64 FUNGAL VIOLA
目が覚めると、朝方の洗足池の西郷隆盛の留魂祠の背後に横たわっていた。
いつも異世界との行き来は適当だが、なんでかバレて騒がれたことはない。都会の無関心のお陰か。
ニャムルは今回もついてきていないようだ。異世界に良い男でも見つけたのだろうか。
自宅のアパートに戻る。嘉玲が会社の金かなんかで豪奢なマンション的なのが都内各地にあるらしいが、根っからの庶民派なので、今も基本的にはこのアパートにいる。両親が遺してくれたものだし。窓から神社が見えて穏やかな気分になる。
でかいリュックサック一杯に木材を詰めてきた。不思議なダンジョンで獲れた武器やらはエミールの家に置いておいた。全部持ってきたら、銃刀法違反で検挙されてしまいそうだからだ。空色水月だけは忍ばせているが。境界な魔素を充填して空色水月を育てないとな。少しずつ伸びてて、今は25cmくらいだ。ん・・・、魔素を充填しようと思ったけど、なんでかできないぞ?まあいいか。
日本は安全な国だし、いくら銃刀法( 銃砲刀剣類所持等取締法 )上、「15cm以上の刀・やり・なぎなた」、「5.5cm以上の剣及びナイフ」と日本古来の刃物である「刀・やり・なぎなた」が優遇されているといっても、25cmを超えている空色水月は許可を得ないと所持できないことになってるしな。包丁のふりしてたらイケるか?
いずれにせよ、今回は木材が主役の帰省だ。
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「平岡さん、、、この木材をどこで・・・?」
「なんかどこぞの人が外国の奥地で手に入れたものらしいっす。オレもよく知らないっす」
「禁制品や盗品じゃないだろうね・・・?」
バイオリンショップ・バショメットの職人である菊池さんは訝りながらも、木材を注意深く検分している。
「これは楓っぽいから裏板に・・・これは松っぽいから表版に・・・ん?なんだこの異様に硬い木材は。フェルナンブーコのようだがこんなでかい種類はあっただろうか・・・」
ブツブツ言ってのめり込んでいる。フェルナンブーコとかいってるのは、あのボスの巨木バオバブがドロップしたやつか。
オレはしかたなしに壁の方に掛けられているバイオリンやヴィオラの群れを眺める。今持ってる資産なら全部買えそうだが、弾かない楽器は持っていてもしょうがない。
「木目がなんて細かく緻密なんだ・・・まるで17世紀の木材・・・あの頃は氷河期でブツブツ」
「それで菊池さん、この木材を使ってヴィオラを作ってもらえますか?本体と弓とを」
「うるさいな・・・今美しい木を眺めているとこ、ごほんごほん、平岡さん。この材質なら素晴らしい楽器ができそうですよ?ところでもっとお持ちなら買い取りたいのですが・・・」
「あ・・・はい、まだ家に多少あったように思います(客に対する態度じゃねーだろ)」
「でしたら、製作費もお安く致しますよ」
別に製作費ごとき(200万円くらいと聞いた。日本はイタリア/オールドびいきに過ぎるそうで、日本人の優れた作家のものでも品質の割には相当安く買えるそうだ)払える資産は優に持っているが、家に木材が転がっていてもニャムルの爪とぎになるだけだ。それなら楽器にしてもらったほうが有意義だろう。
これだけお金を持っていても、本当に買いたいものは案外安いものだな。
いくら稼いでも土地と高級ワインだけに散財するのは本当に幸せなことなのだろうか。
次回、アマチュアオーケストラで無双予定。




