【e6m64】振られ
「――じゃあ大宮、次読んでみろ」
現社の授業で、担任から急に指名されて我に返った。
「……お前、またボ〜っとしていたのか?」
「すいません」
アルバムの中に忍んでいた、薄様重ねについて考えていた。“さすたけの”は、おおみやびとの枕詞で、その“おおみやびと”は宮中仕えの役人だが、この場合は間違いなく俺だ。そして“あぢきなし”は、つまらないという意味。『どうしても名前を呼ばないのが、つまらない』、それが訳なんだろうが、彼女は肝心の末句を意図的に削っている。
「そこまででいいぞ。もっと集中するように」
「はい……」
担任の顰蹙を買ったが、実際授業どころではなかった。これさ、国語の先生に質問してもわからんだろうな。俺らの関係を詠んでいるから、第3者には通じない。
「こんなことがあったんスよ……」
昼休み。動物ビスケットを齧りながら、中庭の日陰に先輩と座っていた。念のため、あの和歌を先輩に尋ねてみた。彼女はパートナーヒロインだから、ひょっとしてピンとくるものがあるかもしれない。
「(¯―¯٥) ごめんね。まいアホの子だから、全然わかんないよ」
「やっぱ難しいですよね……すいません」
と、俺の目論見は見事外れた。ため息1つついて、ガックリしていると、先輩はおふざけなしの顔をして問いかけてきた。
「(* ॑˘ ॑*) ねー、おーみやくんは、なっ得してる?」
「え? 納得って、何にです?」
唐突な質問に戸惑ってしまう。彼女はニコと続ける。
「(* ॑˘ ॑*) のんたん、すがくんと付き合っているけど、それでいいの?」
「いいもなにも、辻さんには幸せになって欲しいです」
「(੭ ᐕ)੭ 本当かな? のんたんとの思い出を、ゆめにまで見ているんでしょ?」
「本当です……俺はフラれたんですから、それしかできない」
自分に言い聞かせる。顔を乗り出した先輩は、とっくに俺の心中を見通しているのに、振り払うように否定した。
「(˶˙ᵕ˙˶) おーみやくん、のんたんへの気持ちでいっぱいなんだよ。全部正直にぶつけたらどう?」
「そんな事すると、あいつらは戸惑うばかりです」
「(˶˙ᵕ˙˶) けど、だまっていると、おーみやくんがモンモンとしてつらいよ?」
「いいんですよ」
「(๑′ᴗ‵๑) 本当かな?」
のほほんとしているが、どういう意味なんだろう。一見考えなしに言っているようで、実は含みがありそうだった。
「(*´ヮ`)ノ うふっ。まよっているなら、もっとアルバムを見てかくご決めようよ? そうしたら、歌のなぞもとけるかもしれないよ?」
他人事と思って、適当に言ってるのか? そう疑ってかかるが、先輩はそんないい加減な人ではない……はず。けどな、ますます袋小路に追い詰められるような気がする。
沈黙。今日の中庭は気温穏やかで、俺らの他にも友だちやカップルが、談笑に興じていた。鈍色の空気を醸し出しているのは、俺らだけだった。
俺自身、どんなつもりで発した言葉だろう。きっと辻さんを忘れたくて咄嗟に出たんだと思う。
「先輩……俺と付き合ってください。もうこんなの断ち切りたいです。辛すぎる」
「(◞ᾥ◟) ごめんなさい」
「⁉︎」
寺の鐘をついたような衝撃が全身を貫いた。頭から血の気が引いていく。間髪入れずに、俺の告白は無下にもはたき落とされたからだ。まさか……そんな……信じられない。俺への好感度カンストしているヒロインから、フラれるなんて……。万が一にも起こり得ないだろこんなの……。
「(◞ᾥ◟) 今おーみやくんは、のんたんでいっぱいなんだよ。だから、まいににげるんじゃなくて、ちゃんと気持ちに向き合おうよ?」
「そんな、先輩……俺……」
「(˘ω˘) ごめんね。おーみやくんのことは大好きだよ。けど、だめだよ」
言葉も出ない。自分では見えないが、とんでもない顔をしていただろう。先輩は、腕時計をチラッと見て――
「(* ॑꒳ ॑*) まい、もう行かなくちゃ。次いどう教室だから」
そう立ち上がった。そして、軽く俺の肩に手を置いてから――
「(´•ᴗ•) あまり深こくにならないで」
その台詞と甘い香りとを残し、去って行った。ピンクのセミロングは一際目立つ。『酷いや先輩ッ!』と恨み節の1つを吐きたくなるが、彼女にしてみたら、冗談じゃないだろう。辻さんの代替えとして、慰み者にされそうになったのだから。
「あっ」
何かを思い出した先輩は、トテトテと小走りで戻ってきた。
「忘れ物ですか?」
「(¯꒳¯) ど〜う〜ぶ〜つ〜……」
「???」
「Σ٩(ˊᗜˋ*)و ビスケットォ!」
意味不明の呪文を唱えると、先輩は俺の背中を強く叩いた。
「(' ᵕ˂̵˵) 今ので気合入れたよ? がんばってね⭐︎」
なにがなんだかわからなかった……。




