57 黒い森のダンジョン攻略 6 覚醒
要は皮膚だ。
オレの皮膚に魔素が宿っている。表面の中でも外でもなく境界そのものに。魔素を外に出したり内に溜めたりする形での魔法はオレには使えないことを感覚的に察知した。
二次元である皮膚の表層にみなぎる魔素はオレの手をつたい、ナイフに伝播し敷衍していく。ナイフの切っ先は揺らいでいるように見える。境界が曖昧になっている。その境界を操れる確信がある。
オレは真理に今触れている。
人間は皮膚的存在なのだ。
目や耳、頭より何より先に全身の皮膚で世界を感受している、胎内の時から。
ナイフの境界線が揺らぐ。柄を握ると微かに少しずつであるが、大きくかつ鋭くなっていっている。切ることへの特化だ。ナイフの徳( アレテー ) が充ち満ちている。
腕を横に滑らせる。
滑らかな軌道を描きつつ、ナイフは切ることを忘れたかのように平然と木の中を通過し終えた。結果だけが残る。ナイフの刀身の三倍程度に斬り込まれた傷が見えた。
「ギ ギイィ ィシ シ ヤ ャ ャァ ァ ァァ ・・・」
遅ればせたこの巨木トレントの鳴き声が切り裂かれた空隙を埋めるかのように響き渡る。繊維がうねうねしているが、修復はちまちまとしか進んでいないようだ。
ナイフの青はさんさんと輝いている。
このナイフに名前でもつけてやろうかと心に映るよしなしごとを考えていると、いつの間にか斬撃の跡が五、六本に増えていた。
「空色水月、、、」
適当な仏教用語を組み合わせただけだが、境界の揺らぎと綺麗な青、美しい鋭利性を表現できてるように思われた。くぅちゃんとでも呼ぶべきなんかな。ん、ちょっと切れ味が鈍ったぞ。なんでかな。
中心を貫き、斬り裂く。
枝の動きが鈍っている。終わりが近いことが予感された。
自重で倒れるのに幾分もかからなかった。
「たおした、、、のか?」
これまでのトレントよりゆっくりと時間をかけて光の粒になっていく。
「ウ オ オォ ォォ ォ、、ワレ、、ワヌシに恭順ス、、、」
えっ!?この木なんの木?しゃべれるん?
消えた後、いくつかの木材が残った。フルーツよこせよ。柾目の高級そうなのがあるけどさあ。
、、、。
ふわふわ、、、
うーん、気のせいかなあ。
幼女がぷかぷか浮いているのが見える。
頬をつねっても、風景は変わらなかった。




