勇敢と無謀
この話もパトラティアの視点となります。
ご了承ください。
「待ちなさい! 卑怯者共!」
地下遺跡内に声が響いた。
その声にボルデックが焦った表情になる。
一瞬、ハヤテたちが来たのかと思ったけど、その声はリザちゃんでもアイラやフィールレイでもない。
ナターシャがこんなことを言うはずはない。
「なにを考えているか知らないけど、騙し討ちなんて闘狼人族も賢狼人族も地に落ちたな!」
勇ましく吠えるのはライアンさんの娘のライリーさんだった。
「なんだ、子猫ですか」
ライリーさんが一人なのを確認するとボルデックは安堵の笑みを浮かべる。
「どうですか? あなたの父親は愚かにも蛇人族と手を組もうとしている。いっそ、我々と一緒に来ませんか?」
「馬鹿を言うな! 私は気高き王描人族だ。戦場で正々堂々と戦うなら望むところ。しかし、こんな卑劣な手段に協力するつもりなどない! それに父上をよくも……絶対に許さない!」
ライリーさんは構える。
「まったく馬鹿な娘ですね。ラウルさん、お願いできますか?」
「俺に命令するな。覚悟しろよ、ライアンの娘」
ラウルがライリーさんの前に出る。
いけない、このままだとライリーさんがやられる。
「逃げて、ライリーさん! そして、スタンレン叔父様にこいつらが魔導兵器を復活させる方法を知ってしまったことを伝えて頂戴!」
「勝手にしゃべらないでくれますか?」
ボルデックは私の首を絞める。
「パトラティアさん! ……あなた方はどこまで卑怯なんですか!?」
ライリーさんがラウルに襲い掛かる。
「早い……だが、まだ未熟だな」
ラウルはライリーさんの攻撃を躱して、彼女の脇腹に蹴りを入れる。
「かはっ……!」
「どうした、そんなものか!? 一気に行くぞ『狼爪』!」
ラウルは攻撃の手を緩めない。
目に見えるくらい高密度の魔力がラウルの両手に集中する。
怒涛の攻撃でライリーさんを追い込んでいく。
「所詮、その程度か!」
ラウルは右手の爪で、ライリーさんの首を狙った。
勝負にならなかった、と思った。
「なに?」
でも、ライリーさんはラウルの右腕を掴んだ。
「こんな攻撃、父上に比べたら重くない……! こんな攻撃、アイラさんに比べたら速くない……!! 今度はこっちの……番! 『王猫拳』!」
ライリーさんの魔力が向上する。
「小娘が……!」
明らかにライリーさんが押している。
勢いとかじゃなくて、単純な強さで勝っていた。
もしかして、あの子、実践慣れしてなかったのかしら…………
「調子に乗るな!」
ラウルが大技を出すが、ライリーさんがそれを躱す。
「しまっ……」
「王描拳一ノ型『拳魔波』!」
ライリーさんの攻撃が直撃し、ラウルは壁まで吹き飛んだ。
いける!
……と思ってしまった。
私も戦闘に関しては素人。
ライリーさんも実践は初心者。
だから、戦いは一対一でないことを失念してしまった。
「放ちなさい!」
ボルデックが叫んだ。
「………………!」
ラウルに追撃しようとしたところにボルデック配下の兵士が矢を一斉に放った。
魔法で強化された矢がライリーさんを襲う。
ライリーさんも魔力で防御力を強化していただろうけど、数が多すぎた。
矢を受けて、ライリーさんは膝を付く。
「卑怯者……!」
「卑怯? 試合じゃないんですよ」
ライリーさんは右足に酷い怪我をしていた。
多分もう逃げることも攻撃を躱すことも出来ない。
「余計なことをしやがって……!」
ラウルがゆっくりと歩いて、ライリーさんに近づく。
「別にあなたが負けるとは思っていませんよ。でも、念の為です」
「ふん、どうだかな……さてと……」
ラウルは爪を展開した。
「待ちなさい! もし、その子を殺したら、舌を噛み切って死にます。ボルデック、あなたには私が必要なんでしょ?」
それを聞くとラウルはうんざりとした表情になった。
「どうするんだ?」
「仕方ありませんね。分かりました」
「ふざけるな! 情けは受けない! あなたも何故、私なんかの為につい最近まで敵だったのに……」
私は自嘲気味に笑った。
「偽善、と思われて良いわよ。でも、私より年下の子が目の前に死ぬのを見たくないの」
それを聞いたライリーさんの表情が緩んだ。
「小娘、見逃してあげます……なんて、言うと思いましたか?」
「!?」
いきなり口に何かを詰め込まれた。
「逃がすわけないでしょ。ラウルさん、その娘を殺してください」
騙された……!
こんな単純な嘘も見抜けなかった。
「どこまで卑怯なんだ……!」
信じられないことにライリーさんは立ち上がった。
やめなさい。
立てるなら、逃げなさい!
でも、私の願いは叶わず、ライリーさんは構える。
「死ね、ライアンさんの娘」
ライリーさんがやられると思った。
「ぎゃあぁぁぁ!」
しかし、響いたのはラウルの悲鳴と骨が折れる嫌な音。
ライリーさんじゃない。
ラウルが腕を押さえる。
「まったく、勇敢と無謀は同義ではないぞ。しかし、おぬしが稼いだ時間は無駄ではなかったの。感謝するぞ、ライリー」
アイラさんが現れた。
その後ろからハヤテたちも駆けつける。




