45 簒奪者 Usurpateur
「ああ、よく来てくれた。しかしまだもう少し準備がかかるからちょっと待っていてくれ」
まあ、服とか適当でいいか。
いつのまにかエミールはきちんとした服を着ている。おまえ、俺に一言くらい言えよ。
結局、俺の持ってる服なんて、現地で買った適当な服しかない。貴族用ではない。しかし、そんなの指定しなかったジャンヌのせいだ。オレのせいではない。
あわてて飛び出すものの、やはり使いはオレらが遅れることなど想定済みのようで涼しい顔つきだ。紙タバコをさっと捨てている。
「こちらの馬車にお乗りください」
吊り下げ式の豪奢な馬車だ。街中で必要ないだろ。
導かれるまま座ると、馬車は動き出した。
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「ようこそ、おいでくださいました。ここまで、、、ここまで、長かったですわ」
瀟洒な大きな白い館から出てきたジャンヌはなぜか少し感慨深げだ。
ちょっとは予想していたが、、、コイツ、相当の金持ちだな。館の横幅が200mくらいあるぞ。庭も広いし、手入れが行き届いている。
「美味いものは用意しているか?」
「もちろんですわ、ヒラー様への恩に少しでも報いるためですもの」
そんなものどうでもいいんだが、旨いものには人は抗えない。
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血のように紅い月のようなものが見えるベランダで、まずは食前酒を愉しむ。前菜はエスカルゴのような貝のバター焼き、砂肝のサラダだ。白ワインはしっかりと熟成された年代物。美味しい赤ワインより美味しい白ワインのほうが少ない。
メインは子牛の赤ワイン煮だ。スモークされた牛肉が絶妙なバランスをもたらしている。
「美味いな、、、これは美味い」
「気に入っていただきなによりですわ。うちのシェフの得意料理ですの」
月の色をした赤ワインは何者をも黙らせる。
「ヒラー様はどちらのご出身ですの?」
「ここから遠い、、、遠い国の生まれだ。とはいえ、平民だよ。おまえのような貴族ではないさ」
「ヒラー様の知性は少なくともこの国の平民のそれではありませんわ。しかも、相当に強くいらっしゃる。ギルドにも安定的にモンスターの素材を納めてらっしゃいますし」
「まあ、弱いわけではないとは思うが、もっと強いやつもいるだろう?」
「そのニヴォーでその強さはあり得ませんわ」
やはりジャンヌはオレの強さを求めているようだ。
「別に強いことに意味があるわけじゃないだろ。オレの知り合いでもっと稼いでいるやつもいる」
「稼ぐことはある意味弱さの証明ですわ。本当に強い者はその必要性がありませんもの」
「いやあ、このワインは本当に美味しいね。いいブドウを使っているよ」
「そういえば、エミールはこのアルデンヌ王国出身なのか?」
「いいや。僕は隣の小国の生まれさ。父は時計職人だった。とある貴族と揉めてね、国を追い出されたわけさ」
「今宵は平民も貴族も関係ありませんわ。月の前では誰もが同じですもの」
「聞き捨てならないことを言っているな」
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振り返ると、精悍かつ冷徹な貌に彩られた男が立っていた。
ああ、直感でわかる。
こいつは敵だ。




