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聖夜は恋の雪に埋もれて  作者: 桜坂ゆかり
第3章 クリスマス・イブ
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支配人さん

 歩いてきたのは―――。

 この前、バイト帰りに窓越しに見たことがある、あの体格のいいおじさんだった。

 柔らかな微笑みを浮かべている。

「失礼ですが、槙原奏様、上園麗様でしょうか?」

 バスの音域だと思われる、すごく低くて良い声で言うおじさん。

「ちょっと、おじさん。なんで、そんなにかしこまって、他人行儀なんだよ。『様』なんて、つけなくていいって」

 面白そうに笑いながら奏が言う。

 あれ?

 知り合い?

「奏君。私は今、仕事中なのだよ。あまり困らせないように」

「ははは。ん? どうした麗?」

 私が少しびっくりした様子をしているのに気づいたのか、奏がこちらを見て聞いてくれた。

「え? まさか……鉄平から、まだ聞いてなかった? 鉄平の親父さんで、このお店の支配人だよ」

「ええええっ!」

 鉄平君のお父さんだったなんて、初耳……。

 支配人なのは、大体想像がついていたけど。

「ほら、眉毛が濃いところとか、やたらとガタイがいいところとか……そっくりじゃん」

 言われてみれば、そうかも。


「これは失礼いたしました。いつも鉄平君には、お世話になっております」

 立って一礼する私。

「いえいえ、とんでもない。こちらこそお世話になっております。さぁさぁ、どうぞ、お掛けください」

 やや恐縮した様子で、おじさんが言う。


「で、おじさん。鉄平はどこに?」

 奏が聞く。

 おじさんの顔には、また微笑みが戻った。

「渋宮様と、うちのせがれより、伝言を預かっております」

 おじさんはそう言うと、一枚の紙切れを奏の前に置いた。

 どうやら、便箋のようだ。

「それでは、私はこれで」

 すぐにそう言って、一礼するおじさん。

 立ち去ろうとする様子のおじさんに、奏が声をかける。

「ああ、ちょっと待ってって! これ、どういうこと? 渋宮も鉄平も来られないの?」

「そちらを読んでください、とのことです。私は存じ上げておりません。それでは、ごゆっくり」

 おじさんはまたお辞儀をして、すたすたと歩き去っていってしまった。




「何なんだよ、まったく」

 不満げな様子の奏。

 私には不満はないけど、分からないことだらけ。

「とりあえず、その手紙、読んでみようよ。それ、手紙なんだよね?」

 私が促すと、奏は「ああ、そうだな」と言って、音読してくれた。


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