クリスマスイブ、ツリー前にて……
駅前は、想像通り、多くの人で賑わっていた。
「やっぱり混んでるなぁ……」
「仕方ないよ。ああ、またあっちのツリーを見にいこうよ」
「おい、待てって。はぐれると困るから、ほら」
ツリーのほうへ向かおうとした私の手を、優しく握ってくれる奏。
奏と手を繋ぐなんて……小学校低学年のとき以来だ。
まさか、また繋げるなんて、思ってなかった。
心臓のドキドキが、耳のそばで聞こえてる気がするくらい、大きい。
「あ、ありがとう……」
「じゃあ、行こう」
そして、私たちはツリーのそばへと移動することに。
近くで見るツリーは、やはり綺麗だった。
あの夜、瑠璃と一緒に三人で見たときと同じで。
そういえば、あのときも雪だったっけ。
ちらっと奏のほうを見る私。
すると、奏と目が合ってびっくり。
慌てて、私は目をそらした。
「麗……」
奏が声をかけてくれた。
何だろう、いつもより声のトーンが重い気がする。
「どうしたの?」
心配になって聞いてみた。
「その……えっと……俺、ずっと麗のこと好きで」
「えっ」
「麗にとっては、こんなこと言われるの迷惑かもしれない。鉄平のことを好きかもだし。だけど、その……幼稚園ぐらいのときから、ずっと好きだったんだ」
私は言葉を失った。
これって……夢じゃないよね?
思わず、両手を使って、思いっきり両頬をつねって引っ張ってみる。
いたたた~!
夢じゃない……!
じゃ、じゃあ……ほんとに、奏は私のこと?!
う、うそ……。
「ぶっ……! お、おい……人が真剣に告白してるときに、変顔するなって。人の気も知らないで……。俺がどんだけ悩んだか……」
奏はふきだした後、なじるように言う。
「ご、ごめん。夢じゃないかなって……。その、私だって、ずっと好きだったよ。言い出せずに悩んだのも、私だって一緒なんだから……」
「えっ」
今度は、奏がびっくりした様子だった。
私だって、気持ちをひた隠しにしていたから、気づかれてなかったはずだし、当然よね。
「じゃあ……俺と、付き合ってくれる?」
真っ直ぐ私を見つめて、言ってくれる奏。
その顔を照らす、ツリーの電飾。
イルミネーションを背に、イブの夜、雪の中……。
このシチュエーションで、こんなことを言ってもらえるなんて……。
溢れる涙によって、急に視界がぼやけてきた。
「も、もちろん……」
溢れる涙が止まらなかったけど、声を振り絞って私。
すると―――。
奏は、私をぎゅっと抱きしめてくれた。
―――!
驚きと喜びが大きすぎて、声も出ない。
こんな風に抱きしめてもらえたのは……三度目のはず。
おはじき事件の直後、野良犬事件の直後、に次いで三度目……。
手を繋ぐことすらなくなっていたから、まさかこうしてもらえる日が来るだなんて、夢にも思わなかった。
私もそっと、奏の広い背中に手を回す。
雪降る屋外ということもあり、そのぬくもりがはっきりと指に伝わってきた。
「ありがとう……。奏、大好き」
「俺もだよ。ずっと、こうしたかった。もっと早く言えばよかった……ごめん」
「そんな……私こそ」
少しだけ身体を離した奏は、急にかがんで―――。
私の唇にキスしてくれた……。
キスしてもらえたのは……もちろん、初めて。
私にとってのファースト・キス。
奏に触れてもらった唇のぬくもりが、愛しい。
それから、しばらく、私たちはそうして身体を寄せ合い、イルミネーションを見て過ごした。
「ねぇ、いつから、私のことを?」
それからしばらく後、駅前のベンチに空きを見つけた私たちは、並んで座っていた。
そして、気になることを私が訊ねる。
「気持ちに気づいたのは、もう少し後だけど……多分、幼稚園の頃からだな。覚えてる? 俺が膝をすりむいて、水で洗ってたとき、麗がすぐに自分のハンカチで傷口を拭いてくれたこと」
「えっ?」
全く記憶がない。
そんなことあったっけ。
「その顔……さては覚えてないな」
愉快そうに笑う奏が続ける。
「まぁ、幼稚園児の頃だから、仕方ない。でも、俺にとっては、忘れられない出来事だったよ。思えば、あのときから麗のこと、好きだったんだろうけど……気づかなかったな、自分の気持ちに。で……麗はいつから?」
「おはじき事件からだよ」
きょとんとする奏に、私はその出来事について説明した。
「そんなことあったのか……。しかし、むかつくな、その先生。証拠もないのに、最低すぎる。麗がそんなことするはずないだろうが」
奏は、あのときと同じく、大いに憤慨してくれているみたい。
その様子を見て、また涙が溢れてくる私。
「もう泣くなって……。俺がそばにいるから」
「そんなこと言われると、嬉しくて涙が止まらないままだよ……」
すると、奏は少し困ったような笑顔に変わる。
「じゃあ、言わないでおく」
「ダメ。もっと言ってよ」
「じゃあ、言う。そして、キスもする」
またキスしてくれる奏。
ほんと、夢みたいだ……。
私はまた、思いっきり両頬を両手でつねって引っ張った。
うん、夢じゃない……!
「ぶはっ! おい、いい加減にしろ! せっかくの雰囲気を、まーた変顔で台無しにして……」
大笑いしながら奏は言う。
「だって~。夢じゃないか心配で」
「まぁ、俺は麗のそんなところも好きだけど」
ドキドキさせられっぱなしの私。
「私も、奏の全てが好き!」
そう言うと、今度は私から奏にキスをした。
すると、遠くで鐘の音が鳴り出した。
駅構内にある鐘で、8時を知らせているようだ。
思わず、またイルミネーションに視線を戻す私たち。
雪の中で輝くイルミネーションを見ながら、私は奏に身体を摺り寄せた。
【完】




