【e6m65】覚悟
弁当を買った帰りに、寄り道してあの川辺の土手にやってきた。折しも、あの夢と同じ頃合いで、西日が沈もうとしていた。そしてまさにあの場所で、男の子と女の子が水遊びをしていた。側には保護者が見守っている。
「辻さんは、俺にとってなんなのだろうな……」
フラれた日からよく考えるようになったが、しっくりこな――
「うわ〜ん!」
川辺の男の子が転んで泣き始めた。すぐに女の子が駆け寄って慰める。俺らが子どもの頃、あんな時があっただろうか? 忘れているだけで、あるだろうな。
あの子は妹さんかな? それともお姉ちゃん? ちょっと遠目だとわからない。どちらにせよしっかり者のように見える。
辻さんは俺の1つ下だが、俗世俗物に染まっておらず、我が強く、器量も良いので、全くいとけないイメージはない。俺が困ったり、泣いたりしたときは、あんな風に隣にいてくれた。母さんが亡くなってから、特にそうだった。
ふとあの子らと目があった。俺が手を振ると――
「バイバ〜イ!」
と振り返してくれた。あんまり見つめていると不審者と誤解されるので、早々に歩き出す。
「辻さんは、俺にとってなんなのだろうな……」
もう一度考える。友だち? いやお互いよく知りすぎているし。恋人? それにしては思慕が足らない。本人は幼馴染と言ったが、それにしては離れていた時間がな。感情抜きの民法に言わせれば、まさに“4親等の従姉妹”だ。
頃合いの曖昧な夕暮れに、サギが一羽飛び去っていく。得体の知れないコバートオプスによく合う空の色。けど彼女が付近にいる気配は、露ほどもしなかった。
帰宅後、ぼんやりしながら弁当を食べていると、いつの間にか空になっていた。
「ゲームする気にもならん」
だから、先輩に従ってアルバムを開いた。どの写真を見ても辻さん、辻さん、辻さん。この頃は4才か? 同じ年頃の子どもらよりも大人びて、顔かたちが美しい。その髪は照り輝いていて、黒くゆら/\と動き出しそうだった。
昔から今まで変わらないと思っていたが、子どもの頃はいっぱい咲を含んでいた。そして今更気づいたことがある。俺と写ってる時は、必ず俺の隣にいた。手を繋いでいる物も多い。
『宮どの、宮どの。こち』
こんな声が聞こえてくる。幻聴だ。
『のんたんへの気持ちでいっぱいなんだよ。だから、全部正直にぶつけたらどうかな?』
突如先輩の言葉が思い出される。要するに、菅から奪い返せと言っているのだろう。さすが辻さんに艶色無双と言わせしめたヒロインだ。のほほんとした顔をしていたが、先輩が俺の立場なら、マジでやってのけるはずだ。
「けどな、マジでそんなことしたって……」
そう呟くと、“どうぶつビスケット”と謎の掛け声と共に、気合を入れられたことを思い出した。先輩、俺がビビっている事すら見透かしていたのな。
どうしようもなくて、白檀を深くしみこませたる薄様重ねを持つ。今もにおい殊になつかしい。目を瞑れば、すぐ側に彼女がいるようだ。掌を顔に押し当てて、只泣くよりも外の事もない。そんな幻像が浮かんだ。
「辻さん……この和歌の真意はわからないけど――すごく大切な人だ」
先輩、俺を振ってまで気づかせてくれて、本当にありがとう。もう覚悟を決めたわ。この気持ちは、恋愛感情とは違うかもしれないけど、やっぱ辻さんと離れ離れにはなりたくない。




