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聖夜は恋の雪に埋もれて  作者: 桜坂ゆかり
第3章 クリスマス・イブ
14/15

手紙

「Dear 奏&麗。…………これが俺たちからの、一足早いクリスマスプレゼントだ。覚えてるか、奏。俺は言ってただろ、麗に『大きな黒い時計』をプレゼントするって」

「ええっ!」

 奏がそこまで読んだとき、思わず驚きの声をあげてしまう私。

「どうかした?」

「だって、『大きな黒い時計をクリスマスプレゼントに』って、瑠璃も言ってたんだもん。奏へのプレゼントね」

「え?! 偶然、同じものになったのか!」

 瑠璃から奏へのプレゼントと、鉄平君から私へのプレゼントが同じって……そんな偶然、あり得るのかな。

 そもそも、「今日4時半まで用事がある」というのもそうだし、あの二人には偶然の一致が多すぎる気がする。

「ああ、途中だったよね。遮ってごめんね」

 私が言うと、奏は「気にするなって」と言い、再び読むのを再開してくれた。


「俺は言ってただろ、麗に『大きな黒い時計』をプレゼントするって。そこで、この店の名前を思い出してくれ。『グラン・オルロジェ』……大きな時計。そして、この店って、外観がおおむね黒だろ。まぁ、そういうことだ。麗と二人で、イブのディナーを楽しんでくれ。支払いは全部済ませてある。さすがに、あの金額分の料理を、二人だけで食べきるのは不可能だろうから、遠慮は要らない。そして、奏……瑠璃から全て聞いてあるからな。今夜こそ……分かってるだろうな? ああ、そうそう、それから。麗には言ってなかったから、伝えておいてくれ。ここのお店、俺の親父が経営してるってことをね。それじゃ、ごゆっくり。From 鹿里鉄平。かっこ……ここから後は瑠璃が書く……かっこ閉じる。……ね? 麗も覚えてるでしょ、大きな黒い時計。ちゃんと奏君にプレゼントしたのだ! こういう形でね。じゃあ、麗と奏君、二人っきりのイブを思う存分楽しんでね。From 渋宮瑠璃」

 手紙はそこまでだったようで、奏が言葉を切る。

 そしてつぶやいた。

「……なんだこれ」


 まさに、奏の言うとおりだ。

 奏と私が二人で食事できるように、鉄平君と瑠璃が気を遣ってくれたってこと?

 でも、それだと……鉄平君って、私の奏への想いを知ってるってことになるんじゃ?

 そして、手紙の中で、鉄平君が奏に言っている内容が、私には一部意味不明だった。

 訳の分からないことが多すぎ……。

 頭が混乱して、言葉が出なかった。

 私と同じく困惑した表情の奏が、口を開く。

「とりあえず………。あの二人が仲良しだということと、この場にやってこないだろうってことは分かったな……。いつの間にか、もう5時を回ってるし」

「ほんとだ」

 奏の言う通り、いつの間にか5時を過ぎたようだ。

「ま、まぁ……とりあえず何か注文するか。せっかくの厚意だし」

 曖昧な笑顔を浮かべて、奏が言う。

 私も賛成し、二人でメニューを見始めた。




 それからの私たちは、たわいもないおしゃべりをしつつ、フランス料理を堪能した。

 こんなに本格的なフランス料理は、生まれて初めて食べる。

 奏も私と同じらしく、私たちはお料理の話で盛り上がった。

 最近、奏と私の間には、何となく気まずいような空気が流れることがあったけど、お料理の話題のおかげで、そうしたものを感じずに済んだ。

 お料理と……そして、鉄平君と瑠璃に感謝しなくちゃ。

 こうして、イブの夜、奏と二人でお食事できたんだから。

 しかも、こんなにおしゃれなお店で。




「結局、あいつら、来なかったな」

 デザートまで食べ終わった後、奏が言う。

「まぁ、あの書き方だと……来ないんだよね」

 予想はできていた。

 すると、奏が言いにくそうな様子で言う。

「麗……。この後、予定あるか?」

「え? 別にないけど……」

「なら、また駅前へ行かないか? ああいうのって、何度見てもいいものだろ? 特に今日こそ、クリスマス本番って感じだし」

 私は驚いて声も出なかった。

 まさか、奏から誘ってもらえるなんて、思いもしなかったから。

「行く行く!」

 嬉しくて、またも思わず立ち上がって言う私。

「そんなに焦らなくても、イルミネーションは逃げないって」

 笑顔で言う奏。

 私は慌てて座ったけど、また顔が熱くなるのを感じた。

 恥ずかしい……。

 でも、誘ってもらえて、信じられないくらい嬉しい。




 私たちは、支配人さんに一言挨拶してから、お店を出た。

 すると、いつの間にか雪が降り始めていたらしい。

「また雪かぁ。路面が凍結すると危ないし、困ったもんだな」

 ふてくされた様子の奏に、すかさずツッコミを入れる私。

「え~。クリスマスイブに雪って、ロマンチックでしょ」

「ま、まぁ……それもそうか」

 なんだかんだで、素直に納得してくれる奏は、やっぱり優しいな。

「さーて、雪がひどくなる前に、見に行くぞ」

 そして私たちは駅前へと向かった。


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