【e6m63】アルバムモード
「うわぁ⁉︎」
寝落ちから飛び起きた。ゆ、夢か……妙にリアルだったな。入水なんて冗談じゃない。てかあそこは、一緒によく川遊びした所で、脛の深さまでしかないんだ。
目を落とすと、さっきまで観ていたアルバムがあった。元々辻家にあり、先輩経由で返してもらった物だ。ページをめくると、叔父さん叔母さんが撮った写真が、几帳面に保存されている。
「辻さんのシーンを回想する特定アイテムって、これだったんだ……」
確かに腑に落ちる。なぜならギャルゲーで回想するのはアルバムモードだから。そして、ゲームよろしく夢で回想していた。次のページを開く。浴衣姿の俺と辻さんが、りんご飴を持って笑っている。
「これは……近所のお祭りだな。確か小学1年生だったか。櫓に止まったカメムシを、辻さんが素手で捕まえて、悪臭が余りにも酷いから、急いで帰宅、洗浄してまたやって来た。けどもう“後の祭り”で、不貞腐れたんだ」
次の写真は、近所の子ども達に混じって、俺と辻さんがピースしているが、俺の人差し指には包帯が巻かれていた。
「お隣さんのハムスターに噛まれた跡。床に滴る血を見た辻さんは、悲鳴をあげたな」
別の写真には、幼稚園バスから俺と辻さんが手を繋いで降りてくる様子が収められていた。
「ふふ……いつだったかな。『今日は父御が(送迎場所に)迎えにきますよ』と言った叔母さんに、辻さんは“幼稚園に迎えに行く”と勘違いして、帰りのバスに乗らなかった時があった。待ちぼうけした彼女は、日が落ちる頃、数キロを1人歩いて帰って、大泣きしてたな」
写真1枚1枚から、その時の思い出が生き生きと蘇る。俺さ、今まで辻さんの事をよく知らないってばかり思ってたけど、大間違いだったよ。単に忘れていただけだった。
「?」
その時、アルバムの裏表紙から、浅からず染めたる緑に、殊に白檀を深くしみこませたる薄様重ねが、ひっそりと出てきた。
さすたけの おおみやびとは あぢきなし えも名をよばじ
墨付き薄く、流れるような書体だが、末句に欠けている。要するに、“わ殿が詮じよ”というわけだ。ん? 何かの水滴らしきものが、紙の所々に落ち、ふやけた後乾燥している。お茶か何かをこぼした? いや、辻さんは、物を書く時、同時に別の事をやったりしない。
「時雨れていたのか……?」
本当はどうなのかわからない。俺の考えすぎかもしれないし、そうかもしれない。シンと静まる中、悶々と考えが過ぎるのだった。




