最後の抵抗
「それで良いんですよ!」
ボルデックは勝ち誇る。
「そんな……」
パトラティアは絶望していた。
「大丈夫だよ」と俺は言う。
作戦がバレるわけにはいけないので、詳細は言えない。
「大丈夫? 何が大丈夫なんですか!? あなたたちは……」
言い終える前にボルデックは悲鳴を上げ、倒れる。
恐らくリザが『水震』を使ったのだろう。
リザは『透化スライム』から飛び出し、パトラティアは抱き抱えて、俺たちの所まで走って来た。
「ナイス、リザ」
「もっと褒めてくれ!」
リザは嬉しそうに言う。
「待つんじゃ。儂の方が今回は働いたぞ」
アイラが抗議する。
「こいつらを倒すのなら、私だって出来た。でもパトラティアの救出という重要な任務は私にしかできなかった」
それは事実だ。
『透化スライム』は匂いや音や姿は消せる。
しかし、魔力を感知されれば、居場所がバレる。
リザの魔力制御能力なら、魔力を限りなくゼロに出来る。
その点、魔力が強大すぎるアイラやフィールレイはいくら抑えても気付かれてしまうだろう。
「それは儂が必要以上に敵の注目を集めたからじゃ。……って、今は言い争いをしている場合じゃないの」
アイラはパトラティアの手錠を素手で強引に壊した。
「ありがとう……」
それだけ言うとパトラティアは倒れそうになる。
俺は彼女を支えた。
酷い傷だ。
殴られた顔もそうだが、尾の傷がさらに酷い。
放っておいたら化膿してしまう。
『透化スライム』をデッキに戻し、代わりに『治癒スライム』を召喚した。
「ライリーさんもこっちに来て」
ライリーさんは素直に従う。
そして、二人の傷口に『治癒スライム』が張り付く。
「これで消毒と止血は出来る」
「ありがとうございます」
ライリーさんが素直にお礼を言ってくれた。
「こちらこそ、ありがとう。君が時間を稼いでくれたおかげで追いつけたよ。さてと……」
俺はボルテックへ視線を移す。
「無駄な抵抗は止めろ」
「人間風情が……」
ボルテックは俺を睨んだ。
しかし、俺の前にはリザ、アイラ、フィールレイがいる。
勝ち目は皆無だ。
「女に守られて恥ずかしくないのか!」
ボルテックは俺に悪態をつく。
「情けない話、俺には戦闘力がないからね」
「もう終わりにするぞ。こやつの声を聞くだけで不愉快じゃ」
「アイラ、生け捕りでお願いできるかい?」
「甘いこと……言っているわけでは無さそうじゃの」
アイラは俺の表情から察したようだ。
「こいつには生きて、裁きを受けてもらう。最終的な結末が同じでも俺たちじゃなくて、蛇人族の枠組みで裁かれるべきだ」
それを聞いたボルテックは絶望する。
自殺するのでは、と思ったが、そんな度胸は無いようだった。
反乱に加担した者たちを捕縛して、事件は解決。
そうなると思っていた。
「舐めるなよ。お前たちも道連れだ!!」
叫んだのはラウルだった。
しかし、奴は俺たちを襲おうとしたわけではない。
「いけない! あいつを止めて!」
パトラティアの口調が事態の深刻さを物語っていた。
「リザ!」
俺が言うより早くリザは矢を放っていた。
魔法付与の矢がラウルの頭を貫き、倒れる。
リザが大きく息を吐いた様子からすると、殺傷能力のある矢だったのだろう。
だとしたら、ラウルは即死だ。
しかし、一足遅かった
ラウルは絶命前に目的を達成していたらしい。
部屋の上部で爆発音がし、天井が落ちて来た。
「全員、まとまれ!」
俺の指示で全員が一か所に集まる。
ボルデックが奥の部屋へ行くのが見えたが、今は追えない。
「魔法付与の矢『烈風』!」
「『竜弾』!」
「『竜矢』!」
リザたちが落ちて来た岩を打ち落とすが、限界がある。
「『守護竜の骸』を召喚!」
守護竜の骸
レベル⑤属性(土) 召喚コスト2500
攻撃力0 体力3500
『竜は死してなお、聖域を守護し続ける』
巨大な竜の骸が出現し、岩を受け止める。
やがて、崩落は止まった。
「みんな、無事か?」
俺の言葉に全員が頷く。
どうやら、こっちは全員無事だったようだ。
しかし、反乱した者たちは……
「この状況じゃと生存者は望めんの。じゃが……」
アイラの言いたいことは分かっている。
ボルデックが奥の部屋に逃げた。
「ボルデックを追う。パトラティアとライリーさんは地上を目指してくれるかい?」
「そんな私も……」
「駄目だ」と俺はパトラティアの言葉を遮った。
「君は怪我をしている。ライリーさんもだ。傷の手当てが優先だよ」
「…………分かったわ。ハヤテ、ごめんなさい」
パトラティアのこんなに弱気な表情は初めて見る。
「私がここのことを隠していたからこんなことになって……ハヤテたちには話すべきだった……」
「今更それを言ってもしょうがないよ。リザ、アイラ、フィールレイ、行くよ。ナターシャ、君は……」
パトラティアたちと一緒に地上に行ってほしいが、彼女の眼を見ると説得は出来なさそうだ。
それに言い合いをしている時間はない。
「ここから先は何があるか分からない。だから、気を付けてくれ」
ナターシャは「分かった」と声を張った。
俺たちは落ちてきた岩の間を抜けて、奥の部屋へ向かう。




