46 もらい事故は突然に
「プラト様、お待ち下さいまし、、、」
可愛らしい侍女が小走りに駆けてきているが、呼ばれた男は意に介していない。
「ジャンヌよ、お主の髪のように月が美しい夜にこのトロイに来ているというのに何故私を呼ばない?」
ジャンヌはひんやりした夜風に紅く美しい髪をこぼれおちる血のようになびかせて
「プラト、、、それは貴方がご承知のことですわ。人づてでしたが、何度もお断りいたしましたでしょう」
・・・。
真の敵とはなんなんだろうか。単に欲望にまみれた醜悪なやからであれば、殴って倒せば良いだけだ。ローマ法もやり返すことは認めているわけだし、身分の違いなど、人と状況によってはなんの効果もない。ましてやオレは尋常ならざる力を有しているのだし、この世界の生まれではないのだから、基本的には無責任だ。日本社会のような平和に腐乱しているところなら尚更だ・・・。
やはり真の敵とは自身の精神に致命的な攻撃を与え得る存在のことだ。豊臣秀吉が刀狩りをし、国家が暴力を独占したとしても、それはあくまで物理的な範疇だ。未だ国家は精神的な武器を収奪できていない。それどころか、表現の自由として武器を充分に与え、内心の自由として被害者に何ら防具を与えていない。精神的に人は死ぬことは明らかであるのに・・・。
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「人の意思が問題ではないのだよ、ジャンヌ。我々はこの国のために結ばれるべきなのだ。なのにそんなおぼこな処女みたいなことを言うとは、、、まあそれも一興だ。君には私の妻となった後でも浮気する権利を与えてやろう、理性の繋がりの方が価値のあることなのだから」
「貴方のその形而上的すぎる考えは好きになれませんわ。わたくしはわたくしのやり方でこの国を守りたいと思っております」
「そこのギルドメンバーを使ってか?どうせうだつの上がらない平民だろう、南瓜のほうがまだ利発そうだ」
こいつ、、、かぼちゃは煮てよし焼いてよしケーキやハロウィンにも良しの完璧な生命体であることを看破しているな。おっと、そうじゃない、こいつはいわゆる平民をコケにする貴族様というやつか。初めて見たは。
ワインのグラスを傾けつつ眺めていると
「僕はそうは思わないね。人間はみな同じさ、長い歴史のはじめに土地を占有して他人の善意につけこむのが得意なやつがいただけさ」
「お前は、、、どこかで見たことあると思えば、あのエミールというやつか。人は平等で国は人民との契約で成り立っているというふざけたとんちんかんな説を流布しているやつは。ここで殺してやっても良いんだぞ?」
「それはこのヒラーが許さないぞ」
オレ?関係ないっしょ?
「まあいい。私は知を愛しているからな、そんな非現実的で荒唐無稽な説などさほど問題視しておらんよ。世の中はこれほど多様性に満ちているのだ。確かに外見上は人は平等に見えるかもしれない、いや、それすらも遠くから人ごとのようにぼんやり眺めている時だけだ。近くで見れば月のように美しい人もかぼちゃのようなやつもいるのだ。ましてや、魂の質が違う。神は明らかに違う魂を与えている。金、銀、鉄のようにだ。同じ金属だが質は当然違う。それぞれの徳や本分を発揮するしかないのだ。例えるなら金は王、銀は貴族、鉄は壁内の平民だな。銀の中には金より価値のある白金のような人物もいるが・・・鉄はお前らギルドメンバーや兵士のように金や銀に支配され、金や銀を支えるのが本懐なのだよ」
「それは、、、そういう契約を結んだだけということさ」
「わたくしもそう思います!平民無くして国は成り立ちませんわ!」
「結局、お前らもジャンヌも人の質と役割の違いを暗に認めているのだ。・・・しかし、これほど反抗的なのはいささか宜しくない」
プラトと呼ばれている男は突然こちらの懐に入り込み拳を振るった、なぜかエミールではなくオレに。
ドカンっ!!!!
もるすぁとオレは10mくらい吹っ飛ばされた。やれやれ、こぼれおちた赤ワインがもったいない。




