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転生社不の更生録  作者: 弥生
第一章 「血染めの国と竜の導き手」
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第四話「初めての魔術講座」

「実技の前に、少し座学の時間をとりましょうか」


 そう言うと、メルトナは魔術のなんたるやについて説明を始めた。


「そもそもこの世界のあらゆる事象は、『火』、『水』、『土』、『金』、『木』という5つの属性いずれかに該当する性質を必ず持つ、と考えられています。

魔術とは、‘’魔力‘’の性質を五属性のいずれかへ変換し、かつ‘’呪文‘’や‘’魔法陣‘’を介することで、その属性の力を顕現させる行為です」


 魔力や呪文、魔法陣。改めて聞くとワクワクが止まらない。

 俺もそういうファンタジー要素は飽きるほど妄想した。


 ただ、属性は四大元素じゃなくて五行説から持ってきてるのか。そこは東洋風なんだ......。

 『火』や『水』『土』はまだしも、『金』と『木』ってなんだよ。


 疑問に思った俺はそのことについて尋ねると、


「『金』は‘’空間の秩序‘’そのものを意味します。具体的には切断や結界、あるいは転移などの空間を操作する魔術がこれに該当します。

『木』は‘’生命‘’に関するあらゆる概念を意味します。治癒や解毒のほか、昏睡や錯乱などの状態異常を引き起こす魔術がこれに該当します」


 とのことだった。

 なるほどね。独特な解釈をするじゃないか。


 その他にも気になったことをいくつか聞いてみた。

 まとめてみると以下のようになった。



 ・魔力というのはこの世界のあらゆる物質に潜在するエネルギーを指している。

 指向性を与えることで、五属性に応じた様々な現象を引き起こすことができ、人々は長い歴史のなかで、その指向性を与える手段について様々な案を考察してきた、らしい。



 ・属性には‘’相生‘’や‘’相剋‘’といった相性があるとのこと。

 また、人によって扱いやすい属性には多少の向き不向きがあるようだ。



 ・魔術はその規模によって4段階にランク分けがされており、昇順にそれぞれ下位、中位、上位、超位と呼ばれている。

 ただし下位に関してはあまりその名で呼ばれることはなく、その系統の最も簡単な単位であることから『基礎魔術』と呼ばれることの方が多いようだ。



 ・その『基礎魔術』が下位ではなく、中位あるいは上位などに該当する魔術も一部存在する。

 前者を『初等魔術』、後者を『高等魔術』と呼ぶらしい。



 ・魔術の発動の際に唱える呪文はランクが上がるごとに長いものになるとのこと。

 例えば土属性のラド系の場合、


 ラド→ラドルク→ラドガロン→ラディエンテ


 と変化していくようだ。随分とドラ〇エチックな格変化である。

 また、よくある呪術的な文章の詠唱は基本的に必要としないが、出力向上や指向性の付与を目的として唱えられる場合があるらしい。



 ・一般的には護身術として下位魔術を会得しているだけでも十分とのこと。

 下位魔術は生活魔術としての汎用性も高いようだ。

 より高みを目指したいなら攻撃力に長けた中位魔術の習得を最終目標にするといいらしい。

 それよりも上、上位魔術は相応の時間や労力をかけないと習得すら困難で、

 最上位の超位魔術に関しては御伽噺の領域であり、生涯を魔術の探求に捧げた者が、何十年とかけてようやく習得できるレベルなんだとか。


 

 なんとなく概要を理解したあと、講義はついに実技の部へ移った。


「今回お教えするのは『ヴォル』という火属性の基礎魔術です。

小さな火を生み出すだけの、ごく初歩的な術になります」


「先生、よろしくお願いします」


 いよいよ、だ。

 最初はウキウキしながら聞いていた座学も、途中で飽きて眠気がきてしまっていた。

 が、今はそんな眠気もすっかり吹き飛び、期待のあまり身体がこわばっている。


「ふふ、良い心意気ですね。

ではまずは、身体に宿る魔力を感じ取るところから始めましょう」


「魔力を、感じる──?」


 随分と抽象的な話だな......。

 ひとまず目を閉じて、自分の身体の中へ意識を向けてみる。

 

 血流。

 心臓の鼓動。

 呼吸。

 筋肉の感覚。


______当然、それ以外に何かあるようには思えない。


「力を抜いて。身体の中心、臍のあたりに意識を集中させてください」


 見かねたメルトナがそう助言した。

 その言葉に従い、俺は目を閉じたまま腹の真ん中あたりへ全神経を集中させ、それ以外の身体の感覚を遮断した。

 すると──


______()()()()()が、臍のあたりから湧き出ているのを感じた。

 血液とは違う、もっと曖昧な()()が。


 それだけではない。

 腹の中心に、第二の心臓かと言わんばかりの、鼓動をしているような感覚があった。


「感じましたか?──それが、魔力です。

身体の中心から全身へ巡り、またそこへ戻っているのです」


 これが──魔力。

 漠然とだが、確かに自分の中に何かが存在しているのが感じられる。


「では、その感覚を手のひらへと集めてください」


 言われた通りに、俺は臍のあたりにある微かな熱を、今度は胸へと押し上げる。

 すると、不思議なことに、それに呼応するように熱が移動した。


 胸から肩へ。

 肩から腕へ。


______本当に、動いている。


 目には見えない。

 それでも、自分の意志で確かに何かを動かしているという感覚があった。


 やがてそれは右手の手のひらへ集まり、宿る熱はその温度を増していく。


「こう......?」


 なんて言っても、目に見える動作ではないのだから、伝わらないだろう。

 だが、彼女はまるで俺とその感覚を共有しているとでも言わんばかりに、


「はい。その調子です」


 と返した。


「そのまま、頭の中で小さな灯火を思い浮かべてください。

そして、こう唱えるのです。──『ヴォル』と」


 俺は右手に集まった‘’熱‘’を留めることに意識を半分、

 頭の中に蝋燭のような、小さな炎を思い浮かべることに、もう半分を割いた。

 そして──


「‘’ヴォル‘’」


 そう唱えた直後、手のひらに集めた熱が急速に失われていく。


「──っ」


 熱だけではなく、意識までそのまま一緒に流れていきそうな感覚がしたので、俺は気を確かに保つ。

 手のひらに宿っていた熱が完全に失われると、俺はそのままゆっくりと目を開けた。

 すると。


______手のひらの先に、小さな橙色の光が灯っていた。


 ほんの、豆粒ほどの小さな火だった。

 息を吹きかければ、揺らめきながらすぐに消えてしまいそうなほどに。


 それでもその小さな光は、俺に確かな感動と達成感を与えていた。


「素晴らしい、成功です。

一度で成功させるのはかなり才能がありますよ」


 え、マジすか。

 才能、アリだって。なんだ、完全無力じゃなくて磨けば光る系主人公だったか。


「その『ヴォル』を、そのまま薪のもとへ動かしてみてください」


「動かす......?」


 と、言葉ではそう疑問にしたものの、

 少し意識してみれば、顕現させた『ヴォル』は自由に動かせるのがわかる。

 まるで神経が通っているかのようだった。

 

 俺は思うがままに『ヴォル』を薪に這わせる。


「お上手です。操作の方も問題ないようですね」


 点火に成功したかと思うと、そのままプツリと接続が途切れ、俺の『ヴォル』は独立した。


______そうしてゆっくりと時間をかけ、ぱちぱちと音を立てながら薪から薪へと燃え移り、

 やがて小さな火は燃え盛る炎へと姿を変えた。


「──メルトナ、ありがとう」


 そんな光景を眺めながら、俺は感謝の意を彼女に伝えた。


「いえ、私はきっかけをお伝えしただけですよ。

ここまでできたのは、チハルくん自身の力です」


______胸の奥から、ジワリと何かが込み上げてくる。

 

 狂暴な魔獣を倒したわけでもない。

 誰かを救ったわけでもない。


 ただ、小さな灯火を点けただけだ。

 それだけのことなのに。


______もっと、何かをしてみたい。

 そんな‘’喜び‘’が、俺の中に密かに芽生えていた。 


※ ※ ※ ※ ※


 調理を開始してから10分ほど経過した。

 魔獣肉の表面にはこんがりとした焼き色がつき、赤紫色の果汁がその表面に艶やかな照りを作っていた。

 ところどころに焦げ目が浮かび、肉汁を含んだ表面からはまだ白い湯気が立ち上っている。


 鼻をくすぐるのは、焼けた肉の香ばしい匂い。

 そこへミルエカの甘酸っぱく爽やかな香りが重なり、先ほどまで感じていた血生臭さはすっかり消えていた。


「そろそろ、頃合いですね」


 メルトナはそう言って鍋から肉を取り出すと、傍に置いていた二人前ほどの大きな皿へと移した。


______魔獣肉のミルエカ漬け、完成である。

 見た目こそ少々野生的ではあるものの、食欲をそそる匂いは一丁前だ。


 恐る恐る、ナイフを入れる。

 刀は思いのほかすんなりと肉へ沈んでいった。

 切り分けた一切れを口へと運ぶ。

 

「──いただきます」


 まず口の中に広がったのは肉の旨味。

 野性味のある濃厚な味わいだ。

 それでいて獣肉特有のクセは、後から追いかけてくるミルエカの甘酸っぱさが綺麗に包み込んでくれる。


「お味の方はいかがでしょうか?」


「──これ、本当に魔獣の肉なんだよな?

正直もっとバッチいものを想像してたんだけど......十分すぎるくらい美味しいよ」


「あら、それはよかった。お気に召したようで何よりです」


 添加物に脳をやられた現代っ子にとって、異世界料理は受け入れがたい味なのが定番だが、

 少なくともこれは、俺が元の世界で食べてきた肉料理と比べても、決して見劣りしないものだった。

 気がつけば、さっきまでの警戒心などすっかり忘れて、俺は無言で次の一切れへと手を伸ばしていた。


 ちなみにメルトナの方はというと、

 背筋は自然に伸び、口元を汚しそうな気配もなく、咀嚼の動作さえも、どこか上品だった。

 彼女の所作を見ていると、どうにも自分の食べ方が雑に思えてきて、俺も少しだけ姿勢を正した。

  

______不思議なものだ。

 少し前まであれほど心を追いこんで自殺した俺が、今は異世界の森の中で、魔術を教わり、綺麗な女性と食卓を囲んでいる。


 余裕で風邪を引ける温度差だ。

 でも、今はただ、この妙な非日常感が心地よかった。

設定の説明回は筆が乗りますね。笑

次の話くらいから不穏していくつもりです。

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― 新着の感想 ―
ここまで読みました。 魔法の設定が私の作品とも近くて、親近感が湧いたのが今現在の感想です。 設定もものすごくこだわりがあるようで、見習いたいと思いました。 主人公のチハルかどのように社不から抜け…
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