グラン・オルロジェにて
そして、翌24日―――。
冬期講習の授業を終え、いったん自宅へ帰った私は、支度を済ませて4時半には家を出た。
自宅から、レストランまでは10分ほどなんだけど、念のために少し早めに。
4時45分には、お店に入って従業員さんと話をし、17番テーブルへと案内された。
やはり、鉄平君はまだみたい。
4時半頃まで用事があるって言っていたから、まだ終わってないのかも。
私は、静かに待ち続けた。
やがて、5時まであと10分くらいになった。
鉄平君、まだかなぁ。
そのとき、お店のドアが開き、誰かが入ってきたみたいだ。
この席からは、衝立が邪魔で、誰なのか見えないけど。
「あれ? 麗?!」
私のいるテーブルに近づいてきたのは……。
鉄平君じゃなく、奏だった!
驚いたのは私だけじゃなく、奏も同じようだ。
「ええ?! 奏もここでお食事を?!」
ま、まさか……瑠璃と一緒に?
今、瑠璃の姿はないけど……後から来るのかも。
「うん、渋宮と一緒に」
うう……やっぱり、思った通りだ……。
偶然、同じお店で予約していたのね。
たしか、そういえば、瑠璃も鉄平君と一緒に、このお店でお食事したことがあったはず。
バイト帰りの私が、たまたま通りかかって目撃したあの日。
そうか、それでここのお店を気に入って、奏と一緒に……。
雰囲気もおしゃれだもんね、ここ。
「麗も渋宮に誘われたんだろ? しかし、渋宮には困ったもんだな。三人で、っていうのなら、事前に伝えといてくれよ。びっくりするだろ……」
「え? 私は……鉄平君と……」
「えっ? 鉄平も?! じゃあ、四人ってことじゃないか!」
呆れたように言いながら、私の向かいの席に座る奏。
あれ?!
「え? 奏、このテーブル?」
「うん、17番。渋宮が言ってたから、間違いない」
「じゃ、じゃあ……やっぱり、四人でってことなんだね。鉄平君も17番テーブルって言ってたし」
「午後5時に?」
「う、うん……」
そっか、やっぱりそうなんだ……。
でも、なんで、鉄平君は言ってくれなかったんだろ。
たしか、「二人で」ってはっきり言っていたはず。
しかも、瑠璃も同じように、奏には「四人で」ってことを内緒にしていたらしいし……鉄平君と瑠璃の考えが、全く読めない。
「しかし、それにしても遅いな、渋宮と鉄平。あと5分ぐらいしかないぞ」
腕時計を確認すると、奏の言う通り、まもなく5時だ。
「鉄平君は、4時半まで何か用事があるらしいし、少し遅くなる可能性はあるかも」
「え? 渋宮も同じこと言ってたぞ」
ええ?
二人揃って、4時半まで用事なんて……偶然?
「でも、5時までには来るって言ってたのにな……」
腕時計を見つつ、不満そうに言う奏。
「まぁ、まだもう少し時間があるから……」
「あ、そういや……。麗、これで本当にいいのか? 鉄平のこと、好きなんだろ?」
「え?」
突然、なんでこんな話に?
「二人っきりで過ごしたいだろうに、四人でって形になってもいいのか?」
「え? べ、別に、鉄平君とは、そんな関係じゃ……」
「でも、遊園地デートしてたでしょ」
「ええっ、あれはその……誘われて、断りきれなかっただけで!」
動揺のあまり、立ち上がってしまう私。
すぐ気づいて恥ずかしくなり、慌てて座りなおした。
そして、鉄平君ごめんなさい、こんな言い方をして……。
「でも、それは奏も一緒じゃん。あのとき、奏だって、遊園地デートしてたでしょ。瑠璃のこと、好きなんじゃないの?」
「いや、好きは好きでも、『友達として』な。俺が好きなのは、むしろ……。んん、何でもな………。あ……」
何かを言いかけたみたいだったけど、突然、黙った奏。
その理由は、私にもはっきり分かった。
誰かが、私たちのテーブルまで歩いてきたからだ。
奏と私は、一斉にそちらを向いた。




