表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
大宮伸一は桜カレンにフラグされた。  作者: 海堂ユンイッヒ
208/212

【e6m62】夕暮れ時

 窓の外を見れば、空が不安になる程真っ赤に染まっていた。辺りからヒグラシの合唱が聞こえ、カラスが鳴きながら家路へ急ぐ。辻家の台所から、ご飯を炊く匂いが漂ってくる。

「あら、のぞみは? 一緒に宿題していないの?」

「うん」

「もう夕飯なのに困ったわねぇ……ちょっと探して来てくれないかしら?」

 そうお願いされたので、のんちゃんを探し始めた。駄菓子屋、長老水、菩提寺、小学校……どこにもいない。と言うか、誰一人いなかった。

 ふと仰げば、夕暮れ時になっていた。昼でも夜でもない曖昧な時間、怪異が起こりそうで、無性に不安に駆られた。のんちゃんから神隠しの類の話を聞かされていたから。

「のんちゃん! のんちゃ〜ん!!!」

 怖さ紛れに叫んで探すが、返事は無く、虚しく響くだけ。そくそくと一層不吉が暗示される。このまま何かに拐われるのでは? そして俺の存在など無かったかのように、みんな過ごすのでは……?

「あ……」

 土手の上に、女の子がちょこんと座っていた。間違いなくのんちゃんだった。急ぎ駆け寄り――

「もうごはんだよ? 帰ろう?」

「……」

 体操座りの顔を覗き込むと、神妙な顔付きで西日を見ている。もう薄暗いというのに。とりあえず横に並んで、俺も座った。

「どうしたの?」

「候もじは覚えておるか? (しょう)と契り結びしこと」

「契り? あ、うん。もちろん覚えているよ」

 夏の日、カブト虫を取りに行かなかった夜、弾みで結んだ約束だ。彼女は事あることに問うて来た。

「左様か。されど其の(ことば)華にして、実少く覚える。何につけても、胸乳、胸乳、胸乳。さる様にお心留めておりますな。辻風おびたゞしう吹て、桃の木(てん)倒せんとしても、あなあさまし、支えておるのは宮どのにあらずや。いわんや、小川遊び、車遊び、梢遊び、天下不朽の諠譁(けんか)櫻の御機嫌伺い、(おびただし)う気の多いお人をや」

 正直、何を言っているのか理解できなかった。けど既に涙数行(すこう)流れ、あたかも独り言のように呟いている。

「落ちゆく日の西に向かい、手を合わせ給へ」

 のんちゃんがそうするので、俺も真似をする。しばらくすると、彼女は立ち上がった。

「え?」

 大人のように背が高いのに驚いだ。彼女は俺の手を取ると、念仏を百返(ばかり)唱えつゝ、『南無』と唱る声と共に、川岸まで差し歩く。

「ちょ、ちょっとのんちゃん?」

「今世には本意なけれども、来世は必ずや添い遂げましょうぞ?」

 最後に目一杯の笑顔を見せ、言い終わるや否や、共に川へぞ入にける。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ