イブにお食事のお誘い
そして、あっという間に、12月23日がやって来た。
瑠璃と奏の関係に、あれ以来進展はないようだ。
何かあれば、二人から教えてもらえると思うから。
そして……私のほうも、鉄平君にまだ返事をしていない。
ううう……ほんと、どうすれば……。
冬期講習の授業が終わった後、いつものように瑠璃と一緒に帰ろうとしていると、教室前にて鉄平君が呼び止めた。
「瑠璃、ちょっと麗を借りてもいいか? ちょっと話があって」
「あ、いいよいいよ。これから帰るだけだし。それじゃ、二人とも、また明日ね」
そう言うと、手を振って歩き去る瑠璃。
私たちも手を振り返した。
そして、鉄平君が言う。
「じゃあ、ちょっと、近所のカフェへ行こう。ついてきてね」
「あ、う、うん」
鉄平君に言われるがまま、後ろをついていった。
話って……やっぱり、告白のことよね……。
断らなくちゃ……早く。
「で、ちょっとお誘いなんだけど、明日の夜、予定あいてる?」
カフェにてアイスティーを注文し、席につくと、鉄平君が切り出した。
「あ、えっと、大丈夫だけど……」
まさか、奏と過ごす予定などはないから。
ほんとは奏と過ごしたいけど……。
「夜、二人で出かけない? あのお店で食事したあと、駅前でイルミネーションでも見ようよ。そういえば、麗と瑠璃と奏は、こないだ見たんでしょ。俺、実はまだ見てなくて」
あのお店っていうのは、きっとグラン・オルロジェだろう。
で……明日はイブ……。
イブの夜に二人で食事……そして、イルミネーションへ……。
恋人っぽい、すごく。
言葉に窮している私の様子を見て、困ったような表情で鉄平君が言葉を続けた。
「困らせてごめん。そりゃ、俺だって、まだあの告白の返事をもらってないってことぐらい、分かってるよ。でも、返事がどうとか関係なく、ただ一緒に過ごしたいだけなんだ。俺としては、明日一緒に出かけてくれるだけで嬉しい」
鉄平君ほど素敵な男子から、こんなことを言われるなんて……。
もちろん、嬉しくないはずがない。
でも……でも……。
私はやっぱり奏が……。
「あの、えっと……お返事、遅くなってごめんね……。えっと……」
「ああ、ストップストップ!」
なぜか慌てた様子の鉄平君。
どうしたのかな。
「今、告白の返事、『ごめんなさい』を言おうとしたでしょ。待ってってば。もう一度、明日一日でいいから、チャンスが欲しい。その後で、断ってくれてもいいからさ」
「え? いや……別に今、断ろうとかしてなくて……」
「あ、そうなの?」
鉄平君は苦笑いを浮かべる。
「まぁ、それはともかく。明日、何も予定がないのであれば、俺と一緒に過ごしてくれないか? もちろん、あの店で食事して、駅前のイルミネーションを一緒に見る……それだけでいいから。俺は、全力で、麗を楽しませるからさ」
笑顔で言う鉄平君。
私は悩んでしまう。
明日、瑠璃は家の用事があって、忙しいという。
そして、私には、奏を誘う勇気はない。
バイトもないし。
つまり、何の予定もない。
結局、寂しいイブになりそうだし……それなら……。
だけど、こんな気持ちで、鉄平君と過ごすなんて、失礼なんじゃ……?
「もし、つまらなく感じたら、途中で帰ってくれていいからさ。ダメかな?」
「ええっ?」
鉄平君、そこまで……。
そんなにまでして、私なんかのことを……。
そのときだった―――。
悩み続けつつ、窓の外に何気なく視線を送っていた私の目に、見知った二人の姿が飛び込んできた。
奏と瑠璃!
二人はこちらには気づかない様子で、何やら話しながら歩いている。
まさか、瑠璃は、奏と一緒に下校中?
そして―――。
奏が笑うのが見えた。
瑠璃は終始、笑顔のままだ。
そんな……。
ショックのあまり、何だかくらくらしてくる。
そして、自然と言葉が口をついて出た。
「うん、いいよ。明日、よろしくね」
「おおっ、ありがとう! 俺、こんなに嬉しい思いをするのは、久々だなぁ」
朗らかな笑顔を見せる鉄平君。
奏と瑠璃は、きっと明日のイブも一緒に過ごすんだろう……。
私にはどうすることもできない。
あの光景にショックを受けて、ついつい勢いで、鉄平君のお誘いをオッケーしちゃった。
それに、ここまで熱烈にお誘いしてくれてるのに、断りにくくて。
「じゃあ、明日、5時にこのお店でね。俺、ちょっと4時半頃まで用事があるんだけど、絶対5時にはここに来るから、待っててね。そうそう、17番テーブルに予約を入れておくよ」
「えっ、前日なのに、予約入れられるの?」
「ふっふっふー。麗は、俺がどこでバイトしているか、忘れちゃった? しかも、俺、バイト長だし」
バイト長……あのお店の中で、かなり偉いみたいに聞こえる。
高1なのに、すごいなぁ。
「え~、職権乱用じゃないよね? 大丈夫?」
気になって聞いた。
「大丈夫だってば。そんなことより……麗、しっかり覚えておいてよ。午後5時、17番テーブルだぞ」
「うん、了解」
それ以降は、雑談をして過ごした。
……ほんとにこれでよかったのかな。
奏……。




