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聖夜は恋の雪に埋もれて  作者: 桜坂ゆかり
第3章 クリスマス・イブ
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クリスマスイブ、ツリー前にて……

 駅前は、想像通り、多くの人で賑わっていた。

「やっぱり混んでるなぁ……」

「仕方ないよ。ああ、またあっちのツリーを見にいこうよ」

「おい、待てって。はぐれると困るから、ほら」

 ツリーのほうへ向かおうとした私の手を、優しく握ってくれる奏。

 奏と手を繋ぐなんて……小学校低学年のとき以来だ。

 まさか、また繋げるなんて、思ってなかった。

 心臓のドキドキが、耳のそばで聞こえてる気がするくらい、大きい。

「あ、ありがとう……」

「じゃあ、行こう」

 そして、私たちはツリーのそばへと移動することに。




 近くで見るツリーは、やはり綺麗だった。

 あの夜、瑠璃と一緒に三人で見たときと同じで。

 そういえば、あのときも雪だったっけ。

 ちらっと奏のほうを見る私。

 すると、奏と目が合ってびっくり。

 慌てて、私は目をそらした。

「麗……」

 奏が声をかけてくれた。

 何だろう、いつもより声のトーンが重い気がする。


「どうしたの?」

 心配になって聞いてみた。

「その……えっと……俺、ずっと麗のこと好きで」

「えっ」

「麗にとっては、こんなこと言われるの迷惑かもしれない。鉄平のことを好きかもだし。だけど、その……幼稚園ぐらいのときから、ずっと好きだったんだ」

 私は言葉を失った。

 これって……夢じゃないよね?

 思わず、両手を使って、思いっきり両頬をつねって引っ張ってみる。

 いたたた~!

 夢じゃない……!

 じゃ、じゃあ……ほんとに、奏は私のこと?!

 う、うそ……。

「ぶっ……! お、おい……人が真剣に告白してるときに、変顔するなって。人の気も知らないで……。俺がどんだけ悩んだか……」

 奏はふきだした後、なじるように言う。

「ご、ごめん。夢じゃないかなって……。その、私だって、ずっと好きだったよ。言い出せずに悩んだのも、私だって一緒なんだから……」

「えっ」

 今度は、奏がびっくりした様子だった。

 私だって、気持ちをひた隠しにしていたから、気づかれてなかったはずだし、当然よね。

「じゃあ……俺と、付き合ってくれる?」

 真っ直ぐ私を見つめて、言ってくれる奏。

 その顔を照らす、ツリーの電飾。

 イルミネーションを背に、イブの夜、雪の中……。

 このシチュエーションで、こんなことを言ってもらえるなんて……。

 溢れる涙によって、急に視界がぼやけてきた。

「も、もちろん……」

 溢れる涙が止まらなかったけど、声を振り絞って私。

 すると―――。


 奏は、私をぎゅっと抱きしめてくれた。

 ―――!

 驚きと喜びが大きすぎて、声も出ない。

 こんな風に抱きしめてもらえたのは……三度目のはず。

 おはじき事件の直後、野良犬事件の直後、に次いで三度目……。

 手を繋ぐことすらなくなっていたから、まさかこうしてもらえる日が来るだなんて、夢にも思わなかった。

 私もそっと、奏の広い背中に手を回す。

 雪降る屋外ということもあり、そのぬくもりがはっきりと指に伝わってきた。

「ありがとう……。奏、大好き」

「俺もだよ。ずっと、こうしたかった。もっと早く言えばよかった……ごめん」

「そんな……私こそ」

 少しだけ身体を離した奏は、急にかがんで―――。

 私の唇にキスしてくれた……。

 キスしてもらえたのは……もちろん、初めて。

 私にとってのファースト・キス。

 奏に触れてもらった唇のぬくもりが、愛しい。

 それから、しばらく、私たちはそうして身体を寄せ合い、イルミネーションを見て過ごした。




「ねぇ、いつから、私のことを?」

 それからしばらく後、駅前のベンチに空きを見つけた私たちは、並んで座っていた。

 そして、気になることを私が訊ねる。

「気持ちに気づいたのは、もう少し後だけど……多分、幼稚園の頃からだな。覚えてる? 俺が膝をすりむいて、水で洗ってたとき、麗がすぐに自分のハンカチで傷口を拭いてくれたこと」

「えっ?」

 全く記憶がない。

 そんなことあったっけ。

「その顔……さては覚えてないな」

 愉快そうに笑う奏が続ける。

「まぁ、幼稚園児の頃だから、仕方ない。でも、俺にとっては、忘れられない出来事だったよ。思えば、あのときから麗のこと、好きだったんだろうけど……気づかなかったな、自分の気持ちに。で……麗はいつから?」

「おはじき事件からだよ」

 きょとんとする奏に、私はその出来事について説明した。




「そんなことあったのか……。しかし、むかつくな、その先生。証拠もないのに、最低すぎる。麗がそんなことするはずないだろうが」

 奏は、あのときと同じく、大いに憤慨してくれているみたい。

 その様子を見て、また涙が溢れてくる私。

「もう泣くなって……。俺がそばにいるから」

「そんなこと言われると、嬉しくて涙が止まらないままだよ……」

 すると、奏は少し困ったような笑顔に変わる。

「じゃあ、言わないでおく」

「ダメ。もっと言ってよ」

「じゃあ、言う。そして、キスもする」

 またキスしてくれる奏。

 ほんと、夢みたいだ……。

 私はまた、思いっきり両頬を両手でつねって引っ張った。

 うん、夢じゃない……!

「ぶはっ! おい、いい加減にしろ! せっかくの雰囲気を、まーた変顔で台無しにして……」

 大笑いしながら奏は言う。

「だって~。夢じゃないか心配で」

「まぁ、俺は麗のそんなところも好きだけど」

 ドキドキさせられっぱなしの私。

「私も、奏の全てが好き!」

 そう言うと、今度は私から奏にキスをした。


 すると、遠くで鐘の音が鳴り出した。

 駅構内にある鐘で、8時を知らせているようだ。

 思わず、またイルミネーションに視線を戻す私たち。

 雪の中で輝くイルミネーションを見ながら、私は奏に身体を摺り寄せた。




                 【完】


挿絵(By みてみん)

素敵なイラストは、まさきねむ様に描いていただきました。

(著作権はご譲渡いただいております)

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