衝撃波が爆ぜた。
「く……!!」
リクの体が、血を吐くほどにきしむ。
《ソウル・シェルター》は、リク自身の魂を直接燃やして展開する超高負荷スキル。
長くは保たない。
しかし、その一瞬の時間が——
エルナに、わずかな希望を繋いだ。
リクが叫ぶ。
「エルナ……!!
君は、誰よりも“人を信じたい”って願ってたじゃないか!!
君の心は、壊されるためにあるんじゃない!!
誰かと繋ぐためにあるんだろう!!!」
エルナの震える手が、ほんのわずかに、光を掴もうと伸びた。
だが、ヴィクトールは冷徹に、次の斬撃を構える。
「無駄だ。心の防衛も、時間の問題だ」
第二波、第三波の“精神破壊波”が、リクたちに迫ろうとしていた——!!




